ワダッソの夏におもう

野鳥の鳴き声とともに、強烈な朝日が僕に差し込む。もうこれだけで、酔いは吹っ飛ぶ。僕が借りている部屋「ワダッソ」は、昭和にできたであろう華奢な造りの2階建て4部屋のアパートだ。まさにアパートという響きが完ぺきに当てはまる建物であり、目の前の小川沿いに整備された公園の桜並木とのフュージョンは、「すべての自然を受け入れる」がコンセプトじゃと言われても納得する。

僕は、その桜並木の公園に引かれて、ここに住むことにしたわけで、夏の暑さ(冬の寒さ……まだ経験していないが)も、一応織り込み済み。だったはずだ。
でも、でもでもでもでも……でも
朝、起きると、シーツの首回りがびっしょりと汗で濡れていたり。まーこれはいいとして、休日のお昼。座ってパソコン見ているだけで、汗が3秒に一滴、アゴから落ちる。
こんなに汗が身体から出るんだ~って感心するほど出る。サウナでもここまでは出ないと思うほど。
僕は、暑さに鈍感みたいで、平気なんだけど、身体の方はそうでもないみたい。
そんな暑さの時に困るのは、ご飯の作り置きができないこと。
えぇモチロン。
冷蔵庫もありません。
ちなみに掃除機は、3年前に買ったダイソン最新式ですけど。
冷蔵庫がないから、飲み物も常に常温。いや、買いおいている晩酌用ワインは、夜飲もうとすると、ホットになっている時すらある。
そんな、サバンナなのか砂漠なのか、とにかく夏の暑さは過酷なわけで、ゴキブリ君すら寄り付きかない。これは、うれしい。ワダッソはご想像どおり、隙間だらけだから入り放題なんだけど。
ただし、最近、網戸閉めているのに、蜂が入って来ていたのには、驚いた。
そうそう、昨夜は、寝ていると「プーン」と言わせて蚊が僕めがけてやって来た。寝ていて気づいた僕は、右手で追い払おうと様子を伺っていた。そしたら、耳元で「バサバサバサー」って音がして、蚊の「プーン」が消えた。誰かが食ったのか? 部屋の中で、こんなにリアルに狩が行われるとは! この部屋の生態系の頂点にいるのは、ひょっとして僕じゃなかったりして。

そんなワダッソに住んでいると、自然のことが少し身をもってわかるようになるのかな? 最近、家の前の桜並木にいるカラスの声が弱々しく感じる時があるんです。
「この子、大丈夫かなぁ?」
なんて、心配して桜の木の下で様子を窺ったりして。
ひょっとして、このまま暮らしていたら、生き物たちと会話ができるようになったりして? ありえないけど、ありえるよね。これ。

そう思うと子供の頃の事が思い出される。
小学生の頃、うちの山の端じの田んぼので、タヌキが罠にかかっていたことがあった。大人は「誰が罠仕掛けたんじゃ?」とソワソワ。でも、猟師は現れない。僕は、タヌキが可哀想で……罠を外そうとタヌキに近寄って、前足の罠に手をかけてごちゃごちゃやるけど、罠の仕組みもわかってないから、全然ハズレない。タヌキはいい子してウルウルの眼で僕を見ている。僕は「ごめん」って言って、何度か帰っては、また気になって山の端の田んぼに行って挑戦したけど、やっぱり罠は外せなかった。その時、タヌキはずっと大人しくしていてくれていた。僕は「優しいタヌキなんじゃなー」って思っていた。
とうとう父親が動き出した。そりゃ父親としてもたまったもんじゃない。自分の土地で罠を仕掛けられ、掛かったのに取りにこなければ、タヌキは犬死に(?)になり、父親も死体を処理する必要が生じるから。
そこで、親父は、「生捕りにして、飼う」と言いだした。ま、我が家は動物好きだから(でも飼うのは、ヘタクソ)。
そういうつもりの父親と、山の端の田んぼに向かった。タヌキは……あれだけ僕に大人しかったタヌキが豹変して必死に逃げようとしている。父親の「生け捕り」に感づいているのか。
しかし、抵抗やむなく、タヌキは、持ってきたオリに入れられ、家の前にそのオリを置いたものだから、「番犬ならぬ番たぬき 」のようになってしまった。
多分、僕は、やろうと思えばだけど、生き物たちと、言葉での会話は無理かもしれないけど、感覚的に分かり合える可能性があるのかと、思う。
この能力がワダッソに来て、さらに引き出されたうれしいな。




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