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「風景スケッチ」上達法・・・レッスン3

「スケッチ淡彩の基本」    

彩の森・入間公園

 天気の良い時に絵が描けると一番いいように思いますが、なかなか思うようにはいかないものです。
そういう時は、その日の天気に、自分を合わせて描けばいいですね。相手に合わせて描いていけば、自分の好みや選択とは違うものが画面の中に入ってくるはずです。そうすれば、描こうとも思わなかった、考えもしなかったような絵が描けると思います。
「絵を描く」ということを、特別なことにせず、毎日の生活の一部と考えると良いのではないでしょうか。朝起きて顔を洗ったり、歯を磨いたり、出かけたついでに辺りを散歩するといった事と同じように、ごく当たり前のことにしてみるのです。
そんな時に、身近に「紙と筆記用具」があれば、メモのようにして絵を描いてみましょう。絵の具など携帯してなければスケッチだけでもいいですね。スケッチしたものに後で彩色してみるのもいいです。現場を離れては描けないという人もいますが、現場にとらわれないで描ける絶好の機会になります。
    今回は、「スケッチする時に風景のどこを見て描くのか」ということを考えてみましょう。

  1. はじめは、ぼんやりと眺めて、描きましょう。

  2.   現地に着いて絵を描く場所を決める時あまり歩き回らず、パッと見ていいなと感じた所にしましょう。「いいなあ」と感じた自分の感性を大事にするという事です。場所選びに時間をとられるとスタートが遅くなり、気持ちに余裕がなくなるからです。
    もし、同じ場所に他の人がいても、少し場所をずらせば描くことができます。自分の前に人がいて視界をさえぎられても気にしないで見ることです。(みんなが描いているから、絵を描くのに良い場所であるとは限りません。少し続けて描いていくと,いい場所だから絵が良くなるとは言えないことに気づかれることでしょう。)

  3. 人には、自分の好みの場所や風景というのがあるようで、長く描いていると、その人のクセのようなものが絵に出てくることがあります。自分ではなかなか気がつかないのですが、描いた絵を複数並
    べて見てみると、同じような構図が目だつということがでてきます。
    ふだんあまり描かないような場所に敢えて立ってみることをお勧めするのはそういうわけがあります。

  4. 描く場所を決めたら、なるべく早く筆記用具(ダーマートグラフやペン)と紙を用意しましょう。これは、「パッと見た風景の第一印象をいち早く描き留める」為です。印象というのは、それほど長い
    時間続くものではなく、その場所に立って時間が経つうちに、初めの印象がだんだん薄れてしまいます。それは,その場所に目が慣れるからで、少しずつモノが良く見えてきます。細かなところにも目が向くようになり、初めは気がつかないでいたモノが見えてきます。

  5. 目が周りの環境に慣れすぎてしまわないうちに、一枚目のスケッチを手早く始めましょう。立つ場所が決まったらすぐに描き始めましょう。その時に大切な事は、「風景をぼんやりと眺める」ということです。はじめから目を見開いてモノの細部までしっかり見ようとしないで、ぜんたいをぼんやりと眺めます。全体をぼんやりと眺めるには、目を少し閉じて見たり片目で見るといいです。
    そうするとモノの輪郭がはっきりとしないで、明るいところと暗いところの「凡その広がり」が見えてきます。

  6. 「建物と緑が見える風景」なら,どのあたりに建物があり,緑の広がりは,どのように見えているのか,大まかな範囲,形,広がりをスケッチしてみましょう。正確でなくて良いので,大体の様子が分かればいいのです。
    その後で,明るいところと暗いところを見て,暗いところを描き加えていきます。

  7. モノの形を描く前に、「明暗をスケッチする」
      描く対象にもよるのですが、こうした見方ですすめるときには、あまり複雑なものが多くない風景のほうが見易いでしょう。たとえば、「建物のある風景」を描く場合でも、樹木や植物を手前にしてその奥に建物がところどろ見えているような対象の方が見易いでしょう。
     もちろん、建物をメインにしてしっかり向き合ってみることも大事です。でも、その日の一枚目は、前述のように「全体をぼんやりと眺めながら明暗をスケッチしていけるような対象」を描いてみたらどうでしよぅか。
     そして、一枚目を最後まで仕上げようとしないで、なるべく描きすぎないうちに、途中で、ある程度の所で、やめることです。きちんとした形にまで描かないといけないと思わずに、後で手をかけて仕上げていけばよいので、そのままほっておきます。

  8. 建物を画面の中に入れて描く時は、建物の構造を大まかにつかむことが大事です。建物の形を正確につかもうと克明に測り、定規で引いたような線を描かないことです。建物を描く時には、大事なポイントを押さえて見ることが大切です。横幅に対して高さがどれほどあるか、屋根や窓の傾きを見間違わないようにして描いていきます。なるべく薄い線で描き始めて、描き進めながら修正していけばいいです。
     一回で正確な線を描こうとせずに、描きながら違っていることに気づいたら、その時に直していきます。線が二重になりますが、それが目立たないように、なるべく筆圧を加減して淡い線で描きましょう。

