ランダム化比較試験論文の読み方(発展編概説)

 本記事はランダム化比較試験論文の読み方発展編の概説である。標準編を理解したうえで読み進めていただければ幸いである。なお実際の論文を用いた解説は発展編詳説で論じたい。

 標準編概説でも示したがランダム化比較試験を批判的に吟味するための論点を以下にまとめる。

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 発展編で言及する論点はITT解析されているか? そして追跡期間と研究脱落状況はどうか?という項目である。この2つの論点は抄録に記載されていることは希であり(追跡期間の情報を除く)、本文を読み込まねば分からない点において発展編とした。なお、この2つの論点を読み飛ばしても、ランダム化比較試験論文の概要を把握することは十分に可能である。

追跡期間中に発生する問題点

 ランダム化比較試験において、当初は介入群に割り付けられていたにも関わらず、追跡期間中に非介入群に移りたいと希望する被験者は少なからず存在する(あるいは逆もまたしかり)。このことは、手術介入群と標準治療群(薬物療法等)を比較するランダム化比較試験を考えてみると分かりやすい(図に示したのは前立腺がん患者を対象としたランダム化比較試験の実際のデータである)。

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 手術の直前になって、「どうしても手術が怖いので薬による治療が良い」と望む被験者もいるだろうし、「どうしても手術を受けたい」と希望する被験者もいることだろう。そうした被験者の希望を無視して研究を続行することは倫理的に許容されない。しかし、当初は介入群に割り付けられていたにも関わらず、非介入群に移ってしまった被験者を、介入群として解析すれば良いのか、非介入群として解析すれば良いのか、どちらで解析すれば良いのか、という問題が生じる(非計画的クロスオーバーの問題)。

 また、ランダム化比較試験では一定の割合で追跡が困難になってしまう被験者が存在する。いわゆる研究からの脱落の問題である。遠方への引っ越し等、諸事象により研究に参加できなくなったり、あるいは受けている介入の副作用で研究続行が困難になってしまうなどの理由で、研究から脱落してしまうことは多い。この場合、脱落してしまった被験者は解析から除外してしまって良いのだろうか。それとも脱落者についてもしっかり追跡を行い、最終解析に加えるべきだろうか……という問題が生じる。

❖非計画的クロスオーバー:当初の割り付けとは異なる群に移ってしまった場合、割り付け当初の群として解析すべきか、新たに移った群として解析すべきかという問題
❖研究からの脱落の問題:追跡期間中に研究からの脱落者を最終解析から除外すべきか、あるいは最終解析に含めるべきかという問題

※なお、厳密には被験者自身の理由による研究中止を、「脱落」(withdrawal)と呼び、副作用や完治などの明確な医学的理由による中止を「discontinue」と呼ぶ

解析対象集団の差異とその影響

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