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琴と横笛…『魔道祖師』『陳情令』『赤笛雲琴記』から想起した記事

私は、子供の頃から、古典的なものが好きで、
楽器では、琴と横笛に、惹かれていました。

幸い、箏曲は、小学校から中学くらいまで習わせてもらったけれど、初伝免状をいただいたあたりで、事情によりやめなくてはならなくなり、
横笛は、田舎で教室はなく、祭り囃子も当時は地元になかったので、触れる機会は、かろうじて学校の部活動でフルートを吹いたくらい。

好きなのに叶わないから、憧れて憧れて……
その後、かなりの紆余曲折を経て、横笛は、能楽を習得したことから、「能管」の師を得て習うことが叶い、
琴は、ちょうど六年前に、個人製作の「真琴」という、持ち歩けるサイズの、リラタイプの琴と出会いました。

それをきっかけに、さまざまな場に出向き、または招かれ、創作楽器の特質を活かして、即興での自由奏と和歌を歌っています。

幼児期に、何がきっかけで、琴と横笛が好きになったかは、覚えていないのですが、
願っても叶えられないと、私は、関連事項を調べたり書いたりすることで、欲求を満たそうとするクセがあり、
楽器を奏でるすべがなかった期間には、
琴と横笛について、主に和楽や音響の歴史などの文献を読み、自分なりに調べたり書いたりしていました。

同時に、琴や笛が描かれている作品は、
小説やアニメや漫画などでも、やはり目が行ってしまいます。

   作品を知ったきっかけ

たしか2〜3年ほど前に、ネットを見ていて、偶然目にしたのが、この絵。

古代風のイラストに、古琴と横笛!

出版物の注目作品の紹介記事だったと思うのですけれど、
へぇ〜こんな作品があるんだ!と、記事を読んでみたら、

原作が中国のBL小説で、日本でも人気、
すでにドラマとアニメにもなっていて、これはコミカライズについての記事でした。

BLか……
BLが苦手というよりも、男女の恋愛であっても描写が苦手で、BLは特に赤裸々な印象があったので、どの程度のBL度かなぁ、と思いましたが、

カップリングとして、琴と笛というのは、
着眼点が私的にクリティカルヒットな気がして、興味がふくらみ、すぐに検索で調べました。

原作小説とアニメのタイトルは『魔道祖師』。
ドラマは『陳情令』。
そしてコミックが『赤笛雲琴記』。
タイトルが違うけれど、みな同じ作品。

コミックは日本では出版されておらず、中国の専門書店でたまに置いているらしいが、日本語訳はされていないとのこと。
原作小説は、翻訳されて出版されているものの、どこも入手困難なほど在庫がない……と、その当時の記事には出ていました。

その時点で、原作翻訳本は電子書籍でも読め、ドラマとアニメはHuluで観られるとわかり、
電子書籍の試し読みを、ざっと数ページ読んだのですが…
…実はその時点では、話の概略が、ほとんど理解できなくて。
アニメは……BLという先入観があって、なんとなくスルーしてしまい。
ドラマの方は、日本語字幕なので、読みながら観なくてはならず、45分が全50話もあって、時間と手間がかかりすぎる。

だいたい、同じ作品に、タイトルが三つもあるのと同様、
わかりづらかったのは、登場人物ひとりあたりの呼び名があまりにも多く、名前・字(あざな)・号・愛称などなど、
かなり観るようになって、それらが誰のことを指している呼称か、だんだんわかっていったものの、
服装髪型や雰囲気が同じ登場人物がたくさんいて、人の判別がしにくく、
ちょっと観ただけでは、なかなか作品世界に入っていけません。

前半部分では、笛も琴もあまり出てこなかったこともあって、
この時は、数話観たところで、いずれまた折があればと中断し、
そのまま観ることなく、忘れていました。

   再度きっかけは音楽から

さて、つい半月ほど前、珍しい民族楽器の横笛を知り、縁あって入手する機会があったのですが、
それについての資料も奏法も、奏者すらまったく手がかりがなく、完全独学で練習するしかない、ということがありました。

ともかく手がかりを得たくて、
参考として、You Tubeで「横笛」等のキーワードで検索してみると、
かなりの頻度で出てくるのが、ドラマ『陳情令』のテーマ音楽でした。

中国の横笛は、「笛子(てきし)」といって、篠笛に似ているけれど、笛膜が必要など、篠笛とは仕様が違います。
それでも「篠笛」「横笛」で検索すると、『陳情令』を吹いている人がけっこういて、

最近知った篠笛奏者も、Spoonで『陳情令』のメインテーマ曲の「忘羨」を、篠笛と笛子で、とても美しく演奏されていました。

哀切に満ちた、悠久を感じさせる、綺麗な曲……
古琴とよく合います。

そういえば、かつて琴について調べた際、古琴についての論考で、
現在、古琴を聴く機会は滅多にないが、北京オリンピックの開会式で、古琴の演出があるのが参考になると出ており、
記録映像を観たことがありました。

その後、You Tubeで頻繁に古琴演奏動画を見かけようになり、

ちょうどこのタイミングに、Twitterで偶然、
中国古楽の古琴や弦楽器の勉強をし、自身も熱心に習得しているという、日本の学生さんを知って、
その学生さんがちょうど『陳情令』のオーケストラコンサートの話題をしていたので、
「最近、You Tubeでやたらと古琴の演奏が出てくるのは、『陳情令』の影響でしょうか?」
と話題にしてみたら、
「たぶんそうだと思う、古琴をやりたがる人も増えている」と教えてくれました。

