童貞男子 ルワンダ美女とランチ

二十歳の誕生日を迎えた私は童貞である。


高専を休学してアフリカはルワンダ共和国に来た。ルワンダに来た目的は、道路直しをしているNPO団体でインターンシップをさせていただくことである。しかし、その前に語学学校に行って英語を勉強したいと考えていた。そんなことでルワンダの首都キガリにある語学学校に通うことになった。


中国資本のスーパーマーケットの上にあるその語学学校に着くと、まずテキトーに日本人であること、そしてとりあえず1ヶ月勉強したいということを伝えて、三段階あるクラスのうち真ん中の中級レベルのクラスに入れられた。


その語学学校は、先生が一方的に教えて多くの学生が聞くというスタイルであるが、日本のように学生が黙って聞いているというような感じではない。先生自身も学生に質問をよくするし、学生もどんどん発言するので活気に溢れている。

「これがルワンダスタイルか!」と思いながらスタートした。ビル4階の1フロアのみのキャンパスライフ。


この学校は毎日のように誰かが新たに入り、また止めていくというような入れ替わりが激しい学校らしい。そんな中、私と同時期に入ってきたクリスティーンという女性がいた。聞くと同年代らしい。二十歳かそこらへん。そして同じクラスになった。


久しぶりにドキっとした。身長は私と同じくらいだがスタイルが良く、ガリガリという印象は全くない。顔立ちもしっかりしているし肌もきれい。黒人特有の厚めの唇には真っ赤な口紅が塗られ、ドレッドなのにショートヘアという今どきのルワンダンギャルである。

日本のギャルとは真逆で、物静かで大和なでしこ的な美しさも兼ね備えた女性である。どこか京都の舞妓さんを想わす視線を授業中にも私に送ってくるのだ。ギャルと舞妓さんを掛け合わすという、童貞日本男児の頭は授業など忘れてお花畑である。


その日は朝起きてから、家族ラインやFacebookで一定のメッセージを受けて返信した後に、学校に向かった。

授業中も相変わらず可愛いクリスティーンに内心デレデレしていた。

どんな会話の流れか覚えていないが、クラスの中で今日誕生日であることを伝えた。するとその授業の先生が下のスーパーにあるちょっとしたケーキを買ってきてくれて授業中にみんなで食べることになった。


誕生日の主役である私が切り分けてみんなに配るようにと先生に言われたので切り分けようとすると、

「クリスティーンも手伝ってあげて!だってカズキのガールフレンドでしょ!」的なわけのわからないことを先生が言った。

まんざらでもないと心の中でガッツポーズが3回出たが、顔は平然を装っていたつもりだ。

クラス全体の雰囲気的に同時期入った同年代の男女ということでセットとして覚えられていたのかもしれない。実際には全くそのような関係ではない。

一緒に切り分けてみんなに配る。その後は談笑して授業終了。


授業終了後に帰宅するクリスティーンに話しかけた。それまであまり話していなかったが、これをいい機会に勇気をだした。話した内容は完全に忘れているが、建物の4階から1階に降りるエレベーターの中でも話していたと思う。

別れ際に、「もしこの後用事がなければ昼飯食べない?」と伝えた。あまり大きな声ではなく、しかし笑顔で了承してくれた。明確には覚えていないが女性を食事に誘うなどこれ以前にしたことがあっただろうか。しかも二人だけで。

急遽決まったランチではあるが、私自身は当然楽しいものになると思っていた。彼女は私の話を聞いて穏やかに微笑み、そして私に対して好意の眼差しを向けてくる。会話が止まった時間も気まずくなることなく静かに外の景色を眺めながらこの美しい時間を楽しむ。当たり前のようにそしてスマートに会計を済ませ、食後のコーヒーでも飲みにカフェに入る。忙しなく流れるキガリの風景に、二人だけはその時間を見つめあいながら、そして微笑みあいながら過ごしていく。


こんな理想が現実のものになると信じていたのはレストランに入って5分間くらいまでだった。現実のものになったのは自分がすべての会計を持ったことのみで、もちろん会話が止まり心底気まずくなった。見つめあいながら過ごすはずの静かな時間も彼女はスマホを使いだし、私の見つめる対象はなくなった。カフェに行くわけもなく、20分くらいでレストランを出たと記憶している。


「経験のない童貞男子の初ランチなどその程度だ」

帰り道、受け入れがたい現実に戸惑いつつ自分を必死で勇気づけていた。


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