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【本居宣長の空想地図】その6 市街編(後)

19歳の本居宣長が270年前に作った空想地図を解き明かすシリーズ。
このシリーズは『彰往テレスコープvol.2』(近日発売予定)企画展記事と連動した企画です。
※この記事は前回の続きです。前回の記事はこちら
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中心地はどこだ?

※参考になる「彰往テレスコープ版・端原氏城下絵図」の詳細は前回記事から。

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端原城下で最も発展した町人地はどこでしょうか。『絵図』では武家地・社寺以外の書き込みは無く、商人や町人の活動をうかがい知るのが大変難しくなっています。

これは栄貞が町人を無視しているわけでは決して無く、江戸時代の地図はたいがい町人地を空白で表現するのです。

 中心地を探す手がかりになるのは、街道(『絵図』では大道と書かれている)と接続する「大路」です。江戸時代の城下町はだいたいこうした街道を引き込んだ大通り沿いに街場が形成されます。

大路は市街地をぐるっとめぐるように通っている四本と、さらに「大道」と接続する「砂妙大路」や「乾大路」があります。
ほかに「左瓦大路」、「天神大路」、「扇町大路」「簾町大路」、「寺町大路」がありますが、この六本は市外に繋がりません。

郭外街路 通名いちがつ-02

 『絵図』から最も発展してそうな場所を探してみると、「廣町大路」が一番それらしく見えます。ここには大路が二本と、「ウヲヤ丁通」「カタナ丁通り」「カミヤ丁通り」「シナマチ通り」など、商業地にふさわしい名前をもった道路がたくさん直行しています。また「廣町大路」は湊からの物資が集積する「西堀」「横堀」に隣接しており、流通の便も良さそうです。

「廣町」の名前も商業的中心地として申し分ないものでしょう。

御所のメインストリートはどこ?

 では、町人の中心地は「廣町大路」で良いとして、御所へのメインストリートはどこでしょうか。ちょっと考えてみて、私は二通りの可能性を思いつきました。

ひとつは、御所の正門と思われる「豊ノ御門」の正中線にもっとも近い「泰平御門」と「綾倉表」です。「廣町大路」と接続することから考えてもメインストリートとして申し分なさそうな感じです。

ふたつめに考えられるのは、郭内中央を横断する「中筋」を延長した、東側の「左瓦大路」という道路です。突き当りの城門の名前が「来鳳門」になっており、平安京の正門・朱雀門のモチーフと重なります。
この「左瓦大路」の面白いところは、この大路が街道に接続せず「堀口」の浜に接続していることです。

もしこれが郭内への玄関にあたるとすれは、端原氏は客人などを舟で招いたり、舟で出掛けたりしたのかもしれません。宣政の御座船が歌仙橋をくぐって四郡湖に出帆する風景…そんな妄想も許されるかもしれません。 まぁ端原の御所が江戸時代の内裏を真似たものであるとすれば、明確な正門が策定されていないと考えたほうが良いかもしれませんが。

端原の社寺

 端原には多数の神社仏閣があります。中でも大きなものや、「寺町」「三柳」などの社寺密集エリアは『彰往テレスコープvol.2』内で紹介しますが、外にも面白いトコロがいくつかあります。

 街なかに特に多いのが「八幡」と「天神」です。
「天神」社は十数箇所あり、ほかに「廣羽天満宮」。
「八幡」社は五箇所と御旅所一箇所、「新園崎八幡宮」があります。
ついで「夷」や「稲荷」「牛頭天王」「荒神」などがぽつぽつあります。
どれもこれも日本の神祇だし、こと天神に至ってはパラレル菅原道真が端原世界に居たのかとツッコミたくはなりますが、ま黙っておきましょう。

 浄土宗を思わせる寺院の名称があるのも面白いところです。小津栄貞(後の本居宣長)の家は熱心な浄土宗の檀家で、彼自身も『絵図』を書いた頃に菩提寺で教えを受けるなど浄土宗に深く帰依しています。
端原城下に「光明寺」「誓願寺」「報恩寺」「念仏寺」など浄土宗っぽい名前の寺が数箇所かあるのは栄貞の浄土宗への帰依を反映したものでしょう(「幢」のつく寺の名前が多いのは菩提寺の法幢山樹敬寺の影響かもしれない)。

 日本の神仏が数多く鎮座する一方、オリジナルの神々も数多く鎮座しています。「飯野大権現」や「天宮権現」はその最たるもので、それぞれ二ヶ所づつ社があります。ともに対応する地名があることから(「飯野」は端原南部の地名、「天宮郡」は『系図』上に登場する。)、土地の神か何かなのでしょう。外にも「粟瀧明神」というのもありますが、何なのかよくわかりません。

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飯野大権現。端原城下有数の大社。敷地内には別当寺・清教院がある。

最もわからないのが、外堀川(仮称)の「楓橋」南詰にある「黒塚○○(?)」の社です。鳥居が書かれているため社であることはわかるのですが、墨の汚れがあり、名称が一部わかりません。これはいったいなんでしょうか。

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楓橋南詰にある謎の社「黒塚」

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