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エンドレスリピート【後編】

それから冬子(とうこ、で正解らしい)との奇妙な恋人関係が始まった。

あの出来事があってから既に3日が経過している。

彼女のことで、少しずつ、探り探り聞いて分かったことは3つある。

まずひとつは馴れ初めである。

オレは普段レンタルビデオショップの店員をしていて、彼女はそこそこ大きい企業の中で働いていた。いわゆるOLというやつだ。

オレの職場へ彼女が度々映画をレンタルしに来、その作品のチョイスがオレの趣味と丸かぶりしており、少しずつ会話をしていったのが、そうらしい。

「最初は軟派でキモいと思ったけど、やっぱ趣味の話って性格出るじゃん?君からは本当に精一杯の勇気と親しみを感じたから」

と彼女は語っていた。

次に、それが何年前かということ。つまり、付き合ってどのくらい経つのか。

ずばり、なんと今年で丸2年になるらしい。おれが30の頃だ。

これはオレの携帯電話に入っているカレンダーアプリで判明した。

どうやらオレは恋愛になるとマメな男のようで、いついつどこに行った、何をしたという簡易日記のようなものが毎月毎月記入されていた。

それを見てからは、オレも冬子と会った日の簡易日記を書くようにつとめた。


最後に3つ目。

どうやら明日、ウチの両親と兄貴、そして冬子の両親と妹さんとの会席があるということだ。

そう。どうやらオレは結婚してしまうらしい。

更に言うと、冬子のお腹には新しい命が芽生えているというのだ。

しかしその会席も実は初めてではなく、前にも一度食事会を行っていたらしい。

お互いの両親には既に報告済みで、式を挙げない(らしい)オレたちのために、結婚祝いの意味を込めた会席なのだそうだ。


オレの人生に「冬子」という人間がいる。

だが、今のオレに冬子に関わる全ての記憶は無く、この夢とも現実もつかない世界で悶々と生きていた。


次の日。

そこそこ大きいホテルにある会食場で、お互いの両親が改まった挨拶をしている時。

その音は聞こえた。


「ビャーーーーーーーー!!!」


あたりは再び濃くて白い煙に包まれる。


気づくとオレは職場にいて、返却されたDVDを右手に抱え、陳列棚の前にいた。

再びオレは混乱した。

すると、レジに設置してある呼び鈴が「チーン」と甲高い音を立てた。

混乱したままひとまずレジに向かうとそこにはなんと冬子が立っていた。

「よっ!」冬子はニコリと笑うと、手に持ったDVDをオレに差し出した。


「今日が私たちが初めて出逢った日だよ。ほんとは君から声かけて来たんだけどね」

それから2年後。

オレたちは結婚することになる。


オレの部屋にはもうラジカセは無い。

だけど青空を見ると思い出す。

まるで時空間を巻き戻したり早送りしたような不思議なあの経験を。

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