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600字で日常を描く②
【2024年2月1日 介護施設】
「ゆっくりで、いいんだよ」仲良くなったおばあさんの言葉に思わずドキッとした。就職活動で焦る私の心を見透かされたような気がした。初めて足を踏み入れた介護施設は、思っていた以上に広くて、人の温かさを感じる場所だった。
今年の初め、曾祖母が介護施設で怪我をした。両足に大きく黒ずんだ痣ができ、救急病院に運ばれた。「隣には生死を彷徨う患者がいて生きた心地がしなかった。最悪両足を切断するかもしれない。施設のミスなのだろうか」夜通しの付き添いを終え、当時の状況を語る祖母の言葉には緊迫感があった。介護問題は他人事ではない。そう突きつけられた瞬間だった。介護の現場を見てみたいと近隣の施設を探し、ボランティア活動に応募した。
勤務先は、大学の隣町にある病院併設型の老人ホーム。屋上付き、地下の大浴場を備えた5階建ての建物で、日当たりの良い開放的な空間を有する。朝の入浴を終えて仲良く施設内を探索する人、朝日を浴びてリラックスする人、各々に心地の良い時間が流れていた。
とある老婦が私を呼び止めた。Yさんという話好きの女性だった。接し方が分からず狼狽していた私に「どこから来たの?」と優しい微笑みを向け、施設での出来事や自慢の家族についてぽつりぽつりと語りかけてくれた。
「またいつでも、好きな時に来て良いからね」昨今、暴力などの問題で介護施設に悪いイメージを持たれることも多い。しかし、今日私が踏み入れた世界は陽の光で満ち溢れ、人の心の温かさを体感できる私にとっての新しい「居場所」だった。
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