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第64回 「夕顔」の帖、快調!

久々の香子の執筆に周囲は喜びました。人気作家でしたから、香子の原稿は奪い合いでした。当時は印刷がないものですから、全て筆写です。香子の原本を借りてすぐに写して、またすぐ次の人に渡さなければなりません。

次の展開を待ち望む気持ちは今も一緒です。私は最近テレビドラマですが、「エルピス」にはまって、次はどうなるのだろうかと待ち遠しくていろいろ情報を調べたものです。
道長が、香子が留守中、局に入ってきて『源氏の物語』の草稿を「妍子(次女:16歳)に見せてやろう」と勝手に持ち去った事もありました。
「まだ、手直しをしなければいけないと思っていたのに。あれが出回ったら恥ずかしいわ」と香子は思います。
道長の次女も『源氏の物語』が大好きだったのでしょう。だから一刻も早く読ませたいという道長の親心でした(笑)

さて、光源氏17歳の時、忠実な乳兄弟惟光の母(源氏にとって乳母)が病となり、五条の家に見舞いに行きます。乳母はもちろん喜びますが隣に何かゆかしい女性が住んでいる事を知ります。
「隣の女性はどんな方だ?」
惟光はまた悪い癖が出てきたと呆れます。見舞いに来てる筈なのに。
隣の家には夕顔の花が咲いていました。

ほどなく源氏はその夕顔の君と深い関係になります。驚いた事に「顔を隠して」寝ていたというのです。
そして「中将の君様の車が通りました」という侍女たちの会話で、頭中将の行方が分からなくなった恋人かも知れないと源氏は思います。
五条は下町だったらしく少し騒々しいので、源氏は「某(なにがし)の院」に連れて行きます。
覆面の紐を外して「よく見て下さい」と源氏が自信気に言うと、夕顔は「空目(そらめ)なりけりーさほどとは思えませんわ」と戯れます。
可憐で無邪気、明るい、そして従順。夕顔は源氏の女性たちの中でも現代の男性に一番人気です。

「某の院」とは、香子が聞いていた、源融の「河原院」でした。融の死後、風情豊かな河原院は宇多法皇に献上(実際は接収?)されました。そこへ法皇は若い寵妃・京極の御息所と夜過ごします。(年は50歳と15歳ほど)
そこへ融の亡霊が現れ、法皇の腰に抱きつき、御息所は失神してしまいました。真実は、悔しいと思っていた融の家人らが法皇を脅かしたのではないかと私は思うのですが。

法皇はこりごりして、二度と河原院へ行かず、河原院は荒れ果て、香子の頃には「化け物屋敷」になっていました。
人々が話していたこの河原院の話を香子は巧みに物語に取り入れたのでした。

寝ている時に、何か高貴な女性の生霊が現れます。「六条の御息所」です。物語では後の「葵」に出てきますが、ここでも香子は登場させました。
夕顔は生霊に執り殺されます。

驚くだけの源氏。惟光らがてきぱきと遺体を処置してくれました。
女の子だけでも引き取りたいと女房・右近に言うと、もうどこに行ったか分からないと言うのです。
「夕顔」の帖は「若紫」の帖の前に入れる事にしました。夕顔の死が衝撃的で源氏は瘧(おこり:病気)になります。その静養のためにも北山の寺に行くと言う事で話は繋がります。

そして香子はもう1人登場させようと思いました。自身の経験も踏まえた「空蟬」です。「夕顔」の帖の最後に空蟬が年の離れた夫・伊予の介と共に任国へ下る場面を入れます。(続く)


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