読了まとめ 2023下半期

谷川俊太郎/はるかな国からやってきた
多分いちばん有名な「生きる」、初めてちゃんと読んだかも 個人的には「ぼく」のかわいさと「知られぬ者」の「みちあふれた情熱のしかし愚かな傲慢を さびしいことを忘れた人から順々に死んでゆけ 知られぬ者ここに消ゆと」がめちゃめちゃ刺さった

香月日輪/桜大の不思議の森
この人の作品は何を読んでもやっぱりとても好きだなあ、と感じる。桜大を主人公とした同じ世界線でのSS連作で、少し不思議で怖いほのぼのとした黒沼村の生活がメインに描かれている。「月がとっても青いから」「落ち葉」「神が通る」「漆黒」が個人的に好きだった

国立国語研究所/日本語の大疑問
誰かバズらせてたよね!?わたしそれみて本借りたいんだけどめちゃめちゃ面白いし大学の授業とリンクしてて楽しいありがとうバズらせてた人 ありがとう国立国語研究所 あとドイツ語が母語の人の説明が面白かった 第二外国語で取ってるから

神様の罠
芹沢央「投了図」、大山誠一郎「孤独な容疑者」、辻村深月「2020年のロマンス詐欺」、この三つが好きだったな

小川洋子/猫を抱いて象と泳ぐ
まずタイトルと本文のリンクがとても綺麗だなあと思った。チェスを全く知らない人間にも奥深さや綺麗さ、そしてその楽しさを教えてくれるような物語で、世界がとても狭くてとても広いのが良かった。

シャネル・ベンツ(訳:高山真由美)/おれの眼を撃った男は死んだ
感想を言うのに「最高」以外の言葉があるか?いや、ない。 そもそも前提として、帯の「生きて、死んで、それだけなんだ。」という文が最高である。この帯を作った人に全力で拍手をしたい。全10篇からなる短編小説で、後書きから言葉を借りると、「犯罪小説集」である。
全篇において暴力と犯罪、死、そして往々にして理不尽や弱者と強者の非情な関係性などが描かれている。過去に書かれた小説を作者が注釈している──ように描かれた小説もあり、その技巧には舌を巻くとしか言いようがない。机に積もった砂を払うときのようなざらざらとした不快感や徐々に壁が迫り来るような圧迫感もあるが、それすら話を読み進めるための興奮材料に変わる。自分の趣味に凹凸のようにぴったりハマったと言うのは言うまでもない事実なのだが、それをおいても作者の文章力に驚嘆させられた。
洋書に不慣れなために何度も何度も振り返り振り返り読んだが、それを抜きにしても最後まで読んだあとに再読したくなる小説であると断言出来る。読んでいくうちじわじわと自分の中のえもいわれぬ熱のようなものが上がっていき、興奮で頭がおかしくなるかと思った。シャネル・ベンツの小説は一冊しか日本で出版されていないのか。人に勧める際に少しの躊躇いもなく勧められる。最高の小説である。色々書いたがこれに回帰する。最高の小説である。間違いなくわたしの名刺は更新される。題名だけ見て絶対に面白い!と購入を決めた過去の自分を褒め讃えたい気分である。

まさきとしか/祝福の子供
ラストに向けての怒涛の展開が凄かったとしか言えない。様々で数の多い登場人物がありつつも、これは誰だっけ?となることがなく、ストレスがなかった。この人の本、特に母と娘の関係性に関するところでいつも心の柔らかい部分をぐりぐりと抉られるような気持ちにさせられる。これは私の生育環境にも関わってくるんだろうが、気持ちをぐちゃぐちゃにされつつもサスペンスとしての面白さに引き込まれてどんどん読んでしまう。個人的には一番最後の「育てるしかないんじゃない」「演技もいつか本物になるかも」というところが言いたかったところなのかなあ、と思った

恒川光太郎/雷の季節の終わりに
最初は一人の視点で、途中から二人の視点、過去と現在が交互に書き表されていく。眉を顰めたくなるような不快感もありつつ、怖さと冒険、暖かさに満ちている。夜市の時にも思ったが、ホラーではありつつ心が暖かくなるような部分もあるのがとても魅力的だ

上枝美典/神さまと神はどう違うのか?
面白かった。「はじめに」の文章が個人的には好きで、その中でも「西洋哲学の予備知識はいっさい必要ありません」などの、第一章の直前の文章で少し気が楽になる心持ちだった。 また、本当に知識がなくてもいいように手を替え品を替え、例を出し段階を踏んで、噛み砕いて説明してくれている。
わたしは全くもって西洋哲学も、また西洋宗教に関する知識もないのだが、行きつ戻りつしつつなんとか読めた。行きつ戻りつしたのはわたしが哲学的文脈、というか考え方?に慣れていないからであって、読み慣れた人ならもっと軽く読み進められたのだろうとおもう。冒頭にあった「何が気になっているのかよく分からなくてモヤモヤしている人が、自分が気になっていることに気付く最初の一冊となることを願ってです」とあるように、個人的には自分の疑問の一端を掴めたような気がする。少なくとも、授業でマタイの福音書の表層に触れた際の疑問に対してのアンサーがいくつか掴めた。「がある存在」「Ω」などやはり難しいところはいくつかあったが、それでもかなり読みやすく、知人に勧めたくなる本だった。

