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第37回 物語の製作

宣孝が亡くなって早や四十九日も過ぎ、6月の半ばとなり、京の都はすっかり蒸し暑くなっていました。
一人娘の賢子はまだ数えの3歳。頑是なく亜語を話していましたが、心なしか亡き夫の明るさを受け継いだ感じがしていました。

本当にする事がないので、香子が父の蔵書を見ていると、心無い侍女達が
「また奥様はあんな漢文を読んでいらっしゃるわ。だから不幸なのだわ」
「おんなが学問したとて何のいいこともございませんのに」
と聞こえよがしに言っています。香子は聞こえないふりをしながら憤っていました。
「馬鹿な!そんな女達がいるから、いつまでたっても男達が好き勝手するのよ」
得意の琴を弾いていても、宣孝が「琴柱(ことじ)を倒せよ」と雨の降る夜優しく心配してくれた事を思い出してまた悲しくなるのでした。

そんな夜、宣孝の亡き正妻の子、隆光から手紙が来て、亡き人の話を語り合いたいというので香子は入れてしまいました。義理の息子と言っても一つ年下です。
思い出を語り合う内に夜が遅くなったので、隆光は強引に泊まってしまいました。そして何とその夜、皆が寝静まった時、香子を襲いに来たのです。
香子は必死に抵抗し、隆光はすごすごと帰っていきましたが、その後に香子に閃くものがありました。
「義母を慕うという話は本当にあるのだわ・・・」
(続く)

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