魔女の愛した永遠【第八話】

 それから数ヶ月が経ったある日のこと。私は藤色の瞳を黒く染め、人間に変装して街へと向かった。私が敷地の外に出る機会は非常に少ないが、どうしても調べたいものがあり、出かけることにした。

 というのも、私の館を訪れる人間の数が増えており、少し面倒だと感じていたからだった。

 犯人は私ではないが、気が立っている人間から事件の全容を聞くことは難しく、誰も私と話し合おうとはしてくれないためだった。

 もちろん、不在時に館を燃やされるようなことがあってはいけないから、私が不在になると館の外は霧深い迷いの森へと変貌する。私の可愛い獣たちが侵入者たちをお出迎えするのだ。

 私は図書館を探した。最近発行された新聞をまとめて読むにはここが最適だと考えたからだった。

 直接、人に聞くのもいいが、顔立ちを変えても男には口説かれることが多く、女からはやっかみから邪険に扱われることがあった。

 催眠によって思い通りに情報を引き出すこともできなくはなかったが、意外性のない会話は私の望むところではなかった。

 街を探索すると、こじんまりとしてはいるが、地元の図書館なんだと分かる建物の標識が立っていた。

 私は中に入り、複数の新聞が一冊に閉じられて置かれている閲覧室を探した。奥まった個室が目的の場所のようだった。

 冊子を手に取り、見出しを確認した。探していた記事はすぐに見つかった。というのも、どの新聞社も同じ事件を取り扱っていたからだった。内容は以下の通りである。

“ここ数ヶ月、全身から血を抜かれ、乾涸びた状態の変死死体が頻繁に発見されている。その場所は森や人気のない脇道だけでなく、地下水路や工場跡地等多岐に渡っている。
 捜査本部が立てられたが、今のところ事件に使われた凶器や被害者たちの共通点も見つかっておらず、捜査が難航している。
 また、寝室で隣に寝ていた家族が亡くなっていたケースもあり、新たな感染症や東洋の魔女の呪いではないかという話が人々の中で飛び交っている。”

 おおよそこのようなことがどの記事にも書かれていた。

「なんて酷い。」

 私は口を震わせて言った。

「本当にひどい事件よね。」

 と同じテーブルに座っていた女が話しかけてきたが、私が起こっているのはそのことではない。もし私が犯人だとしたなら、無差別に人を殺すような真似はしない。それはきっと愛する人のためであり、あるいはこれから私を愛してくれる誰かのためである。

 そしてそれは必ず、私からのメッセージであることが伝わるようにより芸術的で洗練された私であることが分かるような方法を選ぶだろう。

 なんて、なんてひどいことを人々は言うのかしら。私は意気消沈しながら館に帰ることにした。途中、見たことない装飾や香水を手に取って買い物をし、荷物を即席の土人形に持たせて歩かせた。人間にはこの子が私に相応しい見た目の紳士に見えるはずだった。

 ひとしきり見て回った頃には気分も上向いていた。

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