ウルトラマンZのセブンガーが最高な理由について

※本記事はウルトラマンZのネタバレに容赦ありませんが、インターネット利用者のウルトラマンZ履修率は100%であるため問題ありません。

人間の3大欲求をご存知でしょうか? そう、食欲、睡眠欲、新型機のピンチに駆けつける引退済みの旧型機欲の3つです。

ウルトラマンZの特空機セブンガーはこの欲に完璧に応えてくれました。最終回の雄姿に年甲斐もなくテレビの前で声をあげることと相成りました。

この「新型機のピンチに駆けつける引退済みの旧型機」はある種の王道ネタではありますが、我々は同時にこの展開に関して反する二つの欲求を混ぜ込んで有しています。

それは「意外性」「納得」です。まさかここで! という意外性か、やはりか! という納得かを、その展開に求めます。セブンガーはどちらを選択したのでしょうか。

おそろしいことにこの反する二つの要素をぶち込んできました。とんでもない構成力です。

今回の記事は如何に最終回でセブンガーが救援にきたことが凄いのか、そのミルフィーユ状になっている構成を丁寧に一つずつめくり挙げて解説していきます。



まず、セブンガーが旧型機になっていく流れを追ってみましょう。第一話の時点ですでにセブンガーは稼働しており、現役バリバリです。冒頭部分から現れたゴメスをワンパンで沈めるほどの高性能を見せつけてくれます。その後のがれき処理にも駆り出される汎用性もあります。

しかしその後現れた凶暴宇宙鮫ゲネガーグとの戦いで敗北。この時点で世界のインフレについていけなくなることを予感させます。続く第二話のネロンガ戦でもワンパン噛ますことに成功するものの、ネロンガのパワーを見せつける、どちらかといえば噛ませ犬の役に落ち着くことになります。しかしウルトラマンZのピンチを救う大事な仕事もきちんとこなし、ただのかませ犬ではないポテンシャルを見せてくれました。

より高性能な特空機二号ウィンダムの登場後はメインの役割をウィンダムやウルトラマンZに譲るも、サポート役をこなしつつ追加された必殺硬芯鉄拳弾で怪獣を一撃で屠る(!)こともあったりと、旧型機というよりは「つかいやすい標準機」「肉弾戦での壁役」としてその立場を固めていきます。

しかし三号機、キングジョーストレイジカスタムの登場後には深刻な問題が発生します。ストレイジには二人しかパイロットはおらず、そのうちの一人はウルトラマンZに変身するハルキ本人です。どうやっても三機同時出撃は不可能です。セブンガーは、一気に出番が少なくなっていきます。

そして14話、長らくの戦いを経てセブンガーは引退することになりました。ここで明確にセブンガーは旧型機と視聴者とストレイジメンバーに認識されたことになります。

しかし長らくの時を迎え、22話にセブンガーは再登場します。引退したセブンガーは展示品として屋外に出されていました。しかしそれでも整備は行われて、現れたバロッサ星人三代目相手に久しぶりの現役復帰。しかも苦戦するキングジョーストレイジカスタムを助けるべく、ウルトラマンZの武器、ベリアロクを借りてバロッサ星人をぶち倒すという大金星をあげます。まさしく見事な「新型機のピンチに駆けつける引退済みの旧型機」をやってのけました!

ウルトラマンZの凄いところは、これすら伏線に組み込んでしまった構成です。

結局セブンガーはそのまま現役続行とはならず、大金星を挙げた後の勇退となり再度屋外へと戻ります。

しかし最終回、後一度しかウルトラマンZに変身できず後がないハルキがキングジョーに、そして今まで指揮官として一度も特空機に乗ったことがないヘビクラ隊長がウィンダムに乗り込み、ヒロインでありストレイジのパイロットヨウコを取り込んだラスボス、デストルドスに立ち向かいます。

しかし圧倒的なパワーを誇るデストルドスの前に二機は大苦戦。そのままキングジョーは動作不能、ウィンダムはバッテリー切れにまで追い込まれます。
その二機に最凶の必殺技D4レイをぶちかまそうとするデストルドス。今まさに放たれようとする時、飛んでくる鉄拳! 大きくのけぞるデストルドス。不発に終わるD4レイ。そうそこにいるのは我らがセブンガー! そして乗っているのは……整備班班長バコさん! ウルトラマンZ瞬間最大アドレナリン放出量を更新した瞬間です(なお、これは最終回内であと3回更新されます)。

大方の視聴者が『セブンガーはこの前、復帰戦をしたから最終戦には来てくれないんだろうな……』と思わせておいて『再度復活しても問題ないのだ! なにせ引退しても整備は続いているんだからな!』という大胆な伏線回収をしている構成です。マンネリ? それ以上に燃える展開に仕立ててしまえばいいのです!

