小咄「風」

えー小咄をひとつ。

昔から人は人の中に人を住まわすなんて言葉がありますな。

なんやいいもんを見つけた時に「コレがほしい」って思う。でもすぐに「これを買っちゃうと月末苦しいよ」なんて風にもう一人の誰かが囁くわけです。

「でもコレを買うと満足するよ」

「いやいやあかん。そんな余裕ない」

という具合に自分の中に住む住人はいつだって口論しているわけです。


「おい!虎吉!こっち来い!」

「へぇ、なんでしょ旦那」

「いいからこっちに来いと言うんだ」

「へぇ、でも旦那のその顔を見ると行きたくねぇですね」

「なんでぇ。俺の顔に何かついてんのか」

「ええ、旦那の顔、まるで鬼のようですから」

「怒ってるんだよ、分かるだろ!」

「へぇ、ですから行きたくねぇと申してるんで」

「虎吉ぃ〜、ちょいと、ちょいとこっちに来なすってぇ〜(笑顔で)」

「旦那、気持ち悪っ」

「(照れた様子で)…いいから来い」

「へぇ、なんでしょ」

「今朝、長屋の反物を洗っておけと言ったな」

「ああ、大変でしたよ!長屋中の反物かき集めて川に行って丁寧に洗って、竿竹屋の旦那から無理言って竿竹借りて先ほどようやく終わったんでありまして」

「お前には無理を言ったなと思ったがな、長屋のみなは大層よろこんでおる。」

「そうでありますか」

「お前にみなから少しずつ褒美の品を預かっておる」

「ええ!そんな!あっしはそんな大層な事をした覚えはありません!」

「まぁまぁ、聞け虎吉。お前はそう言うであろうがな、反物を洗うのは大体みなが嫌がる仕事だ。それをあくせくと果たしてくれたお前にみな礼をしたいのだ」

「そ、そうですか…」

「それでな、お前がそれでも忍びないと思うのであれば、もう少しだけ仕事を増やしても構わんか?」

「へ、へぇ、なんでしょう」

「見てみろ、お前が干した反物たちを」

「えっ」

虎吉が干した反物はつよ〜い風に煽られて四方八方に散らばっていました。

「わ!なんてこった!せっかく洗った反物が!」

「そう、きちんと見とかねぇからこんな事になってやがんだ」

「へ、へぇ…。すいやせん。旦那はこれを見て怒っていやしたんですね」

「まぁ風のすることだ。お前に怒ったって仕方ねぇんだけどな。どうだい虎吉。おめぇがきちんと反物が飛ばないよう見張りを務め上げたら、晴れて預かってる褒美の品々を渡そうじゃねえか」

「分かりやした!この虎吉、勤めを立派にこなして見せやすよ!」

そうして虎吉と強風との闘いが始まったんでありますが…


え?なに?長い?小咄って言ったじゃねぇか?

やだよお客さん。小咄って言ったって短い話とは限らねぇのが面白いところじゃねえか。分かってねぇなあ。

まぁまぁ落ち着いて聞きなさいって。え?だったら早く続きを話せ?

やーだーよー!このお客さんったら!しょうがないねぇ〜。

いいかい、落語ってのは余裕を持って聞かなきゃなんねぇんだ。

お客さんみたいにあくせくイライラしてたってなんにも面白くねぇってのが道理よ。

え?もういいから早く話せ?

やーーーだーーーよーーー!このお客さんったら!


(続けようと思えば続くw)

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