PS5の品薄とコンシューマゲーム機の生産効率についての一考察 -転売ヤーは如何にして爆発四散させるべきか-

PS5が品薄である。

店頭に並ぶところはFF3のレッドドラゴンよりも見かけず、もし運良く見つけてもそれは抽選販売であったり、さらにはめざとい転売ヤーが買い漁ってヤフオクやメルカリで高額転売されてしまう運命である。なかなか私たちの元にやってきては貰えない(尚、私は一度たりとて現物のPS5を見たことがない)。

PS5が発売されてもう一年半経つというのにこの状況はどこかおかしいのではないか、と思う方もおられるのではないだろうか? 本記事ではPS5の品薄状態がいったいどこから発生しているのか、考察するものである。なお、データらしいデータは使っていないので普段と毛色が違う内容であると理解して頂けたら幸いだ。

よく上がる批判の一つに「品薄商法」というものがある。任天堂もSwitchやDSで散々叩かれていた。本来はもっと出荷できるのに、あえて出荷量を調整することで購買意欲を煽り、売上を増やすことを目論んでいるのだ……という理論だ。
実は長らくのゲーム業界の歴史において、実際に品薄商法を行った企業が存在する。任天堂のアメリカ販売会社、NOA(Nintendo of America)である。ゲームが売れなくなったアタリショック後、家庭用ゲーム機市場に立ち向かうためNOAは様々な手法を行った。そして再び加熱を始めたゲーム市場で行ったのが品薄商法である。店舗に卸すNES(Nintendo Entertainment System。ファミコンの北米仕様)やそのゲームソフトの量を制限したのだ。新作ゲームを見つけられた君はラッキーだ! さぁ、それが売り切れる前に早く買わないと! 次にやってきたときにはもう売り切れになっているかも知れないよ!

……平たく言えばこんな広告方法である。ただしこれは一時的なものでしかなかった。この後、NESは大ヒット商品となるにつれ実際にゲームソフト用のROMが不足してきて、出荷しようにも出荷できなくなってきたのだ。
NOAと任天堂は日本製のROMにこだわっていた。アメリカ製は高すぎ、台湾製は不良品率が高かった。最もバランスのよい調達先として日本の各メーカーから調達していたわけだが、日本のファミコンブームの最盛期が、おくれてやってきたアメリカのNESブームとが完全に被ったとき、供給が追いつかなくなってしまった。

解決方法はいくつかあったろうが、任天堂はあくまで日本製にこだわった。他社に自社生産を認める許可を出すという手法があるが、これはファミコン初期に他社が不良品を出し、そのクレームが任天堂側に届いたことで破綻した。そのためNESやスーパーファミコンソフトではあくまで任天堂が全て生産することにこだわっていた。ただし同時期、メガドライブやGENESIS(北米版メガドライブ)では他社にROMの自社生産を許可しており、しかも製造不良によるクレームが出たという話も聞かないので、このあたりは完全に任天堂が疑心暗鬼からの自縄自縛に陥っただけ、といえる。

しかしこれらはあくまでソフトのROMの話だ。DSやSwitchはどうだったのか? これは完全に需要が任天堂の生産能力を上回ったせいである。

任天堂は昨年、生産体制を月産百六十万台から、過去に例のない二百五十万台に引き上げ、年末商戦を終えた後も維持しているが、それでも需要に追いついていない。岩田聡社長は四月の決算説明会で「いささか異常だと思う」と驚きを隠さなかった。

DSは2006年末時点で月産250万台体勢を作っている。これは尋常ではない数字で、家庭用ゲーム機史上もっとも売れたハードであるPS2ですら推定で最高月産200万台生産である。つくったらつくった分だけ売れていった、ということで品薄商法どころか全力で生産を行っていた。
これはSwitchも同様で当初年間1000万台規模の生産体制を、2000万台以上にまで増産している。なぜ最初から2000万台体制にしなかったのか? という批判もあるだろうが、前機種であるWiiUがそもそも5年間で1300万台出荷程度でしかなかったのだ。

そもそも実はゲームハード事業と、品薄商法は非常に相性が悪い。
根本には「ハードで儲けず、ソフトで回収する」というビジネスモデルが流れているからだ。
プレイステーションも、Xboxも、Switch他任天堂ハードも、どれもハードは利幅が薄く、発売直後は赤字であることも多い。
なぜハードを赤字で提供するのか? できる限りハードを安価で提供し、一台でも多く売り、一人でも多くハードを供給させて、かわりにソフトを買わせたいからだ。その売上でハード分の赤字を埋める。年数が経過すれば複数本ソフトを買って貰えるだろうし、そこで黒字に転換する。……ハードを持っていないのにソフトだけ買う、というのはまずありえないだろう(ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルドという作品は、どうやらそれを成し遂げてしまったようだが)。
だからこそ、店舗に常時最低限の在庫までは提供したいのがプラットフォーマーの思惑となる。在庫がなくては機会損失に繋がってしまうのだ。

