#7days100tankaプラス1首

 去年、「穀物」第3号に載せた50首を作って以来、どうもガス欠気味というか、作歌の体力が追いついていない感じがしたので、久しぶりに強化合宿じみたことを実行してみました。

 Twitterで「 #7days100tanka 」というタグを添えて歌をつぶやく。もちろん即詠。質とか手癖とかそんなもの気にせずどんどん放り込む。SNS上で作ったものも全部既発表になるから、これを推敲して云々とかそういう野暮なことは一切考えない。

 まあ、仕事しながらやるのには限界があって、今回これが出来たのは体調を崩して2日半仕事を休んでいた(月曜早退からの火曜水曜全休)というのが大きい。ちなみに、仕事休んだら待っているのは来月の金欠です。ぐへえ。

 そして、Twitterで北大短歌の初谷むいさんが題詠「マラカス」を募集していたので、そこにも一首投稿するなど。

 合計で101首あります。犬かよ。

 後で読み返すと、「語彙かぶり過ぎ」とか「二句切れ多過ぎ」とか「生きるのしんどがり過ぎ」とか、自分でも色々言いたいことはあるのですが、まあ、これが今の俺の実力なんだよ諦めろ、ってことで。

 でもこれ、ロングトーンとスケール練習を延々やった後みたいな感じでうまく身体が作れるので、スランプ時(かつ、時間に余裕がある時)にはおススメです。

#7days100tanka (Feb.04~10.2017.)

