青春ロケット、周回遅れの1秒宇宙旅行


明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

皆は、年越しの瞬間は何してた?
俺?俺ね、へへ、地球に居なかったぜ(笑)

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でっけー晦日の午前1時頃。
普段のように仮想世界でオタクトークに花を咲かせつつも、自然と年末年始の過ごしかたに話題が流れ、ふと思い立つ。

年越しの瞬間にジャンプして、「俺、年越しのタイミングに地球居なかったわw」のやつ、やったことないな。

自分の周囲でコレを聞くようになったのは、小学生の高学年頃だろうか。
何もかもを斜めからしか見られないお年頃だった当時、自分から見て斜め45度の顔した人は皆、年越しジャンプについて口々に、得意げに語っていた。

ほんの少しの嘲りを向けていた当時の45度の人らは、今やその多くがお天道様の下で子育てや住宅ローンに頭を悩ませている。
そんな存在を無意識に羨んでかは定かではないが、ともかく、ふと年越しと共に跳んでみたくなったのだ。

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でっけー晦日の21時頃。
地元の友人4人のグループLINEで、年越しの瞬間に暇な人間を募る。
20代後半にもなって一人で年越しジャンプをキメるのは、流石に羞恥心や虚無感を感じずにはいられまい。

一人は未だ帰省しておらず、一人は流行病に伏せっていた。
一人、暇だという。当時はグループの中でも、最も顔に角度がついていた友人だ。十中八九、経験者だろう。
あぁ良かった、これで心置きなく跳べる。

年越しの15分前にコンビニ集合とし、俺は姉の起動するNIKKEを借りて美少女物色に戻った。

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寒空の下、俺よりずいぶんと集合地点に近所な友人は既に立っていた。
軽い挨拶を済ませてコンビニで鬼ころしを買う。今年特にお世話になった酒だろう。飲んだことが無いという友人の分も抱えて会計を済ませた。

二人、煙草を燻らせながら今年最後の10分を語らう。

「俺さ、年越しの瞬間にジャンプするやつやったことなくて。
 今日はそれ、今更だけどやってみたくてさ。
 お前は、子どもの頃、年越しの瞬間にジャンプしたことあるだろ」
彼は、今は角度のついていない顔で案の定頷いた。

それからは酒を飲みながらぽつぽつと、跳び方はきららジャンプにしようだとか、滞空時間を稼ぐために駐車場の車止めから跳ぼうだとか話しているうちに、もう時間になる。
年越し15秒ほど前からスマホ画面の時計に注目する。

23時59分59秒。
派手な発射音は無く、静寂が新年を迎える。
00時00分00秒。
コンマ秒の差を伴って、鈍い着陸音が2つ鳴る。

ケタケタと笑い合いながら、様々な感情を噛みしめる。
純粋な楽しさと、周回遅れで実績を解除した達成感。
消し切れなかった羞恥心と、ほんの少しの虚無感。
それらが軽めの酔いでいい感じに混ざり合って、うーん。
言語化は難しいが、多分一番近い言葉は『エモい』なんだろうなと思う。

それから酒と煙草を繰り返し、来られなかった友人とビデオ通話を繋いだりして、冷え切った手を擦りながら解散した。
時計はとっくに2時を回っていた。

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皆は、年越しの瞬間は何してた?
俺は、友人と1秒間の宇宙旅行で地球に居なかったぜ。

重ねて、本年もよろしくお願いいたします。

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