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ハードシンセ?ソフトシンセ?

ハードシンセはオワコン?

まぁ、そうですよね。ソフトシンセ全盛期の今、重くてワイヤリングも必要で取り回しの悪いハードシンセを使う理由はよっぽどのことがない限りないでしょう。かくいう私もなにかするときはソフトシンセ使うことが多くなってきました。
そんな世の中、ハードシンセをわざわざ取り扱う理由ってなんでしょう。
ハードシンセで生活の一端を支えてる私がこういう題材を扱うということはなにか大きな理由があるのでは、と思われるかもしれませんが実はそれほどハードじゃなきゃ嫌だ、だめだ、みたいな括りは持っていなかったりします。
実際、アコースティックピアノ音源系はハード音源ではソフト音源にかなわないかなという感想を持っています。愛用しているPianoteqも7になって音の質感、レスポンスも言うことなしになっており、ピアノについてはもうこれしか使っていません。
では私個人の視点としてハードシンセを使うのはどういうときか、というのを少し書いてみましょうか。

これしかない

まぁ、ソフトでは再現されてないようなものありますよね。そういうやつはもうどうやってもハード音源使うしかないわけです。別にこれは好みの問題じゃなくてそういうもんです。メーカーとして個性が強い音をぶちかましてくる奴らとかもここに含まれますかね。サンプリングしてKontkt用とかにしても実機にはかなわねぇな、ってやつ。例えばこの辺

幻の国産モデリング64ポリシンセ、WSA1

うちの愛機、Technics SX-WSA1です。TechnicsといえばPanasonicの音響、そしてかつての楽器部門のブランドです。日本メーカーでmade in japanです。キーボードマガジンで開発中のものが見開きで紹介されたりご存じの方も多いと思います。ですが日本国内には数台しかないのではないでしょうか。なぜならば国内販売を行わなかったから。キーマガでまで紹介されたんなら日本でも売れよ、とも思ったもんですが、マーケティング的な判断あったんでしょうかね。ということで私はアメリカから逆輸入して入手しました。
これがなぜ他にはないものか、というとその音源方式にあります。

  • 音源部はPCM。でもその後の処理は物理モデリングで変調する

  • オシレーターがPCMとはいえ、物理モデリング音源で64ポリを実現

  • 当時としては超大画面(320x240ドット)のモノクロ液晶(タッチパネルではない)

  • ピアノロールまでついてたりする高機能シーケンサー

 など、当時モデリングといえばオシレーターからフルモデリングしてたYAMAHAさんのVLとかVPとか見ていた身からするとあり得ないスペックなものでした。実際のところ、モデリングで一番難しくいちばん重要なのはオシレーターのモデリングで、ここの物理現象をモデリングするのに膨大な計算量を必要としていました(ここで養ったモデリング技術研究が現在YAMAHAから出ているVenovaの異長二股管構造によるサクソフォンの音の再現につながってたりしますがそれはまた別の話)。オシレーターをモデリングすると当時のMPU/DSP性能では2音ポリ、VPみたいな化物でもポリ数を増やすことは困難でした。そこをTechnicsは一番計算を必要とするオシレーターをPCMにしちゃったわけです。そうすればあとは管楽器のボアモデリングなどレゾネーションのモデリングだけで住むので計算量が大幅に減るわけです。ピアノ音色を木管楽器に突っ込んで見る、とかそういうイメージです。
それで実際の出音は結構おとなしいものなんですが、これでしか出せない音というのはやはり強く、一生手放さないであろうマシンとして所持しています。このようなものはマイナーなくせに個性もあるので他に変えが効かずハードを使わざるをえないわけです。

