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道草

 8月中旬、自家用車で札幌市内から国道231号線を北上する。石狩河口橋を過ぎて石狩川と並ぶように走ると、聚富(シップ)川という小さな川を渡る。間もなく左手に乗馬クラブの看板が見えてきた。この夏3回目の乗馬体験だ。

 コロナ禍のおり、観光業支援策「どうみん割」で庶民的な値段で乗馬ができるのを知り、回を重ねている。2回は、小樽市春香町の乗馬教室でのリバオントレッキングという、山麓を登り降りし川を渡る体験だった。今回は石狩川河口の浜を歩くシーサイドトレッキングである。

 ここには、春香町とは違って本格的な乗馬設備があり、20頭以上の馬がいる。指導員の指示に従って専用の乗馬ズボンとチョッキを着て、ヘルメット、手袋を着けた。前の教室ではヘルメットを被っただけだった。

 厩舎で自分の乗る馬に挨拶をする。優しげな栗毛の牡馬だ。馬場で待っていると、馬具を着けた馬が来た。口に手作りの湯切りの金網のザルみたいなものを被せられている。道端の草を食べないようにしているのか。春香町では使っていない装具だった。
 馬は乗り手が油断すると、道をそれて好物のイネ科の草などをほおばるので、馬になめられないよう手綱捌(さば)きが重要だと教えられた。馬側は乗り手の腕前を見抜くという。馬の視野は350度あり、乗っている人の挙動が目に入るのだ。当日の体験者は6名だったが、甘くみられた人は、実際行程で顔に手をやるだけで、道草を食もうと脇へ連れて行かれていた。

 説明を受けながら馬場を何周かして、互いに慣れたころ海へ向かった。道中の田んぼでは稲穂が緑の頭を垂れている。ススキやハマナスが群生している荒野を抜け石狩湾へ出た。なれない乗馬服を着ているから、背中に大汗を掻いていたが、眺めと潮風は心地よかった。
 前日の雨で少し濁った石狩川河口の浜から北へと波打ち際を歩いていく。波と砂浜の際が、砂が締まっているので最も歩きやすいという。が、馬は水際から離れたがり、足場の悪いほうへ寄る。水を怖がる馬もいるので手綱捌きがものをいう、と指導員が振り返って言う。肩の力を抜いて手綱を引く。長く歩いて、旧知津狩川の河口前でUターンした。

 「道草を食う」という言葉の通り、馬は時間さえあれば道端の草を食むというイメージがある。好物の草を目にしたら、口の網ががなければ食べに行きたいのだろうなと思いつつ、帰り道、カヤ、ヨシやハギなどを探して、辺りの草原に眼がいってしまう。

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