治療システムのアセスメントに自分が所属する職場と自身のコミュニケーション特性を活用する

はじめに
 面接者がよりよい面接を提供するために、問題とされる出来事や現在起きている事象をアセスメントすることは重要な面接過程のひとつだと考えられます。そのためには面接者が置かれている職場がどのようなシステムとして働いているのかを理解しておく必要があります。
 たとえば、職場の組織がどのような理念と目的を持って活動しているのか、その中で各個人の与えられた役割と権限はどのように設定されているのか、どのような組織体制で、日々どのようにやりとりがなされ組織が運営されているのか、その歴史的変遷はどういったものだったのかといったことがあげられます。
 より細かくみていくならば、面接時間や回数はどのように決められるのか、それに対する費用や全体の見通し、来談者がどのような過程をたどって初回面接に至るのか、それらを面接者自身がどのように面接を実践し、また面接者自身が評価者や管理者からどのような評価を受けて扱われているのかといったことがあげられます。
 これらの面接者が所属している職場がどのようなシステムとして働いているのかを、治療システム(システムズアプローチでは家族システムに面接者自身を含めたシステムを治療システムと呼んでいます)のアセスメントに活用することが出来ると考えられます。自分自身の面接を振り返る際に、自分が所属しているシステムからの影響を仮説に活用できればよりよい治療システムの形成に繋がると考えられます。

家族療法のアセスメントとケースフォーミレーション
 家族療法(ここではセカンド・オーダー以降の認識論を指します)やシステムズアプローチでは、家族システムと治療システムという複眼的観察(東,2018)を用います。システムズアプローチではこれらの家族システムと治療システムで何が起きているかという二つの仮説を活用しながら、よりよいコンテクストや相互作用が形成されるをやりとりしていくと考えることができるといえます。
 吉川(2009)は、家族療法におけるアセスメントの対象は、大別して「家族のみ」を対象とする場合、「治療者を含めた家族」を対象とする場合、面接に関与する個々人の「コミュニケーション特性」(「個々人がどのような話し方をするのかについての特徴を把握する」ことを指す)の3つをあげています。
 また、吉川(2019)は、家族療法やシステムズアプローチの面接者が実施すべき対象把握として、①家族などの問題にかかわる関係者の「パターン化したコミュニケーション相互作用」の把握、②対象となる家族や関係者への外部組織からの影響、③家族や関係者に特有の擬似文化的特性、④「パターン化したコミュニケーションの相互作用」の歴史的変遷過程の把握、という4項目をあげています。
 またこれらの4項目に加えて、メタポジションから治療システムを俯瞰する視点を確保することがケースフォーミレーションの基本になると述べています。ちなみに、この4項目は治療システム(面接者が所属する職場のシステム)をアセスメントする際に実施すべき対象把握と考えることもできるのではないでしょうか。
 以上のことを整理すると家族療法やシステムズアプローチでは以下の3つのアセスメントが必要になると考えられます。

1. 家族システムのアセスメント
2. 治療システム(面接者が所属する職場のシステム)のアセスメント
3. 面接に関与する各個人のコミュケーション特性のアセスメント

 言及するまでもないかもしれませんが、今回検討していくのは、2. 治療システム(面接者が所属している職場のシステム)のアセスメント と、3. 個々人のコミュニケーション特性のアセスメント(今回は面接者自身のコミュニケーション特性をとりあげています)の2つになります。
 1つ目は、面接者が所属する職場のシステムの理解を治療システムのアセスメントに活用することです。2つ目は、面接者自身の話し方であるコミュニケーション特性(面接者自身が置かれている状況や文脈といったコンテクスト、あるいは面接者が振る舞いがちな言動や、相互作用として起こりやすい治療システムのパターン)を治療システムの形成に活用することになります。

面接者が所属している職場のシステム
 治療システムについてもう少し詳しく基準を細分化すると以下のようになると考えられます。こられは、変更可能なこともあれば変更がある水準のやりとりでは不可能な場合もあります。その場合は異なる水準への働きかけ、例えば、社会的な活動によって働きかけていくこともできますし(福祉領域でのアドボガシー活動から職場内でのOJTなど)もひとつだと考えられます。
 しかし、実践で職場システムを活用する時に必要なことは地道に自らの面接がよりよい形で提供できるように、自らの職場で日々どのようなやりとりをしていくかだと考えられます。
 その為には、職場の上司や仲間、後輩の声に耳を傾けて、各個人が置かれた立場や役割から、どのようなニーズをもっているのか、その為にどんなことに取り組み、どのように扱われてきたのかを理解し、その人のニーズがどのような環境に置かれればより能く育っていくのか考え、その為に面接者自身がどのような立場や役割から何が出来るのか以下の点から職場のシステムがどのように働いているかを理解することが出来ると考えることができます。

1. 組織の理念と目的、その評価がどのように還元されながら、所属する個人によってどのようなやりとりが起きているのかといった理解
2. 組織図と各担当者の立場と役割
3. 面接者が持っている権限や治療構造の柔軟性(※総合病院の心理職や、緊急対応や経済的問題と心理支援の必要性などの複数の困難が重なり合う現場では面接構造の柔軟性が非常に重要になります。)
4. ユーザーが支払う費用や時間などの必要な経費とその負担の度合い
5. セラピスト自身と職場組織の社会的な評価や国際的な出来事や法律や医療等の制度の変更が及ぼす影響
6. 職場システムの歴史的変遷過程

