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第45回 中宮彰子との出会い

中宮彰子に、ある女官が香子の紹介をしました。
「宮様、藤式部が参っております」
「まあそれは。近くに寄こして下さい」
そうやって香子は、後ろから嫉視の中、最前列におずおずと出されました。
彰子は明るい声で言いました。
「貴女があの『源氏の物語』を書いた方ですのね。藤壺と源氏の君の立場はまるで私と敦康のようですね」
18歳の彰子は母倫子とよく似ていて小柄でした。そして勿論母以上に美しいと香子は思いました。ほおずきの様にほんのり桃色にふくらんだ頬が可愛く、髪も手入れされていて艶があり長く黒々としていました。

香子は平伏して答えました。
「めっそうもございませぬ。すべて私の絵空事にございます」
中宮の温かい言葉に、香子はまた一段と厳しい女房達の視線を感じました。嫉妬で渦巻く宮中ー父からも聞き、自らの物語にも書いてきたけれど、実際に何とも言えない恐怖を香子は感じたのでした。
そんな時、
「お上(かみ)のお出まし」との先触れがありました。(続く)

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