魂を受け継ぎし者達の物語 ─悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲─


TVゲームという遊戯が誕生して50年が経った。その長い歴史のなかで、大正解を引き当てたゲームがいくつも存在する。

ダッシュと無段階空中制御が横スクロールアクションで気持ちいいと知らしめたスーパーマリオブラザーズ。
親切丁寧なチュートリアルと、絶妙なゲームバランスでJRPGの基礎を作り上げたドラゴンクエスト。
分岐点が存在し、音も画像もでる文章を読み進めるサウンドノベルという新機軸を生み出した弟切草。

こういったゲームはその後、類似した作品を幾多にも生み出し、一つのジャンルとして成立させてしまう力を持つ。たとえ他社が真似をしても「パクリだ!」と糾弾されることもない。元のゲームから影響を受けたことは誰がみても明らかだからだ。それは同ジャンルの別ゲームとして理解される。わざわざパクリと指摘するのは無粋だ。

「おっ、この開発者たちはあのゲームが大好きなんだな。もちろん私も大好きだぜ!」

そのジャンルの創設者たりえたゲームの中に、「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」というものがある。これは現代でいうところの「メトロイドヴァニア」と称されるジャンルの始祖にあたる。

なぜ悪魔城ドラキュラなのに、メトロイドの名前が入っているのだ? と思われる方がいるかも知れないが…………まあ私のnoteを読みにくる方ならばほとんどの人が知っている事柄かも知れない。一応それらの背景を、ドラキュラシリーズの歴史を含めて解説していこう。

悪魔城ドラキュラが初めて登場したのは1986年ファミリーコンピュータ・ディスクシステム。おどろおどろしい怪物たちが集まる悪魔城に向かい、その城の主ドラキュラを打ち倒すことを目的とした、主人公シモン・ベルモンドを操る面クリア型横スクロールアクションだ。



リアルなグラフィックに、それを支える古典ホラー映画のような世界観、そして当時の人々を魅了したド派手なBGMに、なかなかに歯ごたえがある高い難易度。一気に評価は高まり、日本のみならずアメリカでも多くのファンを獲得した(アメリカではCastlevaniaの名前で発売された)。


シモンは聖なる鞭、バンパイアキラーを振るい攻撃し、ダメージを受けた場合は大きくその場から後ろに弾かれる。道中の燭台を破壊するとサブウェポンが出る場合があり、それを取得し、MPにあたるハートを消費することでサブウェポン攻撃をすることができる。攻撃を何回か受けても大丈夫なライフ制ではあるが、地面の穴に落ちてしまえば一撃で死亡してしまう。これと敵とのノックバックが重なり、不運な事故が大量に発生する事態が起こりえる。ダメージ覚悟ですすむごり押しが通じないため難易度が高いのだ。

もう一つ挙げるべきゲームデザインの良き点として隠し要素があげられる。なんの変哲もない壁や床を叩いてみると、破壊できてそこに回復アイテムが隠されていたりもする。皆、隠しブロックや隠しアイテムは大好きだ。マリオと同じように、夢中になって皆が壁を鞭で叩きまくった。

難易度が高いことは繰り返して書いているが、このゲームの素晴らしいところはその高難易度にランダム性をあまり織り込んでいないことだ。いやらしいメデューサヘッドの軌道は、わかりづらいが規則正しい曲線を描いているし、うっとおしいカラスは出現位置を覚えて攻撃を仕掛ければ容易に打ち倒せる。ボスの攻撃パターンも繰り返して覚えればどうくぐり抜けられるか見えてくるだろう。

こうした内容で高い評価を得た悪魔城ドラキュラは、続編を展開し、かつMSX2版が発売されたり、アーケード版が稼働したり、ゲームボーイにも新作が登場したりして人気IPへと躍り出た。直接的な続編ドラキュラⅡ 呪いの封印ではアクションRPG要素を組み込み、レベルアップと買い物の概念を取り入れたし、さらに続編の悪魔城伝説ではアルカード、グラントといったパートナーの存在や、選択制ステージ分岐といった要素が盛り込まれた。

