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ロマンスのうわずみ

アマゾンプライムビデオで、若い頃のトム・ハンクスとメグ・ライアンが共演している

「めぐり逢えたら」 (邦題)

を観た。レビューはとにかく皆、ベタ褒め。


ネットと言えば自分だけは見えない物陰からの投石マスターがごろごろしていて、そんな猛者達がしのぎを削っている様を見るのが日常の令和の時代の中、

とにかくみんなが高評価。


かわいい…

キュートで…

心を元気にする…

素晴らしい!

ピュアな心…


まだこの作品を観たことがない僕はこれらのレビューを観て「ふむふむ」と思った。そうか、心がほっこりするのか、いいね。トム・ハンクス好きだし。


そう、今夜の僕には「ほっこり」が必要だった。

なぜなら、頑張って作った鍋料理をどうやら大失敗したらしい。妻が顔をしかめ、食べてもらえなかったからだ。これはひとえに、魚の生臭さに鈍い僕のせいなので、妻は悪くない。ただ、どうしてもへこんでしまう。

美味しいと言ってもらいたい、という一心で作っているからだ。なんなら言わなくてもいい、うっすらでも美味しいと思ってくれていればそれでいい。

買い物する段階から、喜ぶ顔を想像しながら段取りするほど、失敗した時の衝撃はでかいのである。


結局、鍋は早々にあきらめ、妻に冷凍うどんを茹でて出した。


傷心の僕は、おもむろに冷蔵庫を開け、日本酒を取り出し、自室へ引っ込む。妻が「ごめんね」と何度も謝ってくるのが申し訳なくて、胸がキュッとなってしまう。

ごめんねはこっちのセリフなのに。


どうだ。必要だろう。「ほっこり」が。


日本酒だけではきっと足りないと悟った僕が次の一手に選んだのが、アマプラの「めぐり逢えたら」だった。


結果から言います。

ほ、ほっこりなんてできない!とてもじゃないけど、ほっこりできないじゃないよコレーー!もおおお!!

です。はい。


いい感じに話は進んできたのになぁー。ということで以下、ネタバレ含みますのでお気をつけください。


そりゃあさ、たしかにハッピーエンドだよ?

うん。僕だって、トム・ハンクスが笑顔で、その息子も笑顔で、メグ・ライアンも笑顔で終わるのは嬉しいんですよ?ホントだよ。

でも、ひとり。忘れられない顔、ありません?

ってことなんですよね。


レビューに「切ない」というタイトルがないのはなぜ?え?僕だけですか?こんなに切ないのは!と思って、映画観終わったあとにレビューをあさりましたよ。

そしたら、ありました。同じこと思ってる方が。



そう!婚約者!あの彼は?ねえ?あの彼の気持ちは?ねえ?ねえ?ラストシーンの直前なのにみんな忘れちゃったの???

いや、彼は確かにアレルギーひどいよ?でもそれ以外、あまり引っかかるシーンがなかったと思うんですけど、そんなことないのかな?悪いとこあった?

トム・ハンクスとデートしたあのハイエナの笑い声の彼女くらいの描かれ方してるなら、もっとすんなり観れたと思うんだけど、

僕はもうどうしても!

どうしても!あの顔が。

エンパイア・ステートビルが見える席で、メグ・ライアンを見ながら母親から受け継いでサイズを直したエンゲージリングを、ジャケットの内ポケットに「じか」にしまう彼の、あの顔が焼き付いた。


しかも彼は一切、怒らなかった。悲しいのに、笑顔を作っていた。共感するような言葉も紡いでいた。どれも、なかなかできることじゃないと思った。メグ・ライアン演じる彼女が好きだから?それとも元々の彼の人柄?


どちらにしろ、切なくて切なくてたまらなかった。

僕が作った、食べてもらえなかった鍋がフラッシュバックした。


婚約者が頑張って作った悲しい笑顔と、僕が頑張って作った悲しい鍋。


こんなはずじゃなかった。

ぜんぜんほっこりしない!もう!


でも、同じこと思ってる方がいたので、ちょっとほっとしました。あぶないあぶない、今夜眠れなくなるところでした。ふーこわ。


トムと息子とメグは幸せになったかもしれないけど、そのロマンスの下の方には沈殿した婚約者の悲しみがある。

僕は妻が好きだけれど、いつもいつでも、100点満点の仲良しではいられない。ごはんを食べてもらえない日もある。


ロマンスの割合は、100%にはならない。

ロマンスは、うわずみだ。

必ず分離し、沈殿している部分がある。


でも、それがリアルでいいと思う。うわずみも、沈殿も、両方ともキラキラするなんてのはきっと、オーラソーマのボトルくらいなもんなのだ。

うわずみも、沈殿も、存在するのだから仕方ないのだ。きっと両方、必要なんだと思う。

とりあえず、味噌汁のうわずみくらいのロマンスを失わないようにすればいい気がしてます。沈殿した味噌も、ちょっと濃いけどおいしいよ。

くらいのね。

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