梨木香歩/家守綺譚
大卒の物書きである主人公が早世した友人の家に住むところから始まる話。その家の庭にある植物を話の中心にした、30篇の連作短編集である。植物そのものとのやりとり、植物の影に隠れた怪異、植物をメインとはしない話などバラエティに富んでいてとても面白かった。好きな話だ。
個人的にはサルスベリの健気さと、最初は困惑していたもののサルスベリを気にかけるようになっていく主人公が良い。家の管理を任されて僅かながらお金も貰ってるのに、家の中に蔦を這わせてしまう主人公の適当さもまた良い。隣のおかみさんとゴローも好き。多分舞台は明治大正辺りかな……
主人公は売れない物書きらしい怠惰と持って回ったひねくれを持っていて、とても読んでいて、なんというか、良い気分になる。皮肉の見え隠れする高堂も、なにやら仲裁役で名を轟かせているゴローも、怪しげな怪異に関する知識に詳しく、一般常識と称する山内と隣のおかみさんもすべてがよい。
>もの悲しいような熱のとれた風が吹いてくる。さすがに夕暮れともなると、晩夏は夏とは違うと気がつく。 すごく好きな結びの文だった。この主人公は芯がしっかりあり、分からないことを分からないこととして受け入れ、そして他者を慮る優しさを持ち合わせていてとても好感をもてる。

異形コレクション ヴァケーション
休暇ひとつ取っても多種多様な話があって、厚さとは裏腹にするすると読み終わってしまった。篠たまき/記憶の種壺がめちゃめちゃ良かった 肉感が生々しくて あの エロかったです、なあ!?みんなもそう思うと思います

ユ・ソングン/古本屋は奇談蒐集家
ソウルで古本屋を営む作者が本探しの依頼を受ける際に手数料として依頼者から聞く話をまとめたもの。29編あり、翻訳の軽妙さや、世界の本が様々出てきて、韓国のことを知らなくても楽しめる。書三痴(調べても出てこないので韓国の言葉なのかも)のくだりなど本好きであれば共感できるくだりもあり、古本屋に訪れてみたくなった。
>──と書いてみて、どこかで見たことのある文だなと思った。しかし構わぬ。太陽の下に全く新しいものなど存在しないのだから。ちなみにたった今書いた文も、とても有名な本からこっそりいただいた。もう、どうしようもないのである。新しい文が全然思いつかないときは、他の人が既に書いたものを再利用するのが楽なのだ。☜元からこのちょっと気の抜ける軽妙な文なのか、訳者の妙なのか分からないけどすごくいい書出し

千早茜/赤い月の香り
小学生ぶりに、家に帰るまで続きを待てず電灯の下で立ち尽くして読んでしまった。調香師と、その香りに惹かれる男、様々な香りを中心として物語は形成されていく。淡々と進んでいくようで静かに燃え上がる部分もあり、題名の通り赤い月/香り が印象深く、作中何度も登場する。この感情を表す言葉を私は持たない。椅子に深く沈み込んで目を閉じたいような気持ちと、手を突き上げて声を上げたいような興奮を読み終わった今、同時に抱えている。

恒川光太郎/滅びの国
ある日、日本にプーニーという謎の生き物が誕生する。それを食べればプーニー化し、耐性のないものは近づくだけで死ぬ。解決策として「核」の近くにいる男に目をつけるが── プーニーに犯されていく現実と、「核」が作り出す想念の世界で幸せな生活を送る主人公が交互に描き出される。 個人的には後味が悪い中に希望を見出して終わるラストがすごく好きだった。

石田衣良/うつくしい子ども
>あんなに明るくて正しい光に、とてもぼくは耐えられない。
少女を殺害したとして弟が逮捕された、植物好きの"ジャガ"と新聞社に務める若手記者の山崎、この二視点が一人称と三人称で交互に描かれていく。ジャガは弟の犯行動機に興味を持ち、友達とクスノキの下で集まりながら研究を深めていく──というのが概ねのあらすじ。一言で言えばやり切れない話だった。もちろん殺人がある以上明確な悪として断ずるのは簡単なのだが、それらが複雑に渦巻いている。やり切れない、なんとも言えない気持ちになる話だった。