二機のピンチを救った上、バッテリーを持ってきたセブンガー。復旧したキングジョーとウィンダムと、ついに特空機三機でデストルドスに立ち向かう展開と相成るわけですが……この展開がどれだけ見事かというと、「パイロットが二人しかいない」から「特空機三機が並ぶことはない」というごくごく当たり前の事象に対して、「隊長ヘビクラも当然操縦できる」という答えと共に「整備班班長バコさんも操縦できる」という答えを返してきてる点につきます。パイロットが三人そろえば特空機三機が同時稼働してもおかしくない、いいね?

ウルトラマンZが凄いのがここで「意外性」「納得」の両立を実現させるため、伏線を張りまくっていた上で、伏線を伏線とわからないように迷彩を完璧に施していたところです。

まずバコさんは一度も劇中で「特空機を操縦できる」と明言されていません。されていませんが、我々はバコさんの様々な姿を見ています。マジックを披露するバコさん。マグロを一本釣りして見事そのマグロを捌いてみせるバコさん。地球防衛軍の正規隊員であるはずのハルキを軽く投げてみせるバコさん。多種多様な芸を取得し、そのたびに「昔、ちょっとな」を繰り返して何故こんなことができるのかをはぐらかしています。

つまりバコさんのキャラクター性は「昔、何かやってた謎多きキャラクターであり、何をしても不思議ではない」という要素が成り立っています。そのためバコさんがセブンガーを操縦できるのは意外ではありますが、納得せざるを得ないのです。彼が「昔、ちょっとなぁ!」といいながらセブンガーを操縦するのを私たちは幻視しているはずなのですから。

そうしてギャグ要素の振りをした伏線をはり、見事パイロットの確保に成功した構成をなしたわけですが、これとはまた別に、「バコさんがセブンガーを操縦できる」と思わせる要素が一つあります。
それはバコさん演じる俳優、橋爪淳氏はかつて特撮映画「ゴジラvsスペースゴジラ」にて飛行可能型対ゴジラ用超大型起動兵器(Mobile Operation Godzilla Expert Robot Aero-type.略してMOGERA)に乗り込んでゴジラと戦い、かつ共闘した過去があります。「昔、ちょっとな」というセリフには、この映画のことを示唆する意味がある……特撮オタクがそう思ったのも無理はありません(実際、今作のメイン監督田口清隆氏は一番好きな映画がゴジラvsスペースゴジラと公言しています)。このセリフはメタ要素としても見事に成り立っているのです。


これらの要素が幾重にも重なり、「セブンガーが助けにやってくる場面」を最高にテンションが上がる場面として演出するようになっています。恐れ入りました。しかも最終回ではたたみかけるようにこの後もテンションが上がる展開・場面が津波のようにやってきます。全てが終わった後はすがすがしいほどの達成感で満たされたことでしょう。


そんなウルトラマンZも最終回を迎えたあとは、次番組「ウルトラマントリガー」にてゲスト出演をしております。相変わらずのハルキとZに、ちょっとだけセブンガーも登場しました。なんと宇宙で活動できるように改造もされています。また「ウルトラヒーローズ バトルステージ EXPO 2021」においてはAIを搭載され、会話が可能になったセブンガーを見ることができます。最高の演出は、Zとセブンガーの人気を完全に確立させるに至りました。

現在、ウルトラマンシリーズはさらに次作「ウルトラマンデッカー」を放映中です。このウルトラマンデッカー内でZとセブンガーがゲスト出演する……という話はでていないので、おそらく登場する機会はないかと思いますが、このウルトラマンデッカー、とても面白いので皆さん見て下さい。

良い落ちが思いつかなかったので、うちの可愛いセブンガーを見て下さい


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