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ヤマザキマリ『最後にして最初の人類』寄稿~20億年の人類に宿る音楽~

20億年の人類に宿る音楽
ヤマザキ マリ(漫画家・随筆家)

この映像作品の解釈や捉え方は人によって様々だろう。時空を覆い込むような音楽に意識を揺蕩わせる人もいれば、モノクロームの映像に浮かび上がるスポメニックのモニュメントに強いインパクトを感じる人もいるだろう。ティルダ・スウィントンの声で“太古のような音声言語”として伝えられる、人類が20億年にわたって辿ってきた混沌に不穏な気持ちを覚える人もいれば、映像と音楽とナレーションの融合を空気中の粒子のように全身全霊で感受する人もいるはずだ。
オラフ・ステープルドンによる原作は、1ページの中に綴られた文字数の100倍以上の情報が織り成されていると言っていい、壮大な叙情詩である。その圧倒的な世界観を、わずか70分の映像は余計な負荷も虚勢もまとうことなく、堂々と、そして飄々と顕していた。

残念ながら現在この作品の日本語翻訳版は古本でしか見つからず、しかもとんでもない値が付けられている。とすると、原作を読んだ上でこの映画を見る人は数が限られているはずだし、そもそもオラフ・ステープルドンという作家を知らなかった人も少なくはないだろう。今はこの特異な作家の説明は端折るが、本編のナレーションの補足程度にここで原作について触れてみたい。何はともあれ、サイエンス・フィクションという領域で解釈するだけではおさまらない叡智の表現者ステープルドンの、鋭敏な想像力と審美眼が精緻な文体によって象られたこの素晴らしい作品を、日本語で簡単に読めないのはとても残念である。

本寄稿の続きは、映画『最後にして最初の人類』完全読本に収録予定です。販売先は7月23日(金)より上映劇場を予定しております。

原作『最後にして最初の人類』(著:オラフ・ステープルドン/訳:浜口稔/出版:国書刊行会)から「序ー最後の人類のひとりより」を7月16日(金)~8月15日(日)まで本noteにて期間限定公開を予定しております。


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