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「風景スケッチ上達法」・・レッスン5 速描きのススメ


    今回は、スケッチの基本である線描を取り上げてみようと思います。線描とは「物の形を線だけで描くこと」ですが、画材(鉛筆、コンテ、ペン、インク、紙など)によっても色々な違いがあります。それぞれの扱い方によって様々な表現ができます。

 水彩スケッチでは、鉛筆を使うのが一般的ですが、「風景・水彩スケッチ会」では、ダーマートグラフとレタリングペンを勧めてきました。それは、鉛筆や一般的なドローイングペンにまさるものがあるからです。ただ、その使い方については実際に絵を描くことで習熟していく必要があります。

1.「おおまかな形を描 く」
        ことから始める

 スケッチの初めの段階では形や色彩の刺激にとらわれないように見ることです。紅葉の風景を描くとしたら、鮮やかな色合いや木々の重なりであるとか周りの様子に注目しがちです。素晴らしいと感じたり魅力的な対象に引き寄せられるということは絵を描く時の原動力ですが、どう描いていくかというのが問題です。

 細かく分析的に対象を見ようとすると描いた絵も同じような内容が備わってくるでしょう。大雑把で荒削りだが、印象的なものを大事にしたいすれば、出来上がった絵も自ずとそのようなものになっていきます。
  ここで大事なことは、前者と後者の絵には互いに重なるところがあり、二者択一ではないということです。どこから始めてどこで終わりとするかは描く人がきめることですが、どこで終えたとしても、それぞれスケッチとして一つの作品になっているでしょう。
 本題に戻りましょう。大まかな形を描くことから始めるということです。風景のだいたいをつかむには、「大きさ」でとらえるのが大事です。自然の風景なら、木々や茂み、林や森としての広がり等を、丸や三角、矩形などの単純な形に置き換え、画面のどの位置にどのくらいの大きさにあるかを見ることです。
    「大きさ」には、そのものの横幅と高さがありますが、特に高さに注意する必要があります。ものを見るとき、横幅よりも高さを見誤ることが多いからです。

    
    「大きさと位置」を、風景と画面の両方で確かめながら、おおざっぱにとらえてスケッチを始めます。時間も手数もかけずに、速いスピードで描くことです。「おおまかな形をとらえて描く」という事は、いい加減に描くということではありません。「まだ不確かなもの」も含んでいるので,直しながら進めていくことになります。スケッチ→彩色→スケッチ加筆→彩色加筆と,重ねていくことで,少しずつ「より確かなもの」にしていきます。

2. 「ものの明暗をとらえて描く」

    具体的なものに即して描く前にすることがもう一つあります。それは、ものの「大きさ」や「位置関係」だけではとらえられないものです。形がはっきりしない、判然としないものであったり、空気や水、光や影といったもので、自然条件が変わると刻々と姿を変えるものです。
    形がないように見えるものは、とらえどころのないものですが、その中で比較的に見やすいものは、ものの明暗です。風景の中で「明るいところ」と「暗いところ」を見分けることは、それほど難しいことではありません。

    二つを同時に見ることはできないので、「暗いところ」に注目しましょう。「暗いところ」は光が当たらない部分という意味です。「陰」(その物のカゲ)と「影」(他の物に映るカゲ)があります。
 スケッチの初めの段階では、二つとも「暗いところ」として見ることにします。また、「暗いところ」と、そのものの「色が濃い」ところとは別のもので、〔暗い=濃い〕とはかぎりません。また、〔暗い=黒い〕ということでもありません。ですから、暗いところに彩色する時に、黒い絵具で塗りつぶしたりするのではなく、 暗く見えるところに微妙な色の違いや表情を見ていくことが、必要になります。

3. 「ダーマートグラフ」と「レタ リングペン」の違い
 大まかな形をとらえることから始めて、明暗の暗部に注目しスケッチすることで、風景を形作っている概要を線描していきます。
    ここで二つの進め方に分かれます。ダーマートグラフで描く時と、ペンで描く時です。
 ダーマートグラフで描いていく場合は、線描したスケッチに彩色を施し、さらにイメージ豊かなものにしていきます。
    線の強さや色合いに応じた明るさの淡い色彩を塗ることで、線と色彩が互いに調和したような画面をつくります。彩色すると、色彩に覆われた線が見え隠れし、初めの印象とは変わったものになります。
    そこで改めて風景を見直し、ダーマートグラフで加筆し、大まかにとらえたものの形や位置、大きさの関係をより具体的なものに近づけていきます。

