見出し画像

愛さえ、残るのなら【深海の街/ユーミンニューアルバム】

年末らしさをあまり感じないままではありますが、今年も暮れていこうとしています。

本当に不自由な1年でした。
多くは語りませんが、私も、読んでいただいている皆さんにも、大きな影響があったことでしょう。

そんな1年の締めくくりに、私の大好きなアーティストであるユーミンが、4年ぶりのニューアルバムを発売しました。

「深海の街」
歴史に残るであろう「2020年」の記録として、ユーミンが、自身の想像力に挑んだアルバムです。
社会情勢が動くような事件と向き合ったとしても、曲を作るうえでは、あくまでも淡々とした日常を描くユーミンだからこそ、私も直面しているこの状況を、どのようにアルバムにしてくれるのか、発売前からとても期待していました。

ここからは実際にCDを手に入れた後の、個人の感想です。
結論から言うと、ぜひ色んな方々に聴いていただきたいアルバムなのです。

2020年だからこその「トータルアルバム」

ユーミンのアルバムは、収録曲全体を通して貫くコンセプトのある「トータルアルバム」を強く意識されています。
特に今作は、ユーミン公式YouTubeに「深海の街」に込めたメッセージ動画がアップされていますので、試聴もかねてご覧いただきたいと思います。

愛しか残らない、という力強くもあり、虚しさも感じるようなメッセージは、まさにこのアルバムを表していると思います。

特に、この記事でぜひ紹介したい曲が、3曲あるのです。

「1920」100年の営み

一曲目は、1920、という年号のみのタイトルです。
この年は、スペイン風邪が流行するなか、アントワープオリンピックが開催された、なんとも今年を思わせるような年です。

ちょうど今、オリンピックミュージアムにて、アントワープオリンピックに関する展示会も行われています。

アントワープの静かなオリンピック
空席だらけのコロシアム

オリンピックらしからぬ静けさは、この時代の空気感として、象徴的に描かれます。

私は、オリンピックとは、歴史と個人の生活が交わるイベントだと考えています。
開催地が決まるまで、決まってから、そして現在、オリンピックを取り巻くニュースが、生活に溶け込んでいくのを肌で感じました。

そして、歴史の一方にいる歌詞での主人公は、恋人との約束に想いを馳せます。

セピア色した写真の中の
恋人たちが語りだす
やがて彼女は群衆にもまれ
彼の船に手をふった

かならず 帰る きみのもとへ
もっと強くなって

世の情勢に翻弄されながら、市民が抱く愛の約束。
ピアノを主体にした抑え目なアレンジもあり、美しく、悲劇を思わせるようなストーリーを思い描いてしまいますが、約束はずっと繰り返されてきたことです。

それは変わることのない
あと100年経っても

1920年までの100年でも、そして今現在でも、世の中がどうであろうと、途絶えなかった営みがある事実は、ある種の救いになるでしょう。

「ノートルダム」愛の行く末

ノートルダム大聖堂が大規模な火災にあい、世界に大きな衝撃を与えたのは、2019年でした。
ユーミンも、今年への布石のような出来事だと考えているようで、2曲目にかなり大きく取り上げています。

見なれた河畔の橋の向こうで
鐘が鳴り響いた

それは 残酷な愛の始まり
それが 宿命とも知らずに

一曲目の1920で、愛の営みが不変だと歌い、次の曲では、その悲劇性について、よりフォーカスされています。

重なる白骨を引き離すとき
砂になって崩れる

それは 美しい愛の結末

ユーミンの曲だということに驚いてしまうほど、暗い歌詞です。

「ノートルダム・ド・パリ」がモチーフだと言われていますが、例え、死という結末であっても美しい愛の結末なのだということ。

2020年という異常な年にあって、愛があれば良い、大丈夫、というような安易なエールを送るユーミンではありません。

これまでも愛が繰り返され、そして時代がかわっていく。
時代の変化に、個人が大きく関わることは難しくとも、後悔することのない愛を貫くことを託されたのだと感じました。

かならず また会える またどこかで
あなたを待ってる この胸に
いつまでも 消えない

歩きだそう 歩いてゆこう 歩きだそう
誰もいないこの世界を 歩いてゆこう

今は、積極的にだれかと会える状況ではありませんし、孤独を受け入れなければならないときもあります。
それでも歩き続けること、なんどもリフレインされるこの歌詞が、奮い立たせてくれます。

「深海の街」脳内リゾートの冬

最後に紹介するのは、アルバムの最後の曲であり、アルバムタイトルにもなった、深海の街です。
ジャケットの、潜水服で求め合う二人は、まさに「深海の街」というタイトルに相応しく、緊急事態宣言下の誰もいない街をも、想起させます。

ただし、この曲は2019年に発表されたものであり、脳内リゾート、というアルバムコンセプトを象徴する曲になるはずでした。
結界としては、ご存知のとおり状況は一変し、リゾートというコンセプトは大きく変わってしまいました。

夜の街を揺蕩う感覚、都会的で落ち着いたサウンドは、これまで紹介した曲とはかなり違う趣きがあります。
でもタイトルがここまで現状にあってしまうのは、ユーミンのなせる巡り合わせとでもいいましょうか……。

ここで、私の話になってしまうのですが、燃えるような恋愛をしているわけではない私が、このアルバムで提示される「愛」について、割とすんなり受け入れることができたのは、この曲の存在が大きいです。
それは、不安な日常にあって、様々な脳内リゾートが救ってくれたからだと思います。
音楽や映画で想像を別世界に飛ばしたり。
なにより、リモートで知り合いと他愛もない話をしながら、笑いあったことはとても思い出深いです。
これも、愛と呼べるものなのだと思います。

飛んでゆく 渾身の
ストロークに乗って
弧を描く 繰り返す
飛沫を奏でる
何ひとつ阻むものはない

脳内は、阻むものがない世界です。そこに逃げ場があることに気づくことが重要です。
また、100年前にはなかったネットという技術に載せて、繋がることはできます。
そう考えると、もう少し踏ん張れる、のかもしれません。

まとめ

自分の中で、まだ聴き込みが足りない部分もあり、感想としては散らかっていますが、どうしても、書かずにはいられませんでした。

このアルバムは、応援歌と呼べるような、ポジティブなものではありません。
でも、恐れを巻き込んで次に進んでいける推進力は確かに感じました。
それは、ユーミンが、歴史に脈々と受け継がれた愛があることを断言してくれたからだとおもいます。
まずは1920とノートルダムの2曲を聴いていただきたいです。
そこから深海の街は、愛を持って迎えてくれます。

愛しか残らない、でも、愛さえ残るのなら、歩き続けていけるのでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?