- 運営しているクリエイター
2022年3月の記事一覧
魔女の愛した永遠。【第一話】
あぁ、私の手には今日も、何も残らないのね。
黒く煤けた自分の手を見つめ、悲しみさえ枯れてしまったような空虚な気持ちが湧いてくる。
明かりの消えた暗い部屋で私はうずくまっている。足元には先ほどまで見知らぬ男として立っていたものが、灰になって山となっていた。
「なぜ、皆死んでしまうのかしら。」
私が呟くと、月と星々に照らされ、夜風にはためくカーテンの先で見知らぬ女の声が聞こえた。なんと
魔女の愛した永遠【第二話】
あの夜からどれだけの時が流れたのだろう。気付けば幾百日の月日が過ぎ、時代は何度も新しく名前を変えていった。
今日も望まぬ訪問者が私の邸宅の扉を開け、ロビーへと入ってきたようだった。
もっとも、人の手ではとてもではないが押し開けることのできない大きな扉は、私の魔法によって来客が来れば勝手に開くようになっている。
私は左右の壁に沿うようにして延びた大階段の上から、こちらを見上げる紳士に、
魔女の愛した永遠【第三話】
湯浴みを終えた私は決して私を傷付けることのない炎によって髪を乾かし、白に黒いスパンコールで複雑な模様を描いたドレスに着替えた。
静かになったロビーへともう一度足を運ぶ。無残な男の死に様を、私の目で確かめなければならない。私のために散っていった瞬間を水晶越しに愛でるのだ。どれだけ儚くても、その力が及ばず死んで行く男どもは常に美しかった。
扉を開くと、私は驚愕で口を閉じることができなかった。
魔女の愛した永遠【第四話】
私は男を食堂へと誘った。途中、カラスが私の肩に止まり、夕食のリクエストを催促する。私はカラスの足に括り付けられた紙を解き、指で文字を書いた。それは焦げ目となって浮かび上がり、数行のメモとなった。
そのメモを丸め、カラスに差し出すと片足で掴んで飛び立った。カァカァと鳴き、離れていく黒い鳥を見て男は言った。
「君はなんてすごい人なんだ。愛しい魔女。私ではあんな風に飼い慣らせないよ。」
「飼い
魔女の愛した永遠【第五話】
ディナーを楽しんだ彼は出会った余韻に浸るようにそのまま家路に着いてしまった。
もっと側にいたい、私の試練にどこまで耐え得るのか確かめたい。後ろから矢を射りたくなる衝動を覚え、そのような非礼を働くことによって明日はもうここに来てくださらないのではないかという不安が正面衝突する。
これでいいのだ。耐え難い時を過ごす方が、これから始まる二人にしか分からぬ苦しみの中にある快感がより激しく燃え上が
魔女の愛した永遠【第六話】
明日の朝には会いに来てくれるものと思っていた愛しい人が屋敷に訪れたのは、初めて会った日から一週間も経ってからのことだった。雲ひとつない空に夜の帳が落ちた頃、彼は現れた。
「あぁ、愛しい人。なぜ会いに来てくださらなかったの?」
駆け寄るようにして近づくと彼は言った。
「この胸の炎が冷めてしまわないか確かめる必要があったからです。」
彼は私の手を取り、その甲に口づけををした。
「貴女は
魔女の愛した永遠【第七話】
だけどやっぱり彼はそれからしばらく私の前に現れることはありませんでした。
二ヶ月もすれば東洋の魔女にももう戻って来ないのだと分かりました。
愛しい人は死んでしまったのね。今度こそは本物だと思っていたのに残念。もっとも、本当にそんなものがあるのか、今では大変疑わしいものだけれど。
私は自嘲気味に微笑んだ。手に持ったグラスには私が生まれた時と同じ年号のワインが注がれている。もうこの世には
魔女の愛した永遠【第八話】
それから数ヶ月が経ったある日のこと。私は藤色の瞳を黒く染め、人間に変装して街へと向かった。私が敷地の外に出る機会は非常に少ないが、どうしても調べたいものがあり、出かけることにした。
というのも、私の館を訪れる人間の数が増えており、少し面倒だと感じていたからだった。
犯人は私ではないが、気が立っている人間から事件の全容を聞くことは難しく、誰も私と話し合おうとはしてくれないためだった。
魔女の愛した永遠【第九話】
帰路に着くと思いがけない人が門の前に立っていた。
「愛しい魔女。お待たせして申し訳ありませんでした。」
そこには、花束を持った男が立っていた。何ヶ月も前に私の手で地面埋めてしまった男だ。
私は驚いた。驚きのあまり、従えていた土人形たちの呪いが解けて、品物をいくつかダメにしてしまったくらいだった。
「あぁ、愛しい人。生きていたのですね。」
「まだ私に貴女と時間を共有する資格はございま
魔女の愛した永遠【第十話】
あの方が出てくるまでに着替えてしまわなければ、と思い階段を登っていくと、この敷地の中に大勢の人間が入ってくる気配を感じた。
なんて間の悪いことでしょう。久しぶりの再会だというのに、邪魔者がやってくるなんて。
私は階段の1番上まで上がり、玄関口からガヤガヤと入ってくる民衆たちを見下ろした。
「私の屋敷にどのようなご用向きかしら。夕食時に来るなんて迷惑でしかないわ。」
「黙れ。東洋の魔女
魔女の愛した永遠【第十一話】
夕食を食べ終わり、私は彼に明日また来てくださるようお願いした。
大勢の来訪者があり、土人形たちが忙しなく掃除をしていたから落ち着かないだろうと思ったのだ。
そして私は自室にある書棚の中を調べていた。ずっと遠い昔に忘れ去ろうと心に決めた記憶。その場所へ彼を連れて行きたいとそう願った。
もしかしたらこれまでのように数ヶ月、彼が来ないかもしれない。それならそれでよかった。この身も焦がれるよ
魔女の愛した永遠【第十二話】
翌日、彼は約束通り私の元へ訪れた。私は彼を連れて屋敷の奥にある庭園へ向かった。
私は自分の目と同じ藤色のドレスを着ていた。いつも着ているような派手で露出の多いものではなく、手首まで袖があり、足元も少しくるぶしが出る程度の控えめなものを選んだ。
「そのようなドレスも大変お似合いですね。」
「ありがとう。今日は貴方に見せておきたいものがあるの。」
庭園の中は下を見ているとそこここに小道の
魔女の愛した永遠【第十三話】
数百年ぶりに両親の墓参りをした後、私たちはそこここで愛し合った。愛しい人もまた長い月日を孤独に過ごしていたのであろう。その肌は熱く、重ねられた唇は常に貪るように、だけど決して私を傷付けない強さで、何度も何度も私の中を蹂躙した。
私はこの人の名前を知らない。どこから来て、なぜこの館を訪れ、私のどこに惹かれ、側にいることを決めたのか、私は知らない。
だけど確かなことは、彼は決して死なず、冷め
魔女の愛した永遠【第十四話】
名無しの魔女は事切れた二人の亡骸を眺めていた。
とてもとても呆気ない最期を遂げた同胞に弔いの言葉をかけることもなかった。私の手で殺したのだから、当然といえば当然と言えた。
ねぇ。なぜ貴女が魔女になったか知っているかしら。貴女が森で遊んでいる姿を見た時、一目で恋に落ちたの。久しく感じていなかった淡い想いは、貴女と永遠に過ごしたいとさえ思わせたわ。
だから、貴女が熊に襲われたあの日、咄嗟