レスポンス

これは大きく2つの意味が含まれます

  • 電源を入れてすぐ使えるという即応性でのレスポンス

  • 鍵盤と音源が同一システム内にあるという演奏におけるレスポンス

前者は主に昔のマシンですね。今どきのシンセは起動するのにもそれなりの時間がかかりますから一概に言えません。SC-88など、かつてのDTMの主役たちみたいな音源は電源を入れれば即、32パートや64パートマルチティンバーなどで扱えなおかつ主要な楽器の音色はほぼほぼカバーしてる、そんなものが電源を押して数秒で使えるとあって未だにスケッチ用途にとどまらず使用されてる方も結構おられるのではないでしょうか。

後者はFM音源マシンのDX7シリーズなどを弾いてみるとよく分かるかと思います。ソフトシンセでは音が実際にスピーカーなりヘッドホンから出るまでにかかるレイテンシがかなりいろいろあります。オーディオインターフェイスでASIOなどのレイテンシが代表的な目に見えて設定できるレイテンシですかね。このレイテンシを詰めれば詰めるほど打鍵からの即応性は早くなりますが、その分PC内部で演算する時間が足らなくなりあんまり短くするとドロップアウトしたりします。この点、ハード音源はもともと鍵盤とシステムは同一プロダクトで設計されてるので何も気にすることはありません。そしてFM音源などは音の立ち上がりなど非常に鋭い音色を作ることができるので、そういった音色ほどレイテンシが気になってくるので実機に分があります。実際私も修理したりして何十台もFM音源シンセを扱ってきましたが、実機で弾くDX7と、ソフトウェアで再現されたDexedやFM8とはだいぶ弾いた印象が違いました。実機は早く鋭い。これはもう実機を触ってもらわないとわからないかもしれませんが事実です。
また、FM音源と限らずハードウェア処理されているためレイテンシなんて考え自体ないみたいなもんです。こういった場面でもハード音源じゃないとだめ、という例の一つかと思います。

鍵盤との相性

弾き心地、みたいな部分ですが、モジュールタイプじゃないハード音源では当たり前ですが音源だけでなく鍵盤などの演奏部分も一緒に開発されているわけです。音色を作り込む際もその鍵盤などで作るわけです。となるとどうなるか。同じ音源でもその実機で弾くのと、MIDIで別のマスターキーボードを繋いだりして弾いた場合とでなんか違うくね?っていう事になったりします。鍵盤と音源の相性ってものがどうしてもあります。ソフトシンセではそこらへん自分で設定できたりしますがハード音源は特に考えることもなく引きますよね。あと、鍵盤の良し悪しと言うのもあります。ソフトシンセメインでDTMされている方はどのような鍵盤を使用されているでしょうか。その殆どが「入力用」の鍵盤じゃないでしょうか。
でもあくまでも楽器を弾くわけです。鍵盤の良し悪しというものがあります。
ハードのすべてが鍵盤がいいとは口が裂けても言いませんが(うんこなやつはいっぱいある)、どうしてもこの鍵盤が使いたいというのはあります。
このあたりは音源なしのマスターキーボードの話も含みますが、そこはご容赦。
シンセ鍵盤で弾きやすいものといえばセミウェイト鍵盤、というのが定番になっています。ですがこれも玉石混交で素晴らしいのもあればクソみたいな鍵盤までいろいろです。良い方の鍵盤といえば

  • YAMAHA FS鍵盤
    YAMAHAの高級機ほか、KORGのM1~OASYS76まで採用されてたりする鍵盤で。脱進感だけではなく、鍵盤の奥行きの長さからくる鍵盤のどこを押しても違和感のない演奏感などFSX鍵盤と交代した今でも最高レベルの鍵盤です。でもまぁ、完璧というわけではなく、打鍵音がやかましいとか弾かないで放置するとグリスが固まってダメになるなどいろいろ欠点もあります

