薬の効果とは

 薬をはじめとする医学的介入の効果は介入そのものの厳密な効果と、それ以外の効果に分けることができる。日本語ではどちらも「効果」と表現することもできてしまうが、英語では前者をEfficacy、後者をEffectiveness と区別することが多い。

  Effectivenessさらに、「プラセボ効果」「その他の効果」に分けることができるが、両者を厳密に区分することもまた難しい。例えば、風邪をひいた際に風邪薬を飲んだところ、鼻やのどの症状が改善したとしよう。しかし、風邪は自然治癒しうる疾患であり、薬を飲んだとしても、その薬効とは独立して症状が改善しうる。その改善の度合いの中にはまた、薬を飲んだ安心感のようなプラセボ的な効果も含まれているはずだが、その割合を厳密に特定することは不可能である。個人差も大きく、治療効果の全体に占める薬の厳密な効果やプラセボ効果、それ以外の要因の影響効果の割合を推定することは難しい。

 とはいえ、少なくとも自然治癒とプラセボ効果は異質なものだろう。ここでは「その他の効果」を「自然経過」「ホーソン効果」「ピグマリオン効果」「遺伝的要因」「社会環境」に細分してみる。

 なお、ホーソン効果とは、他者から関心をもって関わられることで自分の行動が変容することであり、ピグマリオン効果とは、他者に関心をもって関わることで、他者の行動が変容することである。医療機関の受診や服薬という行為がきっかけとなり、患者の健康関連行動が変化し、薬の効果とは無関係に健康状態が改善する可能性もあり得る。

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 社会的環境が人の健康状態に大きく影響していることは、これまでに膨大な社会疫学的研究の知見がある。貧困や治安の悪さ、あるいは汚染地域など、劣悪な環境に居住しているのであれば、たとえ薬を飲んでいたとしても、環境的な外部要因によって健康を害することは想像しやすいと思う。遺伝的要因もまた、薬の効果を決定づける重要な因子になり得る。例えば、肺がん治療薬のゲフィニチブでは、特定の遺伝子を有する人で、延命効果が強く得られることが知られている 。

 むろん、これ以外にも未知の要因が薬剤効果に影響を与えているかもしれず、僕らが知る由もないファクターを「未知の因子」としている。

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