こうした華々しい活躍の裏側で、一つの悲劇が起きた。初代悪魔城ドラキュラ、ドラキュラⅡ、悪魔城伝説の三部作を作り上げたディレクター、赤松仁司氏がコナミを退社したのだ。このあたりの仔細は不明だが、スーパーファミコン以降のドラキュラには赤松氏は関わっていない。1997年には別会社の別作品に赤松氏が携わっているのが確認できるので、この間で退社してしまったことがわかる(ちなみにPlayStationで発売された釣道-海釣り編-のディレクターである)。

しかし生みの親がいなくとも、意思を継いだスタッフたちがドラキュラシリーズを繋いでいく。X68000やメガドライブ、PCエンジンにも悪魔城ドラキュラはシリーズ展開をしていった。

そんなシリーズ展開の中で一つピックアップしたいのが、PCエンジンで発売された「悪魔城ドラキュラX 血の輪廻」だ。これはCD-ROMで収録されたゲームで、当時としてはまだ珍しかったCD-DAによる音源、オープニングとエンディングはアニメパートを織り込んだ意欲作だった。


引用元 https://www.konami.com/games/castlevania/jp/ja/page/history_1993_pce  ©コナミデジタルエンタテインメント


引用元 https://www.konami.com/games/castlevania/jp/ja/page/history_1993_pce  ©コナミデジタルエンタテインメント


主人公はシモンの子孫、リヒター・ベルモンド。彼を操り復活したドラキュラを打ち倒すオーソドックス2Dアクションだ。リヒターは一族の中でも武器の使い方が上手いという設定で、ハートを大量消費することで必殺技にあたる「アイテムクラッシュ」を使用することができる。また、バク転することでより高いジャンプをすることが可能であり、かつナイフが三つ同時投げになっていたり、斧の範囲が大きくなってきたりとシモンとの差異が強調されている(ちなみに当時のPCエンジンの客層にあわせたのか、マリアというアニメ系金髪少女もプレイアブルキャラとして存在する。彼女は二段ジャンプにダッシュに連続攻撃可能という、バランスブレイカー初心者救済キャラとなっている)。


ゲームデザイン的には悪魔城伝説のルート分岐を進化させた「裏ルート」が存在する。ごく普通にゲームをプレイする分には一本道なのだが、ステージ道中にはギミックがいくつかある。そのギミックを解くことでステージの裏道に入り込める。その裏道では別のボスが待ち構えており、そのボスを倒すことで通常面とは違う裏面を進むことができる。裏面と通常面とは交差しており、裏面を普通にクリアしてしまえば次は通常面だし、通常面もまた別のギミックを解くことでその次は裏面に入り込むことが可能だ。セーブ方式を導入しており、一度クリアした後も好きな面からやりなおすことが可能なので、どこにギミックが潜んでいるのか探すことに没頭できる。

BGMは「Vampire Killer」「Beginning」「Bloody Tears」といった歴代の名曲が見事にアレンジされ、心を打つ一方、「乾坤の血族」という新規曲が収録されており、当時から高い評価を受けていたコナミサウンドの意地を見せつけてくれた。

今作は非常に高い評価を受け、SFCへの移植も成された(悪魔城ドラキュラXXと改題された)。今作のディレクターは萩原徹氏であり、彼はもともとゲームボーイ版の魂斗羅や、ドラキュラ伝説Ⅱのプログラマーだった。今作でディレクターに昇格したが、彼に待っていたのはさらなる出世の道だった。プロデューサーになった彼が手がけた次世代機向けの新作。それが1997年PlayStation1で発売された「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」である。


月下の夜想曲(以下月下)はPCエンジン版悪魔城ドラキュラ 血の輪廻の直接的な続編である。

舞台はリヒターがドラキュラを打ち倒した5年後。伝説では100年に一度しか復活しないはずのドラキュラ城が今、なぜか復活(まぁこの設定はドラキュラⅡでとっくに破綻してるわけだが)。そしてかつてベルモンド一族と共にドラキュラと戦った男、アルカードが目覚める。アルカードはドラキュラの息子であり、その呪われた力を封印するためドラキュラ亡き後眠りについていた。しかしドラキュラ城の復活とともにアルカードの眠りも覚めてしまった。この異変はなんなのか、アルカードは単身ドラキュラ城に乗り込んでいく――

