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第48回 空蟬の基盤

香子は、用意された部屋でとろとろと眠っていました。しかし何か体をまさぐられているのに気づきました。
『まさか・・・男!?』
高価な香りに、香子はすぐ道長だと分かります。にんまりとした顔が近づきます。
「お人違いを・・・」香子は抗いました。
「ずっとお慕いしてたのですよ」道長は臆面もなく言います。
「ご冗談を。こんな定過ぎた女を・・・」
「日本一の才女とはどのようなものかと・・・それに私は何をしても許される身なのですよ」
「どなたか!」
「誰も助けに来ませんよ」
そうして道長は、逃げようとする香子の黒髪を掴み、強引に犯したのでした。

事が終わって、道長は「それではまた・・・」と言って去っていきました。屈辱で涙が溢れてきました。近くから屏風越しに「くすくす」と何人かの女の笑い声がしてきます。
自分の局に戻ろうとしましたが、広い邸内、よく分かりません。すると
「こちらへ・・・」と小柄でなよなよとした細く若い女性が導いてくれました。
朝になって、持って来られた朝餉に箸もつけられず、「お時間ですよ」という女房の声に香子は正月三日の歌会に出ました。ほとんどの者が昨夜の事は知っているのだろう。
香子は歌会が終わると、「月の障りが急に出まして・・・」と明らかな嘘を言って退出し、逃げる様に堤邸に戻りました。
「母上様!」八歳になったばかりの娘・賢子が出迎えました。どことなくやはり亡き夫に似て、大柄で明るい子になっていました。
父為時が心配顔で来ました。弟は出仕しています。

二ヶ月の間、香子は出仕しませんでした。
「今度は逃げおおせるわ。薄衣を脱いでも・・・」
『空蟬』・・・この体験を、いつか物語に入れてやろう・・・そう思う香子でした。(続く)


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