001 同じ道を君も歩いてきたのだらう日照雨が肩のあたりに残る

002 オレンジの皮になじんでいく指の強がつたつてしやうがないんだ

003 映画館帰りに寄つた駅前のザッハトルテが美味しかつたね

004 僕たちは死ぬまで僕で右側に中央分離帯を設ける

005 面白く言ふ気がなくてラーメンを食べる手前で眼鏡を外す

006 突つ掛けのまま飛び出して来たやうな人生だつた一度目だつた

007 カレー鍋あたためなほす 人生の先輩よりも信用できる

008 早朝のビニール傘を透かしつつ二月の雨はしんと続けり

009 バス停に連なるバスと人とゐて勝ち負けで済む話ではない

010 人類の進化は終はる 今週の星占いが牛丼を推す

011 いい匂ひのパン屋があつて買つたこと無いけどパンも美味いのだらう

012 パリつてずるいパリつてだけでパリつぽいルイヴィトンなら水戸でも買える

013 ぬるま湯になりたい やがては冷めること隠して心地よく呪ひたい

014 へんな味の新商品がゐなくなりそこそこだつた記憶が残る

015 こころから声にこぼれる水滴の或いはくらい濁流のおと

016 倫理的・宗教的な森にゐてテオルボの音の付き添ひて来ぬ

017 寝る前のホットカルピス後先を考へないでゐられた頃の

018 教室はうしろから掃く 窓際に新連載のやうな陽だまり

019 ぬつそりと遅れて店にあらはれてどうもどうもと、何がどうもだ

020 みちづれにすればよかつた 真夜中になつても右折信号灯る

021 深呼吸して歩き出す間違つた色の靴下なんか履いても

022 受話器つて武器だね 帰りたい時に帰つて来いと強がられたい

023 存在がそもそも過失 さうですか。私は自由席で帰ります

024 ペン入れの途中のやうな冬晴れにため息ばかり吐いてしまつた

025 板チョコにそのまま齧り付く夜のすぐに死ぬから心がこはい

026 風花に頬を冷して歩みをり何から何まで憧れてゐた

027 終はらせてしまふことにも慣れてゆき無風の庭に照る寒椿

028 唐突に思ひ出しつつまだ死んでくれないのかと、七回忌過ぐ

029 ずつと此処で待つてゐたやうな気になつて拾つたそばから捨てる貝殻

030 落ち着いてしまへば至極馬鹿らしいことばかり 瓶の蓋のことなど

031 死んでいつた奴等のことは話さないことにしてゐる比喩的な意味で

032 重ね重ねお詫びを申し上げながら小指の爪が気になつてゐる

033 思ひ出すたびに心にふる雪を片つ端から破いてしまふ

034 授業中に椅子をぷしゆつと下げるやつやつてよあれでも笑ひが取れた

035 「っょぃ」つて小文字で打てば強さなどすぐに萎んでしまふと気づく

036 隊列の記憶はつかにワグネルの和音に濡れて甦りたり

037 遠まはりしても必ず出くはした踏切、教へてやつても良いが

038 いつになく晩年めいた春が来て桜並木は橋まで続く

039 泣くほどのことでもないがごく稀に泣いてしまつて、生きようと思ふ

040 眼鏡ならくもらせることもはづすことも簡単で、そんなに従順で

041 破棄されたレシートを見て予想する献立、なんだレトルトばつか

042 肉まんの紙の部分とカステラの紙の部分と端切れの部分

043 にんげんの匂ひは嫌ひ マスクしてゐても猫なら近づいて来る

044 一人つ子だつたら多分こんなとき敢えて電話を掛けるのだらう

045 撮りためたなんてことない写真にも日付があれば思ひ出になる

046 感情が煮崩れてゆく鍋の中 鼻唄ばかり捗つてゐて

047 百円で八分うごく乾燥機まはる そろそろ君は寝る頃

048 海沿ひに住めばやさしくなれさうな気がして、気がするだけで終はつて

049 生きてゐるだけでさみしい 読み了へた本をしばらく枕辺に置く

050 眼の中にしづかに炎ゆるたましひの、おまへを殺したくはなかつた

051 黒鍵にトリル波立ち漕ぎ出だす先はるかなる喜びの島

052 みづからを誤魔化し慣れて鏡にも仮面のままの我佇めり

053 笑ひ合ふためにしこたま飲み続けそのうち悪態ついて寝るんだ

054 追伸の長い手紙に強がりを見抜かれてゐて、紅茶冷めゆく

055 噴水にみづの果てたる夏の夜の無かつたことに出来るのならば

056 論理的思考に不意に紛れくるたんぽぽの花と小川の気配

057 イヤホンを耳に突つこみ街へ出るこのイントロに守られてゐる

058 底冷えの街でひりひり生きのびて時折膝を抱へて眠る

059 寝るために帰る家でも生活と呼べて段々枕が臭ふ

060 リモコンは決まつた場所に戻さうと君に言はれる四日目にして

061 落ち着いたふりをしながら返事して電話を切つて思ひ出せない

062 花林糖食べながら死ぬ やつぱりねえ あつと言ふ間の反逆でした

063 三月が近づいてくるさんぐわつは何度生きなほしても巡つて

064 気づいたら庭がこんなに小さくてもう遊べない身体なんだね

065 全集に未定稿あれば覗き見る書き殴られた愛のことなど

066 活発な低気圧から送られた頭痛、どうかご自愛ください

067 永遠に場違ひだらう朝起きてそれでも僕は服を着替へる

068 夭逝の需要を見込む 板チョコは皺にまみれた銀紙の墓

069 感動とはちよつと違つて、段々と夜を受け入れながら帰つた

070 積み上げた本の中からお返事を書きそびれたる葉書いくつか

071 給料日までギリギリを生きのびて引き算をしてギリギリになる

072 安売りのチラシの色がうるさくてうまい具合に生きさせられる

073 古本になればあなたに買はれても仕方ないでもお高いんでせう

074 飲みかけのペットボトルの残された閲覧室 ああ、減るんですね

075 母の日も父の日も日曜だから宿題として書く嘘日記

076 耳打ちのやうにふる雪もう少しあなたに会つてゐたかつた日の

077 信号が青に変はつてふと湧いた殺意のことも抱へて帰る

078 冬なんてひかりの寓話おしまひに近づいてゆく薄氷の池

079 口癖のやうな寝息を押しのけてセックスレスの朝に汲む水

080 飲み会の途中でそつとゐなくなる、くらゐで丁度いいんだ 生きる

081 偽作とふ定説なれば新バッハ全集g-moll組曲を消す

082 途切れたる会話に櫂を差すやうに三温糖をふた匙溶かす

083 気にしても始まらないと笑ひつつ心で君を殴打してゐる

084 楽しいと楽しくないなら楽しいを選ぶ一枚限りの切符

085 かたまりであつたはずだが段々とくづれて遂に消されてしまふ

086 いいですね庶民つて言葉見下した感じが二十世紀らしくて

087 怒りはやがて恍惚として光り出し死ねの代はりにバルスと言へり

088 缶詰のクラムチャウダー煮込みつつ嘘になるほど滑舌は良く

089 推しCPのバッドエンドを愛でながらヤバい尊いあなたは神だ

090 友人のよくない噂 おまへならやりかねないと焼鳥を食ふ

091 全身を舐められてゐる感覚でレジに立つなり派遣社員は

092 うす暗い初恋だつた適切な背景として本棚がある

093 「陸海空みんなまとめてかかつて来い」食堂のをばさんは語つた

094 ミラノ風ドリアつついてしばらくは本題に入らないといふ意志

095 もう少し厚い辞書なら載つてゐる語彙でおまへの瞳孔を撃つ

096 深呼吸すれば隣に君がゐて春の答へを教へてくれた

097 道づれにしてやりたくてとけてゆくかき氷ぢつと睨みつけたり

098 コンビニで買つたアイスが美味しくて炬燵を出して正解だつた

099 巻頭を飾つたことはまだ無くて丁寧に歯を磨いて眠る

100 押し掛けた先がこの世であつたこと すまない、だけど精一杯に

101(題詠「マラカス」) マラカスにしてはさびしい ひとりづつねむりに落ちるカラオケ部屋で

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