ゲームデザインは2Dスクロールアクションをベースにした上で、大幅に変わった。上下左右、あらゆる場所に進めるようになり、迷路のようなドラキュラ城を探索できるようになった。そのためボスは存在しても、ボスを倒してステージクリア、というものではなく、大きな一枚マップの中を探索するようになっている。あまりに広くなったため、マップが用意され、一度行った場所が記録されいつでも見直せるようになった。

その道中でどうしても行けそうにない場所は多数存在する。鍵のかかった扉、開けられそうにない鉄格子、高い場所に存在してジャンプでは届かない足場、などなど。ギミックを解くことで進める場所もあるにはあるものの、その多数は進められない未踏地区となる。

そうした場所はボスを倒し、アルカードが新しい力を手に入れることで進めるようになる。オオカミになれば高速移動することが可能となり、コウモリになれば高い場所へもたどり着ける。霧になれば格子をすり抜けることができるようにもなるし、小悪魔を召喚すれば離れたスイッチを押させて扉を開けさせることだってできる。

このような探索要素をこれでもかと詰め込む一方で、基本的なシステムに大きく手を入れた。敵を倒すたびに経験値を獲得できるようにし、レベルアップ要素を盛り込んだ。さらにはRPGらしくアイテムと装備を追加した。
当初アルカードはレベル1で、強力な装備を纏っている。しかし死神と遭遇したあと、警告とともにその装備をすべて奪われてしまう。徒手空拳で進むハメになったアルカードは、敵スケルトンが有しているショートソードや錆びた大剣を、相手を倒して奪う。それを装備することで攻撃力を微弱ながらあげることができる。最初のうちは攻撃力が弱い武器しかないものの、悪魔城を踏破していくたびに新しい武器が手に入っていく。それらの武器は小剣、大剣以外にも棍棒やカイザーナックル、さらには爆弾やブーメランと多種多様だ。アルカードはベルモンド一族ではないので、鞭ではない攻撃を繰り出し進んでいく。これにより戦略の幅が生まれた。隙が少ない小剣か、威力が高い大剣か。バックダッシュが用意されているのでそれで隙を埋めるプレイヤースキルを習得すれば大剣はより強烈な攻撃を繰り出せるようになる。

プレイヤーに戦略の幅をもたせた一方でレベルアップ要素は初心者救済にもなっている。四苦八苦して倒した敵も、レベルが上がればサクサク倒せる鴨に変わる。探索で迷ってうろうろとしている道中も、経験値稼ぎと思えば無駄にならない。見事なセンスである。

さらに各地に存在する隠し部屋は、一度踏破したエリアでも「もしかしたらここにも何かあるかもしれない」とプレイヤーに思わせることに成功している。そう思えばプレイヤーは何度も往復し、隠し部屋を探すために攻撃しまくる。踏破したエリアを再度めぐる導線ができているのだ。隠し部屋にはパワーアップアイテムや、お金、そして装備が隠れている。それらを身につけることでアルカードをより強化することが可能だ。もし倒せないボスがいるのなら、経験値稼ぎをするついでに隠し部屋探しに没頭するのもよい。

こうした一連のゲームデザインにプレイヤーはとあるゲームを思い出させる。そう、「メトロイドヴァニア」の語源となったもう一つのほう、メトロイドである。

メトロイドは1986年ファミリーコンピュータ・ディスクシステム(奇しくも悪魔城ドラキュラと同じ年、同じプラットフォームの出身である)で発売された探索アクションゲームである。とある惑星にたどり着いた主人公サムス・アランを操作し、マザーブレインを撃破することが目的であるが、最初のサムスはまだ未熟な状態でほとんどのスキルが使えない。しかし探索を進め、隠れたアイテムを見つけ、ボスを撃破することでサムスはどんどんと強くなる。ミサイルの弾数は増え、ライフの上限は伸び、ビームの威力は上がっていく。ジャンプ力も飛躍し、最終的にはスクリューアタックという体当たりも可能となる。あたらしいスキルを手に入れるたびに、サムスはいけなかった場所にもいけるようになるのだ。