PS5の在庫がないのは品薄商法ではありえない。ではいったい何が原因だろうか。やはり転売ヤーだろうか? しかし少し俯瞰的にみるとそうではないといえる。

ニンテンドークラシックミニ スーパーファミコンという商品がある。ニンテンドークラシックミニシリーズ第二弾作品であり、前人気は高く多数の転売ヤーが飛びついた。
しかし打ち切られた予約が再度復活する。それに再び転売ヤーが飛びつくも、さらに予約は復活する。次第に普通の一般客も予約できるようになる。さらに復活する予約。最終的には発売四日で36万台を売ることができ、需要は満たされていて、小売価格以下で手放す必要があった転売ヤーが多く出た。サヨナラ! 転売ヤーは爆殺四散した。

転売ヤーがやっていることは物流を妨げ、需要を満たせないようにした上で手数料を上乗せした荷溜めである(初心会の一部がやっていたことでもおなじみだ)。しかし荷溜めは供給が溢れると意味がない。もし日本にPS5が突如いますぐ100万台入荷したら、転売ヤーは再び爆発四散することだろう。

そう考えるとこの問題の抜本的な構造が見えてくる。そもそも需要に対して供給が少なすぎるからこそ転売ヤーが寄ってくるわけであって、「転売ヤーがいるから買えない」というのはあくまで副次的事象なのだ。もし日本に500万人のPS5購入希望者がいるのなら、実際に500万台のPS5を用意しない限りはその需要は満たせない。そしてもし500万台を大きく超える供給がなされた場合は、転売ヤーは旨味を感じず離れていく。そしてようやく、それほど強い購入意欲を持っているわけでもない一般プレイヤーにも手が届くようになる。

じゃあもっともっとSIEはPS5を増産すべきである! という結論に達するが、ここからなかなかそうはいかない事情が立ち塞がる。そもそもゲーム機に限らず全ての製品は「増産するぞ!」と決めて即できるわけではないからだ。

一台のPS5は様々なパーツの集合体である。AMDからAPUを調達し、マイクロンからGDDRメモリを買い、キオクシアからフラッシュメモリを買う。そのほかにも無線モジュール、SSDコントローラとその周りのDDR4、HDMIトランスミッタ、液体金属とヒートシンクに、空冷ファン。自社で賄えるものは賄うだろうが、今のご時世なかなかそうはいかない。多数が他社から調達せざるを得ない。

増産するのなら、各社に交渉を行い「今、月100万個で貰ってる部品を月200万個にしてもらいたい」と言わなくてはならないが、これがもし各社のうち9割が「ありがとうございます。もちろん大丈夫ですよ」と答えても、たった一社が「いや、ウチは月110万が限界ですね」と言われたら、もうその時点で上限が110万として決まってしまう。

もちろん汎用品もあるので(GDDRメモリやDDRメモリも汎用品だ)、一つの部品を複数の会社から部材を調達するということも可能だろう。しかし目下の半導体不足、どこもとにかく足りていない。それにパソコンとは違いPS5は独自性が強いカスタムハードである(特にSSD周り)。なかなか増産しやすい機種とは言いにくい。これはXboxSeriesにもあてはまる。


そもそも、PS5はPS4のソフトも完全に動作し、ロードは速くなり、ソフトによってはフレームレートを改善してくれたり高画質にしてくれたりもする。PS4の累計出荷台数は1億台以上だ。実際は手放したり、買い直ししたりするだろうから熱心なアクティブ層が6000万人はいる、と仮定しよう。
そのうち半分が「より高速で動くPS4としてのPS5」として価値を見いだし、499ドルでもいいから買いたい! と思ったとしよう。およそ3000万台の需要が見込める。そしてこの時点ですでに供給が破綻することが確定した。PS5の初年間生産台数はおよそ1500万台だからだ。どうがんばっても1500万人の難民が生まれ、奪い合いが発生する。そして同時にこういった品不足の匂いに商機を嗅ぎつけ、転売ヤーがやってくる。

こうしてみるとPS4とSwitchはなるほど上手くできている。前機種との互換性はないのだから、購入動機はその機種で発売される新作ソフト目当てでしかありえない。だから前機種で概ね満足している層は「まだ買い時じゃないな」とブレーキを踏む。そうして新作ソフトを随時出していき、その機種の魅力を向上させると同時に台数を逐次出荷する。時間経過とともに増産体勢を取っていき、出荷スピードも上がっていく。タイミングを見計らい値下げ(まだSwitchは値下げしてないが)や新型を投入し、プラットフォームとしての寿命を延ばす。一度にどんと出荷することが出来ない以上、ずるずると長らく売れ続けるスタイルが理想であるし、結果としては概ね上手くいった(Switchはちょっと、途中で品不足になりすぎた感もあるが)。

こうしてみるとPS5の品不足はもはや「待つ」以外の選択肢がないのかと思えるが、即応的な対応策がないわけでもない。

思いっきり値上げしてしまえばいいのである。

例えば一台を10万円にしてしまおう。その時点で買いたいと思う人は一気に減少する。言い換えれば需要が減衰する。それでも欲しいと思う熱狂的な人たちだけが10万円を支払い購入する。利幅が増えるからそれなりにSIEも儲ける。転売ヤーも需要が減衰している商材には手を出しにくいし、売れ残った場合のダメージもでかい。そして売れなくなってきたタイミングで段階的に値下げを行っていけばよい。そうすれば需要も復活するだろう。

