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第58回 皇子誕生。物語の完成。

寛弘5(1008)年9月11日正午、ついに中宮彰子は産気づきました。
そして僧達の読経の中、男皇子の誕生が高らかに宣せられたのです。
「何と幸運な方たちなのでしょう。中宮様も道長様も」
香子は思いました。覗くと彰子は安堵した表情で香子をにっこりと見ました。道長はもう狂喜乱舞です。
香子はまた道長から呼ばれました。
「二ヶ月後の先だが、中宮様は宮中へ還啓される。その時に土産として『源氏の物語』を持って行かせたい。完成させてくれるかな?」
頼みこむような道長の表情に、香子は頷いてしまいました。
「さあ、大変だわ」
宮中へ上がるまでに須磨・明石の帖までは書いていました。須磨から光源氏が戻ってきて出世。朱雀帝は退位し、源氏と藤壺の秘密の子、冷泉帝が十一歳で即位します。六条の御息所は伊勢から娘と共に戻ってきて死の前に、娘である斎宮を頼みます。しかし「あだめいた関係にはしないでくれ」と釘を刺します。
二十歳の斎宮は美しそうで食指が動きますが、藤壺と相談して、年上ではあるけれど冷泉帝に入内させようという話になりました。しかし一つ問題がありました。上皇となった朱雀院が一度伊勢に出立の時に挨拶にきた斎宮に執心だったのです。それを源氏が藤壺に言うと、藤壺は「知らなかった事にして入内させなさい」と強気に言います。「人間は変わるもの」母となった藤壺はとても強い女になっていました。・・・とにかく香子は一応大団円に持っていかなければならないと思ってました。(続く)

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