メトロイドも人気作となり、ゲームボーイで続編のメトロイドⅡが登場した。そして次作のスーパーメトロイドではマップ機能が追加され、システムが完成に至る。装備の切り替えに、マップのダウンロード機能という要素、ダッシュを越えたスピードを手に入れることができるスピードブースターと、シャインスパーク。そして最終的には無限にジャンプしつづけることが出来るようになり、縦横無尽にステージを駆けるサムスの姿を拝むことが出来る。

こうして記述すると驚くほどに月下との共通点が多い。実際はメトロイドよりもゼルダの伝説のほうにより強く影響を受けた、という内容を月下のアシスタントディレクターであったIGAこと五十嵐孝司氏が語っているが。

だからといって月下がメトロイドのパクリである……と怒り狂うファンはいなかった。メトロイド自体、あまりに完成度が飛び抜けて高すぎたためか、類似した作品がない孤高の存在となっていた。それにようやく追随する存在が現れた、と好意的になったわけである。

それにまさか、メトロイドのような探索アクションと、レベルアップや武器装備のRPG要素の食い合わせが非常に良い、ということは誰も思っても見なかった。バター醤油という組み合わせを考えた人にノーベル平和賞をあげたくなるのと同じである。

メトロイド要素を昇華し、進化させた月下が導入した新規要素がもう一つあった。それは最後の最後に明かされる。

月下では踏破するエリアが広がるたびに、ストーリーが展開していく。なぜドラキュラ城が復活したのか。
その奥でアルカードは出会うのはなんと前作の主人公リヒター・ベルモンド。彼自身がこのドラキュラ城を復活させたという。なぜそのような真似をしたのか。彼はかつての戦いで全力を尽くし、世界の敵であるドラキュラを倒した。そう、倒してしまった。以後の平和の時代では、もうすでに彼の力を振るえる機会などあるわけがない。俺より強い奴に会いに行くため、リヒターは悪魔城を復活させ、その主として君臨したのである。

悪魔城の最奥部にて、アルカードはリヒターと対峙する。そして特定条件を満たすことで先に進めるようになるのだが、そのあまりにも衝撃的な展開に、私はテレビの前でひっくり返ってしまった。おそらく当時のプレイヤーたちの大多数もひっくり返ったことだろう。それほどのトンデモ展開が待ち構えていた。これは是非、実際に見て驚いていただきたい。

こうしてプレイヤーにゲームプレイの楽しさと、衝撃的な展開をあたえ、高評価を得た月下ではあるが、一つの問題点が発生した。

売上が伸びなかったのである。

当時の人気ジャンルといえばストリートファイターや、KOFシリーズに代表されるような格闘ゲームに、ファイナルファンタジー7のようなムービーてんこもりのRPG。そしてマリオ64のような完全3D世界のアクションである。スーパーメトロイドの進化系のような月下は時代遅れに見えてしまい、あまり注目されなかった。実際に購入し、プレイした人たちが声を大にして「これは傑作だ!」と布教活動に励んだが、あまり効果が出たとは言えなかった。

月下はこの後サターン版を発売しているが、このサターン版も売上が特別伸びた……というわけではない。出荷本数はさほどでもなかったため、現代ではレアソフトとしてプレミアがついてしまっている(売らずに取っときゃ良かった)

そして評価の高さは海外を中心に、メトロイドと、悪魔城ドラキュラの海外名キャッスルバニアをもじり、後に「メトロイドヴァニア」という造語が出来上がることとなった。しかしこの名称の一方で、フォロワー作品は見つからない、という事態になった。月下はオンリーワン作品になってしまった。

