作るのは好きだが食べるのはそうでもない
世の中の料理をする人の多くは、自分が美味しいものを食べるために作っているのだ、と気が付いたのは、割と早い時期だった気がする。
いや、違う、分かるのだ。その感覚も。
わたしも、あれが食べたいな、と思って台所に立つことは少なからずある。あれが食べたい!という抗いきれない強い衝動に突き動かされてしぶしぶと立ち上がり、冷蔵庫を覗くことは、ある。食にあまり興味があるとは言えないが、どうせ食べるならおいしいもの、今食べたいものを食べたいと思う。
そうなのだが、そうではなくて。
なんというか、特に自分の食事を作る際に顕著なのだが、視覚情報と匂いで食欲が満たされてしまって、作り終えた頃にはもういいや、となってしまうのだ。
お菓子作りに関しては、そもそも私はお菓子があまり好きではないから尚更。
甘いものも基本的に食べないし、スナック菓子はあれば食べるが、一袋を食べきれることはめったにない。よく売っている四連くらいに連なった、小さな袋入りのやつがお気に入りだ。
そもそも根本的によっぽど空腹でない限り何かを食べたいと思わないのだから、お菓子のような、間食に類するものとは相性が悪いのだと思う。
でも、お菓子作りは好きだ。気持ちが塞いでいるときに無心で粉を混ぜるのも好きだし、バターを練るのも、唸りながら熱を加えるオーブンの前に座ってじっと見つめる時間も好きだ。いい香りがする。お菓子作りの醍醐味はホイッパーに残ったメレンゲや、ヘラに付いた生地を少しつまむことだ、という気もする。
なにより、上手にできると嬉しいし、楽しい。これは料理もそうだ。
私の八つ下の妹は食べるのが大好きで、また、よく食べる人間だった。隙あらば食事を抜く私とは違い、隙あらばなにか食べている。胃の容量を比べても、ミニチャーハンの私に対して、妹は一人前ずつのラーメンとチャーハンのセット。もちろん食べる分私より体も大きいし体力もある。力も強い。試してみたい!と言った小学生の妹にお姫様抱っこされたときは愕然とした。
そんな妹に、これ食べる?と聞いて食べる!と返ってこない日はなかった。だから私は安心してお菓子作りに臨めたのだ。
キッチンカウンターに置いておけば、妹がいつの間にか空にしてくれているから。
その妹は、数年前、両親の離婚と親権の分離に伴い、わたしと生活を別にすることになった。
それで困ったのは私である。お菓子作りは息抜きだ。趣味と言ってもいい。しかし、わたしはお菓子がそこまで好きではない。そもそも物を食べることに幸せを感じない性質だし、あまり沢山食べる方では無いから、どうしても量が出来てしまうお菓子作りと相性が悪い。通学しているのも登校日数が極端に少なく人間関係の形成されない通信制だから、学校で友達におすそ分けするなんてことも、出来ない。
困った。困った、と思いながらも当初は気にせず作っていた。が、まあ減らない。当然だ、父も私もお菓子はあまり好きではない。
甘いお菓子があまり好きではない、少食気味の人間の二人暮しにクッキー、マドレーヌ、フィナンシェ、パウンドケーキ、ダックワーズとお菓子のストックが出来ていく。期間を空けて作っても、そもそも消費するのに時間がかかるから一ヶ月開けた程度ではなくならない。
それならば、と学習して朝ごはんなどにできるパウンドケーキを作ることにするも、それもまあ減らない。向こう側が見えるほどの薄さにしたパウンドケーキを二枚ほど朝ごはんに時折食べるが、減らない。冷凍庫を占領され続けて一か月、二か月。すっかりお菓子作りとは疎遠になってしまった。
しかし時は変わって今、私はお菓子作りを再開している。大学のサークルの同期全員が他人の手作りに抵抗がなく、甘党で、ダイソンのような吸引力の胃袋を持っている。最高である。こうしてわたしのお菓子作りの腕が上がっていくのだ。
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