乙一/死にぞこないの青
巻末の「好きにやっていいと言われたから好きに書いた」の言葉が恐ろしい 好きで書いたのか……これを……
今更ながら、内容としては最下層になりたくない、敵意や不満を向けられたくない教師がひとりの子供を、クラスの全員の共通の敵かつすべてのゴミ箱にして、それがエスカレートしていく話

ミック・ジャクソン/こうしてイギリスから熊がいなくなりました
イギリスから絶滅した熊に関する寓話集。薄い本だが皮肉とユーモアを交えて熊を人間的に描いている。内容としては重たいものがあるが、語り口が軽妙なため軽く読めた。個人的には後書きの、イギリスの過去の動物虐待の方がキツい

小野寺拓也、田野大輔/ナチスは「良いこと」もしたのか?
ナチスは虐殺をした、程度の知識しかなかったが、その程度の知識でも分かりやすく読めた。最初に「良いこと」と言われてる事象と言われる理由を提示して、次に明快な反論を示すというやり方が読みやすく、分かりやすくてよかった
知識がなかったのでナチスのしたことに絶句しっぱなしだったのと、あと良いこと「も」した、の「も」に思いを馳せてしまった

小野不由美/過ぎる十七の春
ゴーストハントの熱心なファンなので、典子の明るい生意気さや、家系にまつわる話を過去帳を遡って紐解いていくスタンスに海から来るものを思い出してしまった。ただ、この話には怪異のプロは居らず、対象になった少年二人、そして猫が共に立ち向かう。
やはり小野不由美の小説は風景や家、間取りに関する描写が緻密で大好きで怖いな、と思う一方、「小野不由美のホラーにおける怪異は多くの場合、曖昧模糊とした不条理な存在ではなく、一定の超自然的ルールに則ったシステムのようなものだ。」朝宮運河のこの書評に深く頷いた。
曖昧模糊で人の論理など飛び越した存在も好きだが、小野不由美のこの、怪異が論理的に紐解かれ、なおかつ怪異側が明確な絶対悪ではない、きちんと過去のあることを示す描き方が好きだ。

千早茜/透明な夜の香り
二作しか読んだことのない人間の印象だが、千早茜の文章からはいつも透明さとすきっとした冷たさ、芯の強さを感じる。このシリーズ特有の雰囲気なのだろうか。並外れた嗅覚を持つ調香師、朔と、朔に出会った人々の人生の欠片を覗くような話だった。

木古おうみ/領怪神犯2
前作の過去編。昭和、正反対の男二人のバディ、底の知れないふわふわしてみえる女性民俗学者。死んだ人と会える橋、首から上が炎にすげかわった村人、そして世界を根幹から揺るがす装置のような神。わたしの性癖詰め合わせかと思った。 前作を読み返したくなった。読み返そうと思う。

佐藤弘夫/日本人と神
山岳信仰は古代からのものではない、から始まり、原初の信仰/神のイメージから近代まで順番に辿ってくる本。元来の論に大きく翻ったものらしいが、私はそもそも元来の論をよく知らないのでとても新鮮に読ませていただいた。語り口調はとても読みやすいが、事象の変遷をきちんと追うには紙かなにかに整理して読んだ方が良かったかもしれない、と途中で思った。

石井研士/魔法少女はなぜ変身するのか? ポップカルチャーのなかの宗教
幅広い年代の幅広い作品を取り上げて中身に言及しながら、様々な角度で作品が含有する宗教要素について論じている。その読みやすさもさることながら取り上げている作品の幅と数がものすごい。中身に言及しているものだけでも両手にはとても収まらないし、例示、類例として名前を上げているだけの作品も含めたら数百にのぼるのではないだろうか。取り上げて具体的に言及している作品には全て目を通しているというのだから驚きだ。
勝手な思い込みでアニメや漫画などに元々興味のある若い人が書かれてるのかな、と思っていたが、特にそういったものを趣味とするわけでもない還暦の方だと言うのだから驚いた。
メディアミックスが複数展開しているもの、話数が多いもの、アニメ漫画興味のない作品も含めて目を通し、しかもただ目を通すだけでなく研究対象であるからメモなどを取りながら、だ。この数の作品、原作だけでなくメディアミックスなども参照したと思うと熱意に頭が下がる思いである。ポップカルチャーに表出する宗教について論じたものであるので宗教そのものについての解説のようなものはないし、なくても問題なく読めると思うが、宗教に関する知識があるともっと楽しめるのではないかと思う。

日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1
この中で一番好きだったのは森山東「お見世出し」。舞妓さんが語る自分のお見世出しのいわく付きの話。小林泰三の玩具修理者は面白い面白い読め読めと言われてはいたが、噂にたがわず面白かった。すごかった。
あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」、全然わかんなかった 面白くなかった訳ではなく、なにかどうなってどうなった?という気持ち 眠い時に読んだから?


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