しかしここからこのシリーズは奇妙な歴史を辿ることになる。まず、制作者の萩原徹氏が出世街道を歩むことでドラキュラシリーズに関わらなくなっていく。
萩原徹氏はまず月下をつくったKCE東京(コナミの開発子会社)の取締役に出世する。さらに制作開発部長兼システム室長、制作推進部門統括部長兼技術研究部長兼ヒューマンリソース企画部長といった肩書きもつき、PS2時代のウイニングイレブンシリーズに携わったり、PSPのシューティング移植作品のスーパーバイザーとして携わる。どんどんとドラキュラシリーズに携わることが非常に少なくなっていく(一応移植作である悪魔城年代記に関わってはいる)。

その一方で、月下のシステムを継承した作品が登場する。それが2001年に発売されたGBAのロンチタイトルである「悪魔城ドラキュラ サークル オブ ザ ムーン」である。月下とは制作スタジオ自体が違うが(月下はKCE東京、今作は元の悪魔城シリーズの生みの親KCE神戸である)、マップと探索を組み込んだまさしく月下の続編である。武器の変更はなく、あくまで鞭だけではあるが、カードをセットすることで様々な能力を発揮するDSS(デュアルセットアップシステム)を売りにしていた。

これは海外で特に好評であり、公式に海外出荷50万本越えの出荷実績を誇っている。実は正当な続編ではない、外伝作品ではあるのだが、月下の次を待ち望んでいた人々にとって待望のゲームであったことに違いない。

そしてドラキュラはGBAでさらなるシリーズ展開を広げることになる。それを支えたスタッフが、IGAこと五十嵐孝司である。彼は月下の制作スタッフの一人であり、シナリオとプログラムを担当していた。萩原徹氏がプロデューサーに昇格するのとあわせ、彼もアシスタントディレクターへとなった。

彼は萩原氏から色んなことを学び取った。開発プロセスの最適化と、人々を幸せにすることに対して情熱を燃やすこと……である。彼は求められているものをきちんと把握し、それを忠実に再現してみせた。

萩原氏から開発の手法と、情熱と、そしてメトロイドヴァニアの歴史を受け継いだ五十嵐氏が手がけた作品、それがGBAで発売された「キャッスルヴァニア 白夜の協奏曲」である。今作では武器装備が復活(鞭に装備するアタッチメントとして)し、より月下に近いゲームシステムに変わった。

「ゲームボーイアドバンスで月下の夜想曲みたいなゲームを作りたい」

それが五十嵐氏の目標であった。この目標は今作で完全に達成した。サークルオブザムーンは悪いゲームではなかったが、月下フォロワーとしては白夜の協奏曲のほうがより合致していたのである。

そして五十嵐氏は続編を手がける。2003年に発売した「キャッスルヴァニア 暁月の円舞曲」では舞台を未来の日本に変更し、主人公はドラキュラの力を受け継いでしまった高校生、来須蒼真となった。来須は最初こそ貧弱であるが、敵の能力を奪い、自らの力を拡大させ、最終的には重力すら無視して画面を高速移動する超力キャラへと変化する。

GBAで三部作を発売した後、プラットフォームを時代に合わせて変えた。ニンテンドーDSで、「蒼月の十字架」「ギャラリー オブ ラビリンス」「奪われた刻印」の三部作を発売する。これらはゲームシステムや主人公に差異があるが、月下フォロワーとして逸脱のない範囲であり、かつ全体的に出来が良かった。


──しかしコナミから出る月下フォロワーはここで途切れることとなる。


月下ファンは大いに落胆することになったが、これには事情があった。売上がとにかく振るわないのだ。サークルオブザムーンの50万出荷の栄光は過去のものとなり、公式が売上を誇ることはどんどんなくなっていく。参考までに日本の売上でいうと、最終作の奪われた刻印の売上は5万本に満たない。海外でもチャートの上位に出ることはなかった。評価は高いものの、売上は伸びない。そういったジレンマに本家メトロイドヴァニアは陥ってしまった。

しかも決して悪魔城ドラキュラというIP自体の人気が低迷していた、ということを意味しない。悪魔城ドラキュラはPlayStationを中心に3Dアクションの別シリーズが展開されていたが、別スタジオがつくり、PS3/360/PCでリリースされた「キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ」という作品は(日本のローカライズと監修を小島プロダクションが手がけたことで知られている)2010年に発売されたところで200万本以上の売上を誇り、かつこれは悪魔城シリーズの中でもっとも優れた売上となった。