……現実に行うとなると、恐ろしく難しい案でもある。XboxやSwitchとの競争があるし、値下げのタイミングに悩まされるし、そもそも「赤字でハードを売ってソフトで回収」というビジネスモデルと相殺される。無理をしてハードを買い素寒貧になるユーザーだっているはずだ。SIE自体は儲けがでるからいいとしても、サードパーティに儲けがいかないのだから不満は出る。ユーザーからの反発もとてつもないものになるだろう。ユーザーの希望はいつだって「自分のタイミングでいつでも可能な限り安く、ハードを買いたい」なのだから。


以上、PS5の品薄に関しての状況解説を行ってきたが、一抹の不安がある。それはこの状況が、まるきりSwitch後継機に当てはまってしまうのだ。もしSwitch後継機がSwitchとの互換性を有しており、さらに高速・高画質化することができたなら、アクティブユーザーの多いSwitchの後継機は、PS5と同じように相応の需要が見込まれる。現在Switchの出荷台数は一億台に近しいところにいるので、大雑把に後継機の需要が4000万台と見込むとしたら、年間生産台数を1000万台にしたらとても足りない。2000万台でも二年はかかる。地獄の転売ヤー祭りになることは確定である。

あえて需要に水を注ぐために高価格をつけるべきだろうか? Switchが陳腐化するのを覚悟で生産開始から発売までの時間を長く長く取り、4000万台つくってから発売すべきだろうか? どちらも任天堂らしくなく無理があるように思える。

ファミコンが世に出て40年が経とうとしている。いよいよもってこの家庭用ゲーム機のハードビジネスは袋小路に陥ってしまったようだ。以前は世界で発売日がバラバラだった。年単位で違うこともあったので、需要はばらけ、生産が追いついた。PS4ですら日本はアメリカより三ヶ月遅れて発売された。Switchは世界の主要国で同時発売だったが、おそらく後継機はそれを実現するのは困難だろう。

そんななか、一社面白いアプローチを仕掛けているところがある。Xbox有するマイクロソフトだ。マイクロソフトはXbox Cloud Gamingというサービスを行っている。これはPC、スマホ、Xbox(XboxOneとXboxSeriesX/S両対応だ)で使用可能なクラウドゲーミングサービスである。クラウドゲーミングサービスとは、遠くにあるハイパワーなサーバーでゲームを行い、その映像だけを端末に送り、その端末で操作した次の画像をリアルタイムで次々に送り込んでいく手法である。これだと手元にある端末はハイパワーである必要なく、サーバーを増強してさえ行けば、より高画質でゲームが行うことができる。月度契約で1100円。プレイするゲームは時間と共に入れ替わるサブスクリプションだ。
未だベータ版であるサービスだが、このサービスが本格稼働すれば、まず「1/240秒でも速く新型Xboxを買いたい!」というユーザーをある程度押さえ込むことができるだろう。なにせ手持ちの旧型Xboxで高画質を体験できるのだから。

もちろん問題点もある。コントローラーだけは新型のものを買わないと、PS5のハプティックフィードバックやアダプティブトリガーのような付加価値がついた場合には対応しきれないし、そもそも遠隔地であるサーバーを経由しているため、遅延がどうしても発生する。1/60秒に拘るオンラインFPS/TPSあたりは死活問題だろう。

また、結構大きな問題点としてはクラウドサービス自体の将来性にクエスチョンマークがついている。
GoogleがStadiaという、クラウドゲーミングサービスを提供しているが、なんと日本で正式稼働する前に自社内のStadia専用ゲーム開発部門を閉鎖してしまった。
日本ではそれらに先駆けてG-clusterというクラウドゲーミングサービスが稼働しているが、専用デバイスである「G-cluster」は販売終了してしまい、今はスマホやAndroidTVや、対応TVを使ってのみのサービスである。

クラウドなら万事OKだ! とまったくいえない暗雲が立ちこめている状況である。(尚、他にはソフトバンクがGeForce Nowという「手持ちのPCゲームをクラウドゲーミングで出来るようにする」サービスを行っているし、SIEはPS3タイトルをクラウドで提供するPlayStation Nowというサービスも行っている。今年6月にはPS1/2タイトルまで拡充しPlayStation Plus プレミアムと改名する予定)

クラウドサービスにも限界はある。安定性の上ではどうしても家に高性能ゲーム機があること自体には叶わない。ネットワークがいくら進化しても、通信は光の速度を超えられず、サーバーを経由するたびに遅延が発生する。

それにそもそも、新しいゲーム機を所有すること自体に楽しみを覚えるユーザーだっているはずだ。そうした需要にクラウドサービスは応えてくれない。しかし品薄状態の飢餓を少しでも軽減してくれるには、選択肢としてはアリなのではないだろうか。

最後に、歴史的政治家大カトーの言葉を引用し、この記事を締めたい。

ともあれ転売ヤーは滅ぶべきであると考える次第である


参考文献
ゲーム・オーバー デヴィッド・シェフ



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