 ぼんやりとしていたものに少しずつ形や色を掘り起こしていくような進め方をします。彩色と加筆を重ね、明暗の度合いを深め、遠近と存在の両面から、より現実に近いものに発展させていくわけです。

    レタリングペンで描きはじめた場合は、インクが水に溶ける性
質があるので、ダーマートグラフと進め方が変わります。

    「大まかな形をとらえることから始めて」明暗の暗部を見直し加筆を施したら、彩色は後回しにして更に具体的に見ていきます。
 大まかなとらえ方で描いたスケッチを風景に照らし合わせ、大きさや位置関係に修正を加えていきます。初めに引いた線の上から加筆していくと線の数が増えたり二重になったりしていきますが、その事に気をとらわれずに描いていきます。
    この時に大事なことは、線に多様さをもたせることで、単調で固い表情の線にならないように、ペンの持ち方や運び方、筆圧などに工夫を凝らします。

 レタリングペンに限らず、葦ペン、竹ペン、割り箸ペン、市販のドローイングペンなど、いろいろな画材があります。ペンを扱うときに難しいのは、ペンをコントロールする感触のようなものです。インクが出すぎてしまって強い太い線になったり、掠れて線が引けないということがあります。どうやったら、力を入れずに淡い穏やかな線が引けるか、習熟していく必要があります。
 ペンで描き終えてから、彩色を施しても良いし、進み具合によっ
ては彩色せずにペン画として仕上げても良いでしょう。また、題材によっては、水張りをしておいて水と絵具で滲ませたり暈しを生かしたような彩色をしてもよいでしょう。
 ダーマートグラフやレタリングペンなどの画材の使い方を練習
しながら,そうしたものを扱う自分の体のコントロールを学んでいくことが大事です。

4. 「速描きのすすめ」
 ここまで読んでこられて、一つ疑問が残った方もおられるのではないでしょうか。初めは大まかにとらえて描き始め、後から具体的なものを加筆していくのなら、最初から詳細に正確にとらえてスケッチしたほうが早いし、手間もかからないのではないかということです。
 大変合理的で分かり易いやり方のように思いますが、それでは、
スケッチする現場の臨場感や雰囲気のようなものが出てこないよ
うに思います。正確に細かいところを見て描こうとすると、手もそれに合わせて動くので「硬い表情のない線」になりがちです。正確に丁寧に描いてあるが「動きや温かみ」が感じられないということになりそうです。
    風景を目の当たりにしたとき、個々の形や色彩の他に、形が判然としない、その場の空気感のような曖昧なものがあります。
    天候や気象の条件に左右されたり、見ている物から受ける感覚的なもので風景を見ているのだと思います。 
 こうした状況やその場の雰囲気のようなものは形あるものとして描くことがむずかしい。だからこそ、具体的な物の形を描く前に、曖昧なものをとらえ、そうしたものの表現につながるような描き方をする必要があります。

    曖昧で不確かなものをとらえる一つの鍵は、「大まかに簡略的にとらえる」こと、「ものの明暗をとらえる」ことにあると思われます。そうしたものの下支えの上に、具体的なものを組み立てていくことで、より存在感のある風景を描くことが出来るのではないでしょうか。

 もう一つ、「線描」する線の多様性ということがあります。単調
な線の繰り返しにならないようにするには、線描するときの画材の
扱い方に工夫を加えることが必要です。特にスケッチするときの
「スピード」や「テンポ」を変えてみることで、同じ画材を使って
いても多様な線が描けるようになります。これに、筆圧といった力
の加減を加えていけば、より多様な線を画面に作り出すことができ
るでしょう。
 「速描き」をすすめるのには、そうした理由があります「速描き」することで手間を減らし、短時間で描くことができるという副産物もあります。一般には、そうした副産物のところが注目されがちですが、本来の目的は、線の多様性を習得する方法と考えたほうが良いかと思います。

 現場で見た風景の印象というのは,瞬く間に変化していきます。その一瞬の印象を描きとめるには,手数を減らし、描き過ぎないようにすることが必要です。
    速く描こうとすると良く見な

いで描いたり、乱暴に描いたりすることになりがちです。しかし速描きしても、「確かで芯が崩れないスケッチ」ができるようにしましょう。その為には、画材の扱いや自分の体の使い方をマスターしていくしかありません。
                                     

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