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No.2 マイクロバイオーム研究の最新論文紹介(微生物、腸内細菌の最前線)

今日はFMT(糞便微生物移植)の論文を集めました。
研究としてはすごく活発なのですが、再現性の問題やコストの問題などで、企業はFMTから特定の細菌や成分に限定した製品づくりに舵を切っているそうです。

それでも、生態系まるごと移植するというFMTの可能性は無限大。
手前味噌で恐縮ですが、弊社の関連組織でもFMTを実施しています。
民間でFMTを受けられるところは、今のところとても限られています。

マイクロバイオーム、腸内細菌に関する論文は、この10年で指数関数的に増えています。
私自身すべて追えないのが現状ですが、'gut microbiome' 'FMT'などのキーワードで集めた論文を定期的に紹介します。

新しい論文はまだ評価が定まっていないこともあり、鵜呑みにするのは危険な一面、研究の最前線に触れることができます。
要点だけでも、興味のある内容をぜひ読んでみてください!


経口FMTはラクノスピラ科細菌と酪酸を増やし、急性肝不全を和らげる

[Regular Article]
(タイトル)Oral fecal transplantation enriches Lachnospiraceae and butyrate to mitigate acute liver injury
(タイトル訳)経口FMTはラクノスピラ科細菌と酪酸を増やし、急性肝不全を和らげる
(概要)経口FMTは上部消化管の影響が懸念されるが、急性肝不全マウスでは症状の緩和に役立った。また、パスチャライズ殺菌された糞便懸濁液でも同様の効果があった。
(著者)Chun-Ju Yangら
Department of Gastroenterology and Hepatology, Chang Gung Memorial Hospital, Taoyuan, Linkou 333, Taiwan.
(雑誌名)Cell Reports
(出版日時)December 27, 2023
(コメント)殺菌された懸濁液でもラクノスピラ科の増加や酪酸の増加が見られたことから、ポストバイオティクスの可能性が示された例と言える。

重度の肥満における糞便微生物移植のランダム化、プラセボ対照、二重盲検試験:研究プロトコル

[Regular Article]
(タイトル)Randomised, placebo-controlled, double-blinded trial of fecal microbiota transplantation in severe obesity: a study protocol
(タイトル訳)重度の肥満における糞便微生物移植のランダム化、プラセボ対照、二重盲検試験:研究プロトコル
(概要)ノルウェー北部大学病院ハルスタッドの重度肥満外来クリニックの患者60名に対して実施するFMTのプロトコル部分のみを掲載。
FMT12ヶ月で体重10%減を目安にしている。
(著者)Hege Marie Hanssenら
Medical Department, University Hospital of North Norway, Harstad, Norway
(雑誌名)BML Open
(出版日時)2023 Dec 27
(コメント)結果はまだ論文公開されていない模様。ダイエットに興味のない人は少ないかもしれないけれど、肥満まで行くと病気だとも言われるので、治療として微生物の活躍が望まれる。

ブロイラー鶏における糞便ウイルス移植は、糞便マイクロバイオーム移植よりも腸マイクロバイオームに緩やかに作用する

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0032579123008015?via%3Dihub

[Regular Article]
(タイトル)Fecal virus transplantation has more moderate effect than fecal microbiota transplantation on changing gut microbial structure in broiler chickens
(タイトル訳)ブロイラー鶏における糞便ウイルス移植は、糞便マイクロバイオーム移植よりも腸マイクロバイオームに緩やかに作用する。
(概要)糞便微生物移植(FMT)および糞便ウイルス移植(FVT)の両方を、5日齢のひよこに6日連続投与。11日齢、21日齢でそれぞれ糞便サンプルを解析した。
結果、FMTのほうが早く腸マイクロバイオームを変化させたが、腸機能に対する変化は少なく、空腸に対する潜在的な損傷リスクが観察された。
(著者)Hongyu Fengら
College of Animal Science and Technology, Northwest A&F University, Yangling 712100, PR China
(雑誌名)ELSEVIER
(出版日時)Volume 103, Issue 2, February 2024
(コメント)マイクロバイオームまるごと移植する方法は、免疫系を刺激しすぎる可能性を示唆しているのか?

マイクロバイオーム優占種が、アルツハイマー病の新治療としてFMTの代替となる可能性

[Regular Article]
(タイトル)Application of Dominant Gut Microbiota Promises to Replace Fecal Microbiota Transplantation as a New Treatment for Alzheimer’s Disease
(タイトル訳)マイクロバイオーム優占種が、アルツハイマー病の新治療としてFMTの代替となる可能性
(概要)正常なマイクロバイオームに見られる8種の細菌のみの移植が、FMTの代替となる可能性を示している。アルツハイマー病モデルマウスにおいて腸内細菌叢の豊富さと構成を正常レベルに有意に回復させ、アルツハイマー病特有のサイトカイン等の発現を低下させた。
(著者)Mufan Liら
Department of Microecology, College of Basic Medical Sciences, Dalian Medical University, Dalian 116044, China
(雑誌名)microorganisms
(出版日時)2023 Nov 24
(コメント)8つの細菌種は以下の通り
Lactobacillus reuteri
Bifidobacterium animalis
Bacteroides ovatus
Enterococcus faecium (DM9112)
Streptococcus parasanguinis
Staphylococcus nepalensis
Fusobacterium gastrosuis
Escherichia coli