コナミとしては売れもしないシリーズに注力する必要性はどこにも存在しない。ロードオブシャドウ2を進める一方で、五十嵐氏は次第に社内に居場所がなくなっていく。少ない予算をやりくりし、なんとかしてXbox Live Arcade向けに今までの集大成とも言える「悪魔城ドラキュラ ハーモニー オブ ディスペア」を発売するが、これはメトロイドヴァニアとはいえない、マルチプレイ対応アクションゲームだ。2012年にはPS3向けにも発売されたが、売上が上々だった……という話はついぞ、聞くことはなかった。

そしてついに、2014年、五十嵐氏もコナミを後にする。メトロイドヴァニアの血脈は経たれてしまったように見えた。

しかし、である。時代は進み、動画サイトが興隆し始めた。youtubeやニコニコ動画といった動画サイトで、次第にリアルタイムアタックや、TAS動画の人気が出はじめた。その際、月下や、GBA三部作や、DS三部作が見直されるようになった。未プレイの視聴者であったとしても、上に落ち、超高速で部屋と部屋の間を飛び、開始二分でラスボスに到達し、骨を投げて倒すその勇姿は興味をそそられたのだ。さらにそれを彩る素晴らしいBGMは、動画人気を支えるのに十分だった。

発売後幾年も経ってから、次第に人気が再度加速し始めた。中古のGBAソフトやDSソフトを買おうとするプレイヤーが現れ、中古価格は高騰しはじめた。

そしてもう一つ、大手ゲームメーカーが追従しなかったメトロイドヴァニアというジャンルは、インディーズ系の開発者らによって次第にその彩りを増していった。

洞窟物語は2004年に登場したWindows用フリーゲームだが、その完成度の高さゆえにメジャーメーカーの目に止まり、一般発売された希有の経緯をもつ作品であり、そして立派なメトロイドヴァニアだ。

シャンティシリーズは元々2002年にゲームボーイカラーで発売された第一作を始祖に持つ。北米の開発会社が作ったこの作品は(というわけで厳密にはインディー作品というわけではないのだが)、日本ライクに作られていてかつ出来映えが非常に良かった。売上は振るわなかったものの、2010年には続編をリリースすることに成功し、次第に名声に見合った売上も得られるようになる。そして三作目はついに日本でもリリースが決定し、「シャンティ 海賊の呪い」として3DSやPS4、XboxOneで発売されている。これも見事にメトロイドヴァニアの血筋を引いた作品だ。

Oriも忘れてはいけない大事なメトロイドヴァニアだ。みとれてしまうほど美しいグラフィックに、恐ろしく広大なマップ。そして各地に隠されたギミック。主人公Oriの能力は探索と共に伸び、その能力を活かすプレイヤースキルが要求されるなかなかハードな難易度だ。初代はオリとくらやみの森と銘打たれて日本で提供されたが、なんとバックにマイクロソフトがつくことになった。続編、Ori and the Will of the Wispsも素晴らしい出来映えだった。

Touhou Luna Nightsも素晴らしいメトロイドヴァニアだ。2019年にSteamで登場した作品だが、遅れてXboxやSwitchにも発売されている。探索要素はシンプルに纏めているが、時を止めるという要素がゲームの奥深さを支えている。敵や敵弾に近づき掠らせることで力を吸収し、それを攻撃に転用したりHPを回復できたりする。ボス戦は頭を使って如何に画面を埋め尽くす敵弾を回避するか試行錯誤を繰り返すこととなる。名前のとおり登場キャラは全員東方キャラなのだが、東方キャラを知らなくてもなんの問題もない。事実、私は東方キャラを全然知らないでもエンディングを迎えることができた。