  • FATAR TP/8Sキーベッド
    FATARは今ではStudiologicとしてシンセやデジピも製造していますが、基本的に非常に歴史の古いキーベッドを製造する会社です。その中でもEnsoniqVFXや変わりどころではRolandEUが主となって開発されたマスターキーボードのA-70に採用されてたりします。
    ですが、この鍵盤を採用された機種はかなり少なく、更にマスターキーボードとなるとA-70くらいしかないのではないでしょうか。一般にFATARのセミウェイト鍵盤採用していると謳っているメーカーでももう少しコストの安いと思われるTP/9Sを採用してたりしますが、こちらは別にこれと言って特徴のない鍵盤です(ひどい)
    TP/8Sは上記YAMAHA FS鍵盤と同様な特徴を持っており、これも引き心地が素晴らしい鍵盤です。また、現在私の見た範囲では打鍵音もFS鍵盤よりも静かでグリス固着などの弱点もなく素晴らしい鍵盤です。弱点は採用機種が少ないくらいでしょうか。

個人的な好みですが、この2つのキーベッドが頭数十個分抜き出て弾きやすいです。これらの鍵盤で弾くと今までパッとしなかった音源も見違えることがある、といったレベルです。MIDI接続でも接続先音源を活かす鍵盤です。
ただまぁ、FS鍵盤については初代DX7のベロシティが100までしか出ないとか、SY85のベロシティが115くらいまでしか出ないなど一部機種でベロシティ問題があります。
※SY85については私が販売する機種についてはここを根治して販売します
このように鍵盤にこだわりを見出すとその鍵盤じゃないと弾きたくないなどという事になりうるひともハードが必要じゃないでしょうか

その他

その他は上げたらキリがないですよね。初めて買ったシンセ、初めて使い込んで目を閉じても操作できる、みたいな思い出があるマシンなどなど。
変わったところでは小室さんにあこがれて鍵盤の要塞を築くのが夢、などという人もおられるでしょう。そういった方にとっては今でもハードウェアとしての存在は絶対必要なものと鳴るでしょう

まとめ(まとまらん)

ということで私としてはハード音源、ハードシンセなどは決してオワコンになることはないと考えています。現状でも多数のメーカーから非常に個性的で魅力的な音源が出続けているのもオワコンになっていない証拠の一つじゃないでしょうか。
また、古い機材ですがこれは要注意です。壊れます。デジタルシンセだろうがなんだろうが壊れます。
私がシンセを修理し販売するのは、このマシンを今後何年も使っていただけるように、次に託す中継地点になろうという思いもあり、徹底的、時には病的なまでにメンテしたりときには現代化改造したりして販売しています。
ですが、どうしても素材のプラスチックがだめになったり、使われてる半導体に寿命が来たりとどうしても今後のことは予測できなく、「あと10年以上動くことを保証できるか」と言われると保証できません、というふううにお答えするしかありません。保証とは生半可な覚悟では言えませんから。なにせすでに20年や30年経過している機材ばかり扱っています。皆さんの生活の中で20年や30年動いている電化製品はどの程度ありますか?また、修理されたものでも今後10年動くと思えるものはありますか?
シンセと言えど所詮電化製品なのでいつかは致命的な故障が発生するでしょう。ですから10年動くかどうか、と言われてはい動きます、というようなことは軽々とは言えません。ですが、現状わかっている故障のみならず、海外フォーラムなどで私が個人的に集めた情報、私自身がこれまで経験してきた故障事例などから、故障の可能性が他よりもわずかでも高く、対応が可能なところは極力対策を施して販売いたします。
ですので価格はほかから比べたらかなり高くなるでしょう。
高いくせに保証ができないとは何事か、と言われるかもしれませんがそれは上記のようなことが理由です。
お買い上げいただけた方には現段階で最高の状態をお届けします。これについては自信を持って言えるように今でもまだまだ修行してまいります。
また、今後故障したとしても無償は無理ですが修理も致します。
そのマシンの致命的寿命が来るまで使っていただけるよう、全力を尽くしています。
ですので「今どきハード機材にこんなに金かけるのかよwwww」といわれようが私はハード音源と向かい合っていきたいと思います。


あれ?何を書くエントリだっけこれ・・・・???

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