 また、職場のシステムを理解した上で、自分がどのように職場で機能しているのかをアセスメントしておく必要もあります。

1. 自分の立場(雇用形態、上司部下の関係性、管理責任や人材育成の役割の有無、など)
2. 自分の権限と面接構造の自由度(面接者にどれくらいの決定権があり面接構造などの変更などにどれくらい関与できるか、など)
3. 自分の責任と限界
4. 他の業務とのバランス
5. 他職種や外部機関との連携の可能性
6. 職場のシステムへのフィードバック機能(業務に対する評価や対人コミュニケーションの自由度など)

 こうした職場のシステムとその状況に置かれた面接者自身をメタ・ポジションでアセスメントしながら、治療システムがより有効に機能するように職場のシステムを創っていくことやメンテナンスしていく(職場がよりよいコンテクストになるように、職場で起こる相互作用やパターンに一関与者としてやりとりしていく)ことが面接者に必要になると考えられます。

面接者自身のコミュニケーション特性の活用
 この基準で重要なのは、面接者自身がどのような枠組みを持って、自分がどのような仮説をもって来談者や家族、目の前で起きている事象を理解しているかということになります。   
 このような、面接者が持っている枠組みは、面接者によって起こりがちな、コミュニケーションの相互作用やパターン、形成されやすい治療システムや関係性(相称性と相補性、上位相補性)を予測し、来談経緯などの事前情報と合わせてアセスメントすることで、ジョイニング過程の失敗や過去の支援者や支援機関で繰り返し起きてしまったパターンを繰り返さないことへの予防に活用できると考えられます。こうした活用のためには面接者自身のコミュニケーション特性をアセスメントに加えることが必要となります。以下に、面接者自身のコミュニケーション特性の検討点をあげてみます。

1. 肯きなどの非言語コミュニケーションの使い方(何気ない肯きの癖やそのレパートリー、自分の表情などの非言語的な反応の基準となる非言語メッセージを検討する)
2 . 困った時に取りがちな反応(笑いで回避する、反応に敏感過ぎて必要な情報収集に過不足がある、仮説を家族と共有できないときに自ら話題を変えてしまう、といった反応を検討する)
3 . 自らが取りやすい立場や関係性(擬似家族的ポジションで治療システムにおける自分の役割をメタファーでなぞらえながら検討する)
4 . 自分が持っている枠組み(気づかずに何気なく使っている自らのフレームを検討する)
5.会話の展開や維持の仕方や文脈構成などの目者の話し方(コミュニケーションの語用論、言葉の階層性、メタファーの使い方を基に検討する)
6. 自らがアクセスしやすい、リソースとなりやすい感覚(例えば、NLPのVAKモデルなどを使って自らがアクセスしやすいコミュニケーション特性を検討する)

 もちろん、これらで検討した面接者のコミュニケーション特性は、そのコンテクストである面接者が所属している職場のシステムからの影響を受けていると考えることができます。つまり、コンテクストである職場のシステムが変わればコンテンツである面接者のコミュニケーション特性も影響を受けますし、面接者のコミュニケーション特性が変われば職場のシステムも影響を受けると考えることができます。

実際の面接では
 日頃から自らの臨床を他者に説明可能な記述・説明できることを心掛けながらも、時代の流れや社会で構成されている枠組みに目を向けながら面接者は自身の持っている枠組みを見直す必要があります。その中で、未だ語られていないローカルな知に目を向けることも大切です。加えて、来談者や家族の多様性や、個々人のコミュニケーション特性が誰一人として同じものがなく、かけがえのないものであり、その人の言葉は、その人の世界を現すそのものだと、個人のコミュニケーション特性を柔軟に受け入れながら面接に活かしていく面接者の能力が必要だといえます。
 そして、個人が持っているニーズや動機(そこには充足されなかったものへの葛藤や恐怖といった矛盾した反応も起こりうる)に関心を向けながら、その方向性や傾向がより能く形成されるように、来談者と家族に合わせた治療状況や治療段階をデザインし、今ここでの、その場・その時にあった治療システムを提供していく必要があると考えられます。

おわりに
 以上が、面接者が所属する職場のシステムの理解を治療システムに活用することと、面接者自身の話し方であるコミュニケーション特性を治療システムの形成に活用することになります。
 普段と少し違った視点から、問題とされている事象に関する個人間のコミュニケーション、実際に起きている出来事、面接者が置かれた状況、そこで面接者自身が持っている枠組みや振る舞いを眺めてみることは、メタ・ポジションの確保にも繋がるのではないでしょうか。こうした、視点を身につけるためには継続したトレーニングやスーパービジョン(グループスーパービジョンや症例検討会)を定期的に受ける必要があるといえます。

引用文献
東豊(2018)マンガでわかる家族療法2 大人のカウンセリング編,日本評論社.
吉川悟(2009)家族療法における工夫.(乾吉佑・宮田敬一編)心理療法における工夫,pp.137-149.金剛出版.
吉川悟(2019)家族療法のケースフォーミレーション,精神療法増刊第6号,金剛出版;52-59.

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