  9. 建物を描くとき、大まかな構造がつかめたら、暗く見える部分を改めて見直して加筆していきます。ダーマートでもレタリングペンでも、同じように明暗を見ていくことで、おおまかな形を描くことができます。はじめはぼんやりとしていて頼りないようなものが、少しずつ形がみえていくようなイメージで描いていけばいいのです。
    初めの段階のスケッチでは、力を入れずに薄い線で,かなり大雑把に描いておけばいいのです。多少曲がっていても間違っているように見えても、気にせずに、後で直していけると考えて気楽に描きましょう。
    もし,天気が良くて日差しが影を作っているような時は,最初に見た陰影に注目してスケッチしておきましょう。影の範囲や位置,長さ,向きを観察して描いておくということです。よく,絵が出来上がる頃に影を入れる人がいますが,それではその場に最初に立って見た時の印象とは大幅に違ってしまうでしょう。
    描き始めてから1時間たったとして,絵が出来上がるその頃には,影の位置は大きく変わっていて,そこから受ける印象も違ったものになってしまいます。

  10. 彩色は「固有な色」にこだわりすぎないように

  11. ある程度スケッチしたら彩色に移りますが、風景を目の前にしてモノの色を見ていくと、対象の色になるべく忠実に描こうという意識が強くなります。対象の色に刺激を受けたり、その色の感じを表現することはとても大事なことです。その場で見た色合いと余りにもかけ離れた色彩で画面を覆っていくことは、スケッチ画の良さを見失うことにもなりかねません。
     しかし、そのモノに備わっている固有な色彩を忠実に再現しようとする余り,手をかけすぎて、初めに見た印象とかけ離れてしまうことがあります。現場で見た色の再現に縛られないで、パレットの上にできた色を塗るとしたら,画面のどこが相応しいかと考えてみましょう。物に合わせて色を作って彩色するのではなくて,できた色はどこに塗ると良いか,相応しいかと見ていくわけです。

  12. その時に大事なことは,彩色の手順や進め方を知っておくということです。「スケッチ淡彩」の描き方では,彩色の基本的な進め方として大切にしたいポイントがあります。

  13. 画面上で広いところ(草原や地面,建物の壁といったような)から塗るということ。ただし空は一番最後にする。

  14. その中でも,明るい色合いのところから塗り始めること。

  15. 色をベタ塗りせずに,紙の白さ,余白を空けて塗ること。初めに余白を十分に空けて置かないと,画面の明るさが
    後半に進むにつれて失われていくので。

  16. 水の量が多くなり過ぎないように色を混ぜて作ること。

  17. 絵の具にたいして水の量が多すぎると,画面に水たまりができて乾きにくいし,重ねて塗ることもやりにくくなる。

  18. 水の量が多いと,色の「切れや鮮やかさ」がなくなり,ぼんやりとした生気に欠ける画面になること。

  19. 色を重ねることで明るさの段階を少しずつ深く(濃く)していくこと。

  20. 色の明るさは,暗い部分の色との対比で強められること。などなど,彩色には,奥の深いところがあります。

  21. 描きすぎないようにして,中途で手を止める

  22. ダーマートグラフによる最初の簡略なスケッチが描けたら,明るい色合いから彩色して,さらに色を重ね,少し乾かした後で,もう一度ダーマートグラフによる加筆をします。
     この時に初めのスケッチで「見誤っていたところ」や「見落としていたもの」を描き加えて,より具体的な形を作っていくようにします。
     1回目のスケッチの上に彩色したことで,色彩とダーマートグラフの線が重なり合い,より具体的なイメージが作られていきます。また最初のダーマートグラフが薄い色で描いてあれば,その上に加筆することも修正することも容易にできます。
     2度目にダーマートグラフを使う時に,加筆や修正だけでなく,「近いところと遠いところの違い」や「疎らにみえるところと密にみえるところの違い」,「明るいところと暗いところの範囲」などをダーマートグラフの強弱や速さで表現することも大切です。

  23.  こうして,最初のスケッチ→彩色→2度目のスケッチ(ダーマートグラフによる加筆)→2度目の彩色(色を重ねて深くする)で、およそ6割ていど出来上がったとしましょう。その後は,先を急がずに手を休め,中途の状態のままで,その絵は置いておきましょう。6割ぐらいの仕上がりでも,絵としてはかなりの内容を備えたものになっているはずです。
     こうした絵としては「浅い段階のスケッチ」をいくつも描いて自分の手元に置いておき,見直してみるのです。透明なクリアーファイルに絵を入れて壁などに架け,いつでも目に留まるようにしておくのも良いです。
     そして,この段階から先に絵を勧めるときには,もう,最初に見た現場の再現ではなくて,今,目の前にしている自分のスケッチのどこに手を加えたらよいかと考えてぼんやり眺めて見ましょう。そ
    うすると,彩色の段階が浅いことに気づいたり,何か物足りないように感じたりするはずです。そこで,今よりも深い色を部分的に重ねることや,不足の画面に何かを加えるといった自分の動きが出てくることになるでしょう。

  24. そのように進めていくと,「スケッチ淡彩」というのは,単にスケッチした線に淡い色を塗るというだけではないということになります。「スケッチ淡彩」は,あくまで絵を描いていく取り掛かりであって目的ではないのです。どこまで描けば絵ができたかというのは絵を描く人の判断で,どこで終わっても良いということです。自分の絵から,何かを感じて物足りなさを感じたら,その時が手を入れる機会ということになります。

  25. 冒頭で書きましたように、絵を描くことを生活の一部にして、見た印象をメモする(記録する)ようなつもりでスケッチしてみましょう。簡単に彩色したら現場を離れたところで続きをやりましょう。スケッチしたままで彩色せず、あとで色合いを思い出しながら、自分の印象で色を付けていくというのもスケッチの楽しいところです。
     そういうこともやりながら、風景と向き合ってやり取りしたことを「スケッチ」という方法で記録しておき,その絵を見ることで,記憶を再現することが出来れば,こんなに良いことはないでしょう。
                                         (2018年1月作成)

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