見出し画像

花束を買う。


大した話では無いんだけど花束を買った。
カーネーション以外の花を買うのは生まれて初めてのことだった。
綺麗な花束。
いままで花束というものは冠婚葬祭にあるものだという認識だったから
日常に花束があるのは奇妙な感じがする。
何かしら別離があるわけじゃない。
新年でもなければ、誰かの誕生日というわけでもない。バレンタインには早すぎるし、節分の方が近いくらいだ。梅はまだ早く、桜はもっと先だし旧正月にもまだ早い。
記念日でもない。念のために調べてみたけれど今日はゆで卵の日だった。
別にゆで卵を祝うために花束を買ったわけじゃない。
ただ何となく、好奇心で買ってみたのだ。
花を買うのに適した理由ではないかもしれない。

お店に到着したものの私はどう頼めば良いのか分からなかった。Aさんという友達が「予算を伝えたら見繕ってくれる」言ってくれた言葉を信じて店に足を踏み入れた。
フラワーショップは、静かだった。それに店員さんは客らしい私の姿を認めると少し驚いた様子だった。
そとは北風が毎秒10mの強さで吹き付ける曇天模様で気温は五度。


めちゃくちゃさむかった


そんな日に花を買いに来る客がいて驚いたのかもしれない。
花を買うのに適した天気ではないかもしれない。
「花束をお願いします」
「分かりました」
 簡単なやりとりがあったあと、花束は手際よく作られていく。
店内にBGMは流れておらず、温度管理のための機械が低くうなっていた。
花を買うのに適したBGMとかのチョイスは何が良いんだろうかなんて考えているとふと柔らかい有機物の香りが鼻腔をくすぐった。目の前にある花束から香るバラの香りらしかった。
配達帰りらしいご主人が顔をみせてまた引っ込めた。
小さな海沿いのフラワーショップの外では日本海の波が演歌の兄弟船のように停泊している船を威嚇している。
「何かお祝いですか?」
と店員さんが仰るのでどう答えようか考えて
「いや、何となく妻に……」
 と答えた。
「いいことですね」
との返事と同時に花束はできあがった。コミュニケーション下手な私にとっては抜群のタイミングだった。
細工を施されたリボンが巻かれ、透明なセロファンの内側には柔らかい不織布がまかれ、その内側に綺麗な花束が一つ。
こう、無機質なセロファンで生きている花を驚かさないように、段階を踏んで近づいていくような感じがして趣深かった。
会計を済ませて、店を出ると荒れた天候の中で風に負けじと集団下校している小学生の群れに巻き込まれた。
店から一歩踏み出すとそこは日常で、物珍しそうに私を見る人は誰も居なかった。
だから、別に花束を買うのはとても日常的な行為なのかもしれない。
冬のなんて事ない日に花束を買ってみるのも良いと思ったし、これからはもう少し花を買いに行ってみようと思った。


花の名前は二人ともよく知らない

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?