糞便微生物移植材料の嫌気的な準備と保存プロトコルの開発:培養分画における細菌の豊富さの評価

[Regular Article]
(タイトル)Development of a Protocol for Anaerobic Preparation and Banking of Fecal Microbiota Transplantation Material: Evaluation of Bacterial Richness in the Cultivated Fraction
(タイトル訳)糞便微生物移植材料の嫌気的な準備と保存プロトコルの開発:培養分画における細菌の豊富さの評価
(概要)多くの疾患で嫌気性細菌が減少していることを受け、FMTの便材料保存における嫌気環境の効果を調べている。12ヶ月の嫌気、好機条件で保存した糞便細菌は、有意差はなかった。ただし、この研究は細菌の量の多さではなく種の豊富さに焦点を当てているため、それが制限になった可能性もある。
(著者)Berta Boschら
(雑誌名)microorganisms
(出版日時)2023 Dec 1
(コメント)FMTドナーバンクでも、嫌気環境での保存の是非がよく問われるが、思ったより影響は小さいのかもしれない。

多発性硬化症症状の改善における糞便微生物移植の潜在的な役割:効果と安全性に関する文献レビュー

[Review Article]
(タイトル)The Potential Role of Fecal Microbiota Transplant in the Reversal or Stabilization of Multiple Sclerosis Symptoms: A Literature Review on Efficacy and Safety
(タイトル訳)多発性硬化症症状の改善における糞便微生物移植の潜在的な役割:効果と安全性に関する文献レビュー
(概要)5つの研究15人の多発性硬化症患者に対するFMTの効果をまとめている。全員が神経症状の改善を実感し、追跡後も有害事象は認められなかった。
(著者)Tooba Laeeqら
Department of Internal Medicine, University of Nevada, Las Vegas, NV 89154, USA
(雑誌名)microorganisms
(出版日時)2023 Nov 22
(コメント)なし

FMT治療後の、潰瘍性大腸炎患者における腸マイクロバイオームの変化と臨床効果

[Regular Article]
(タイトル)Intestinal Microbiome Changes and Clinical Outcomes of Patients with Ulcerative Colitis after Fecal Microbiota Transplantation
(タイトル訳)FMT治療後の、潰瘍性大腸炎患者における腸マイクロバイオームの変化と臨床効果
(概要)20名の潰瘍性大腸炎患者に、FMT治療を実施。3人のドナーの便を混ぜて、浣腸方式で10日間、1日1回移植した。結果、2週目に95%の患者に何らかの治療効果を認め、8週目では60%が寛解。ただし、寛解持続期間は人によって差があったので、もともとのマイクロバイオームの差などが治療効果に影響している可能性がある。
(著者)Artem Y. Tikunovら
Federal State Public Scientific Institute of Chemical Biology and Fundamental Medicine, Siberian Branch of the Russian Academy of Sciences, 630090 Novosibirsk, Russia
(雑誌名)Journal of Clinical Medicine
(出版日時)2023 Dec 15
(コメント)論文内のアブストラクトでは8週目に95%寛解とあるが、実際に本文を見てみると、何らかの治療効果があったのは95%だが、寛解したのは60%にとどまる。(Table2参照)
事前抗生物質投与の記載はなし、にもかかわらず治療効果は高い。
ただ、一年後には寛解率は38%まで落ちる。治療効果の持続には個人差がある。

造血幹細胞移植の臨床結果改善に対する自家糞便移植:単一施設における実現可能性

[Regular Article]
(タイトル)Autologous Faecal Microbiota Transplantation to Improve Outcomes of Haematopoietic Stem Cell Transplantation: Results of a Single-Centre Feasibility Study
(タイトル訳)造血幹細胞移植の臨床結果改善に対する自家糞便移植:単一施設における実現可能性
(概要)造血幹細胞移植後の合併症を緩和するため、自分の便を使用した自家FMTを4名の患者に実施。
自家移植は、患者本来のマイクロバイオームを戻すことができることや、安全性の面からも期待されている方法である。この論文では自己由来の便を事前に採取しておくことのハードルが示され、第三者ドナーを優先するほうが実現可能性があると結論づけている。
(著者)Anna Li
School of Biomedicine, The University of Adelaide, Adelaide, SA 5000, Australia
(雑誌名)biomedicines
(出版日時)2023 Dec 11
(コメント)論文中にも述べられているが、自己由来便を使用することの運営上の難しさにより、n数が4名に絞られてしまったことが研究の信頼性を疑わしくしている。

脳腸相関、ストレスレジリエンス、ストレス感受性と腸マイクロバイオームの役割に関するレビュー

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1876201823004185?via%3Dihub

[Review Article]
(タイトル)Decoding the role of the gut microbiome in gut-brain axis, stress-resilience, or stress-susceptibility: A review
(タイトル訳)脳腸相関、ストレスレジリエンス、ストレス感受性と腸マイクロバイオームの役割に関するレビュー
(概要)ストレスの感じ方や、ストレス状態からの回復と腸マイクロバイオームとの関係を、脳腸相関の観点からまとめている。自律神経系(ANS)、免疫系、内分泌系、微生物代謝物、短鎖脂肪酸(SCFA)、神経伝達物質、およびそれらの代謝物などの複雑な相互関係を紐解こうと試みる数多の研究をまとめており、高繊維摂取、プレバイオティクス、プロバイオティクス、食物繊維サプリメント、FMTの効果についても触れている。
(著者)Ranjay Kumar Sahら
Department of Pharmacology, Amrita School of Pharmacy, Amrita Vishwa Vidyapeetham, AIMS Health Sciences Campus, Kochi 682 041, Kerala, India
(雑誌名)ELSEVIER
(出版日時)13 December 2023
(コメント)新しい文献をたくさん引用しているので、情報のアップデートにどうぞ。

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