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「ただ、居る、だけ」をつくりあげること

居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書

東畑開人著(医学書院)



この本はカウンセラーの東畑さんによって書かれた本で、「居場所」について考えた人、居場所について傷ついたりした人、とかくみんなにおすすめすることができる本だ。居場所、ケアとセラピー、カウンセリング。これらを肌触りな質感をもって語り伝えることって、この世の何人ができるだろうか。居場所をつくるということは何か、人をケアするってなんだろうと、考えるきっかけをズカズカくれる超面白い一冊だった。そして、最後の大どんでん返し(ディープな話題)までの伏線が素晴らしすぎるので、出来るだけネタバレしないようにする。読み物としても、考えるきっかけとしても、超面白い。必読。


随筆的に日常が表現されることで、筆者の悩みや思考が共有される。そしてケアとセラピーとはなんなのか、ぼくたちは居場所をどのように捉え、作っていけばいいのかについて考えることができる。

まず、京大博士課程卒のエリート臨床心理士(カウンセラー)はさまざまな葛藤を経て沖縄のデイケア施設に鼻息荒く就職する。そして、「とりあえず座っておいてくれ」という一言をきっかけに「ただ、居る、だけ」を行い、そして利用者の「居る」を支えていく。デイケアを支えるためには、悩みを引き出して変化を生み出す「セラピー」より、悩みにフタをして変化を生み出さない生活を維持して「ケア」する大切さに気づく。


最後には「ただ、居る、だけ」をつくるということ、「ただ、居る、だけ」を受け取るとは何か。この資本主義社会で「ただ、居る、だけ」をどのように扱っていけばよいのかについて記されている。「ブラックデイケア」や「津久井やまゆり園」の話にも触れられている。ただの、沖縄のデイケア随筆ではない。読んでのお楽しみ。


この本で、声を大にして伝えておきたいことを2つあげておく。

1.東畑さんが最高すぎる

著者の性格が最高だ。沖縄に行けば居場所はないし、転職したことも後悔しちゃったりもするし、利用者や同僚の一言とかにとにかく振り回される。でもそこで振り回されるだけでなく、「居るをつくる」ことはどういうことかを考えて、「居る」のメカニズムを考え、解き明かしていく。物語終盤ではいろんな事件があるけど、動揺もありつつ冷静に行動できるように成長していく。この、筆者の野心家感とメンタルの弱さ、そして周りの人たちとの熱量などが生々しく、心地よい。ぼくも割と拗らせていて、もがくクセがあるので、こうやって「ぐぬぬ感」をもつ人のことは大好きだ。


2.誰しも経験のある居場所という概念について、深めてくれる

この本は「ただ、居る、だけ」と「ケア」と「セラピー」を解き明かした本なのであるが、このことって、論理的には超スッキリ理解できちゃう話だ。すなわち、中学に入るくらいになれば、誰かの居場所をつくることはあっただろうし、誰かに居場所を作ってもらったこともあるはずだ。そして誰かに悩み相談を持ちかけて、論理的な答えを受け取ったこともあるだろうし、心が折れたことを時間で解決したこともあるはずだ。ケアやセラピーの定義はわからないけど、実体験から、その効果もなんとなくわかる。だから、この単純なことを、感情を抜きにして理解することは、簡単だ。でも言えることは、この本のストーリーにどっぷりつかったほうが、それは深く、心に刻んで理解できるということ。すなわち、「ただ、居る、だけ」をここまで素晴らしく語るためには、最高のストーリーと随筆と論考を用意してくれたことに大感謝。

最高の読書体験でした。おすすめです。



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