よく降りますね。
三角屋根にザーーッとたっぷりな雨が当たる音がして、天気予報では「大きな傘をお持ちください」と言っていた。
朝からよく降る雨。
ワイパーが、タクン タクンと弧を描くリズムは頑なに一定で、微妙にカーステレオの曲に合ってはおらず、ウインカーとて似たようなもので、勝手なテンポで割り込んで。
上着のフードを被り、そのよく降る雨など避けられるわけではないけれど、身を小さくして、小走りに屋根の下へと急ぐ。
ピチャッ
水溜まりはまだ出来損ないで、溢れては流れ出て、スニーカーに踏まれ飛び散った。
屋根の下には、いつからいるのか、雨を眺めながら立ち尽くす人がいて。迎えを待つのか、この雨があがるのを待つのか、ただそこで見ているだけなのか、いつからとも、いつまでとも、わからずに立ち尽くして。
思わず立ち止まり、フードを脱いで、隣に並んで、雨を見上げてしまう。立ち尽くして。
そして、こう言うのだ。
「よく降りますね」
「えぇ、よく降りますね」
縦線が空から連なって、すべてを濡らして。
サーーッと切れ目なく続く音。
これが電子音だとかなら苦痛で仕方ないだろうに、雨音というのは、耳にやさしい。
シャーッと車が通り過ぎ、近くでバッ!と傘の開く音がして、この雨の中へ、セイカツをはずれないように戻っていく。
セイカツ…。セイカツ…。
あ、生活。
手に持った空のマイバック。
そうだ。
私は買い出しにきて、今夜はクリームシチューにする約束で、ニンジンを買わないといけないことを思い出す。鶏肉と、あと牛乳も。
そうそう。
私は、“生活”を買いにきたのだ。
と、“思い出したかのように” 店内へいそぐ。
*☂︎*̣̩⋆
雨は止みそうもなくて。
立ち尽くす人は、まだ雨を眺めている。
見事な雨を。
手に持った買い物袋からは、
ネギがはみ出して、
確かにちゃんと“生活”を買ったのに。
「よく降りますね」
「えぇ、よく降りますね」
こんな見事な雨を、隣で立ち尽くして、
いつからとも、いつまでとも
見ていたい。
セイカツに戻る、少し手前で。