マガジンのカバー画像

月詠log(2017.04〜)

30
「塔」誌上に掲載された月詠のログです。
運営しているクリエイター

2018年3月の記事一覧

「塔」2018年3月号(月詠)

心にも無いことを云ふ はじめての君の真顔にくるしんでゐる

哀しみは少し遅れてやつてくる旋律はやがてヴィオラに降りて

水色のシーツ廻して真夜中の穴となりたりコインランドリー

吹けば飛ぶと思つてをればほんたうに死んでしまつて、とおまへも云ふか

ぶれぶれの写真に残るよろこびが削除の指を遠ざけてゐる

空砲のごとき言葉を放ちつつ確かめてをりわれの孤立を

生活にわづかに起こる綻びの双子の卵割り入れ

もっとみる

「塔」2018年2月号(月詠)

まつさらな感情ばかり失つて汽水のうへを夕闇の這ふ

やりたいと思ふことよりやりたくはないことばかり 特急通過

満たされてみたかつただけ 抱擁は身体を門の形になして

かなしみが遠くへ凪いでゆくやうに朝のラジオにクラヴサン消ゆ

どの男も先の尖つた革靴を履いてゐて、恥づかしくないのか

上向きの蛇口に口をすすぎつつ冬の日向の公園にゐる

(p.59)