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第65回 空蟬登場

香子には「夕顔」ともう1人、温めてきた登場人物がいました。それが「空蟬」です。
東三条院に初出仕してから3日目の夜、道長にレイプされた事は忘れる事ができません。あの時の驕慢な道長の態度。何とか蝉の抜け殻のように脱出する事ができたなら、と思いました。あの時の事を暴露するのです。

空蟬の容貌は、「瞼が腫れぼったく、鼻も曲がっている。およそ不美人の類に入るがそこはかとなく魅力がある」-これは香子の自画像ではないかとよく言われています。それに受領の妻という身分も同じでした。
これを読んだら道長も苦笑する事だろうと香子は思った事でしょう。

光源氏17歳の夏。夕顔に出会う少し前の事と設定されています。
雨夜の品定めで「中流の女が良い」という話を聞いた後、方違えで伊予の介の邸に行きます。伊予の介は任地に行っており、留守です。そこの若い後妻の噂を聞いていた源氏は、横の部屋に夫人が寝ているのを知り、掛け金がかかってないのを良い事に夫人を盗みだし犯してしまいます。

更に、夫人の弟小君(『源氏物語』にはよく弟が出てきます。紫式部にも惟規という弟がいました)を使って手引きをさせようとしますがうまくいきません。
また方違えに行った日、継娘と囲碁を打っている夫人を見ます。そこで前述の容貌が出てきます。継娘は若く豊満な体をしているとあります。

夜中、また小君を使って夫人が寝ている部屋に案内させます。途中、老女房が、源氏を背の高い女房「民部のおもと」と間違えるのが面白いです。
しかし近づいて、焚き染めた香で夫人は気づき、薄衣を残して立ち去ります。暗闇の中で近づいてきた源氏。一人寝ているのを確かめてまさぐるとどうも様子が違います(笑)大柄なのであの継娘の方だと気づきます。
継娘も気がつきますが、早速源氏は「貴女に逢いたいために何度も方違えに来たのですよ」と出まかせを言います。どの口が!と思いますね。

そして今度は源氏は小君を召して「お前だけは裏切らないでおくれ」と意味深な事を言って共寝します。
面白いのは、空蟬は拒否している様で、源氏を秘かに想っている事です。
もともとは中納言の娘、しかし父が亡くなり、受領の後妻になってしまった今。昔の身の上ならばと涙して、空蟬は歌を詠みます。
「空蟬の羽(は)におく露の木(こ)がくれて しのびしのびにぬるる袖かな」-空蟬の羽に置く露のように、木陰に隠れて人目を忍んでな、涙に袖が濡れることよ。

後で、香子は答え合わせをします。
第16帖「関屋」
源氏29歳の秋、石山寺へ参詣途中の源氏は逢坂の関で、任国常陸から帰ってきた空蟬一行と巡り合います。懐かしくなった源氏は、大人になった小君を使って手紙のやり取りをします。
夫が亡くなった空蟬は義理の息子から言い寄られ(よく使うストーリーですね。香子の経験も含めて)出家してしまいます。
尼になった空蟬を源氏は二条東院に引き取ります。
一度関係した女は最後まで面倒を見るという源氏を描いているのでしょうね。
香子は、「空蟬」の帖を「夕顔」の前に配置しました。

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