見出し画像

第66回 末摘花

「夕顔」「空蟬」と来て、何か光源氏の失敗談の様になってきたので、香子はもう1人登場人物を考えました。
堤邸に戻った時に古書を読み返してみて、『古事記』に「石長比売(いわながひめ)」というすごい醜女が出てきて醜女を貰った方が幸せになるという話がありました。『物忌みの姫君』という物語では、深窓の姫君と思って忍び込んだ公達が姫の余りの醜さに慌てふためいて逃げてしまうという話もありました。

「これだわ!」香子は閃きました。
絶世の美男子、光源氏がとんでもない醜女と契って、翌朝気づいて愕然とする。
「どんな醜い女性にしようかしら?」
香子は、痩せぎす、ぞうのような鼻そして鼻の先が赤い女としました。
鼻が赤い事から、源氏名は「末摘花」としました。赤い花だからです。

「若紫」の帖の次に配置し、源氏が18歳の時。乳母子の大輔の命婦という女房から「零落した悲劇の姫君」がいるという話を聞きます。何か芥川龍之介の「六の宮の姫君(出典は『今昔物語』」の様な感じですが、あちらの方が後ですね。

「常陸の宮の姫君」-常陸というだけで、当時は少し見下していた様です。
その頃はもちろん夜訪ねるので、ほとんど真っ暗。琴も余り上手でなくやり取りもいまいちですが、源氏は逢瀬を果たします。

しばらく行かなかったのですが、常陸の宮が父を亡くし、家の経済も良くないというので援助がてら、19歳の正月の頃久々に源氏は行きます。
そして翌朝、雪が積もっていて、「こちらにおいで」と言うと、育ちの良い末摘花は素直に出てきます。そして末摘花の醜女ぶりを見てしまって呆然とする訳です。
源氏はしかし「あの様に醜くては誰も相手にはしまい。私が世話しよう」と経済的援助をします。
そして二条院で引き取ってまだ少女の若紫と戯れている時、わざと朱を鼻の先につけて「私がずっとこうだったらどうする?」と言い、若紫が本気にして「嫌です、嫌です!」との会話は完全に末摘花を笑い者にしていますね。

でもまた紫式部は答え合わせで、容姿は醜くとも、『源氏の物語』で一番清純な心を与えました。
第15帖「蓬生(よもぎう)」
須磨・明石と彷徨った源氏は、末摘花の事をすっかり忘れています。帰京してからも思い出しません。花散里の所へ行く時、えらく荒れ果てて蓬だらけの邸を見ますが何か覚えがあります。惟光を見に行かせると、誰もいないと思っていたら末摘花が食べるものも食べず、老女房とひっそりと待っていた事を知ります。

源氏は末摘花の清い心に打たれ、二条東院に引き取るのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?