こうした興隆するメトロイドヴァニアフォロワーに押されるように、ついにあの男が帰ってきた。萩原徹氏から、魂と、情熱と、メトロイドヴァニアを受け継いだ男が。
五十嵐氏が自身の新作としてBloodstained: Ritual of the Night(以下ブラッドステインド)を発表したのだ。五十嵐氏は独立し株式会社ArtPlayを設立していた。そこでビジネスパートナーを募集しつつ、キックスターターを活用し資金集めを行った結果、500万ドルという多額の出資金を集めることもできた。それを元手にメトロイドヴァニアフォロワーである新作を発表した(その間に8bitアクション風のCurse of the Moonの発売も行った)のだ。

このブラッドステインド、五十嵐氏自身が

我々に何を期待しているのかと言うと、その時期に遊べなかったタイトルをもう一回遊びたいだろうという事と、大手を出てもちゃんとそれが作ることができるという安心感を与えたかった

https://jp.ign.com/bloodstained-ritual-of-the-night/39614/interview/bloodstained-ritual-of-the-night

と語っている。プレイヤーが求めている純粋純血のメトロイドヴァニアを提供する気概が、彼には満ちていた。開発は長きに渡ったが、ついに2019年、PS4/Xbox/PC/Switchにて発売された。


敵を打ち倒し経験値を稼ぎ、探索を続けスキルを獲得し、町の人のクエストをこなして素材を貰い、その素材をあつめて料理をして食べて回復してパラメータを上昇させる……という、コテコテのメトロイドヴァニアだ。なんとBGM担当も今まで五十嵐氏と長年コンビを組んできた山根ミチル女史である。今作でもその本領を全力で発揮している。
あまりにコテコテすぎてストーリー展開の先が見えてラスボスの登場前にラスボスが誰なのかわかってしまったが、些細なことだった。ラーメンを注文してラーメンがでてきたことに文句をつける奴はいない。そういうことだ。そしてそのラーメンが非常に美味かったのだから素晴らしい。

そしてこのブラッドステインドは本家の月下フォロワーがなしえなかったことをやってのけた。ついに売上が100万本を超えたのである。


メトロイドヴァニアは最盛期を迎え、さらに繁栄を続けようとしている。いまや孤高の1ジャンルですまない、大人気ジャンルへと変貌した。


その様相を見て、ついにコナミ本体も動きを見せだした。

2021年、長らく移植されていなかったGBA三部作が(厳密にいうとWii UのGBAバーチャルコンソールで配信されてはいたが)、悪魔城ドラキュラXXと共にCastlevania Advance CollectionとしてPS4/Xbox/PC/Switch各プラットフォームに配信を始めたのだ。


そしてあの月下の夜想曲も、スマホアプリ版としてiPhone/Android向けに提供を始めた。お値段なんと480円である。

スマホじゃいやだ! という方向けには悪魔城ドラキュラXセレクション
月下の夜想曲&血の輪廻
というカップリング作がPS4で配信されているし、Xbox向けには360用に移植された月下が今でも互換対応でプレイ可能だ(ついでにいうと ハーモニー オブ ディスペアも互換対応しているので是非購入して貰いたい)。


「探索型の悪魔城ドラキュラ」というIPは不遇な冬をくぐり抜け、日の当たる時代へと到達しつつある。

これも月下の夜想曲が好きだと、ほとばしる情熱をゲームにたたきつけたインディー開発者たちがいたおかげだ。コナミを飛び出してまでもファンの要望に応えて見せた五十嵐氏がいたおかげだ。

なによりその根源には、月下の夜想曲を作り上げた萩原徹氏と、悪魔城ドラキュラという偉大なる作品を作り上げた赤松仁司氏の功績があった。彼ら二人と、悪魔城ドラキュラを継いだスタッフ達なくしては現代のメトロイドヴァニアは存在しなかった。この偉人たちに対して敬意を表し、この記事を捧げたい。


最後になるが、この言葉をもってこの記事を締めたいと思う。

ファミコンに『悪魔城すぺしゃる ぼくドラキュラくん』という、アルカードではないドラキュラの息子が主人公の作品があるんですが……ドラキュラさん、アンタ浮気していましたね??


─終わり─

参考資料


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