古琴は、私もかねてから憧れではありましたが、習いに行くまでの余裕が持てなくて。
私が使っているリラ型琴は、弦を揺らしたり押さえたりで音を変えられないため、ゆらぎを奏でられる琴は、やはり情緒が違います。

やっぱり、笛と琴といえば、この作品がはずせないみたい。

笛の練習かたがた、何度も「忘羨」の曲をYou Tubeなどで聴くうち、完全に耳コピ状態になり、
それでまた改めて、『陳情令』を観たくなった次第です。

そしてとうとう、全50話、一部、展開がつらすぎる場面を飛ばしたりもしましたが、一週間ほどかけて観通しました。
話の全般がわかったところで、現在、アニメも観始めたところです。

ドラマやアニメでは、BL感はほとんどなく(と、私は思いました)、安堵。
普通に仙侠作品として観られるように作られていて、
盟友の絆と信頼の描写に感銘を受けつつ、普通に楽しめました。
(最初、主人公の一人が、auの三太郎の浦ちゃんに見えていましたが…)

俳優さんが美青年揃いだし、一族によって衣装や髪型がほぼ同じなので、
主人公ふたり以外は、最初のうち明確に区別できなくて、
字幕に見入って見逃さずにいないと、話の展開も見失いがちだし、
本当に最初のうちは、なかなか馴染めず大変でした。

それでも、一旦、作品世界に入れてしまうと、そこから抜け出すのに苦労するくらい、魅了される、深くて厚い作品。
そうなると、やっぱり原作小説も読みたくなりましたが……さて、BL度が“におわせ程度”ならいいんですが。

   琴の神聖性について

ついでに、琴について、ざっくり書いてみますと、
日本では、『古事記』『日本書紀』の神話や天皇記、古墳時代の琴弾き埴輪や、史跡の出土品など、木板や箱板に弦を張った「やまと琴」は古くからありました。

それらはもともと、演奏目的や遊興のための楽器ではなく、
神事のため、魔を祓い、高次元空間を響きによって、神の波長を再現する、神がかり神おろしのための神具で、
それを弾く者は、神に等しいほどの霊力を持ち、位も高く高潔でなければならず、天皇や一部の神官に限られていました。
琴弾き埴輪が笑顔なのは、神がかった恍惚状態だからです。

その後、大陸から仏教や漢字などと共に、雅楽伎楽などが入り、楽器として美しい音色が意識されます。
それでも、日本では「遊び」も宴も、遊興というより、神聖な儀式的な場であって、
音曲は、場を整え、清らかな楽曲により神仏を喜ばせ、音と響きにより人々の心を整え導くという、特別な導具であって、
琴自体も神聖なものであるため、自ら弾き手を選ぶという話が、伝説逸話として残されています。

大陸では古来より、思想的に、琴は聖人貴人にのみ許された、高次元の波動により世や人民を整えるための、大変に高度な聖具であり、
琴を許されること、「座右の書、座左の琴」が、聖人のあかしと認識されていました。
日本の観念と近いけれど、文化的に微妙に違います。

奈良時代以降、楽器楽曲の演奏は、貴人にのみ許されたほか、楽人という特別な役職の一族が制定されるなど、
それまでの日本の琴の役割と認識が、大陸の観念と融合して、尊ばれました。

大陸文化の伝来と共に伝来した、その思想と「琴(きん)の琴」が、それまでの日本における「やまと琴」と融合し、
『源氏物語』でも、光源氏は最も高貴とされる「琴(きん)の琴」は、自分や天皇・皇子女など限られた貴人のみに許されるものとして尊重し、最愛の紫の上や、娘の明石の姫にさえ、出生の低さゆえに伝授していません。

そうした堅苦しさからか、扱いに難があるためか、『源氏物語』から後の時代には、「琴の琴」は次第に廃れていき、
大陸でも珍しい部類になっていったらしく聞きます。

その後、中国の古代琴は「古琴」と呼ばれ、
日本では近代くらいから、一絃琴や八雲琴などに復興され、性質は受け継がれます。

ちなみに、「やまと琴」と「和琴」は違いますし、
弦ものは「琴(きん)の琴」「箏の琴」「和琴」と、それぞれ仕様も定義も異なり、
平安の頃には高貴な女性も必要な教養として嗜みましたが、奈良時代には音楽も楽器も、高貴な男性のみのものでした。

これは、特に日本の場合には、男尊女卑ではなく、男性女性それぞれの特質により、神遊びの役割が異なったためではないかと思います。
今も、宮内庁の雅楽寮には男性しかいませんし、正式な舞台上には女性はあがれません。

外部の、教室などの習い事で触れられるのが、現代では果報に思います。

   武器としての効果 楽器と音

さて、『魔道祖師』『陳情令』では、ビジュアル的にいかにも高貴な男性が、古琴を弾いているけれど、どんな使われ方をしているのかな、と、そこが私には注目点でした。

(実は誰にも見せたことないけれど、私は自分で勝手に書いている小説で、前から音や波動をなんらかの効果で使うことを、けっこうやっているんです。だから興味があった)

主人公の境遇が変わってから、彼が刀剣のかわりに笛を使うようになったため、中盤くらいから、楽器が頻繁に使われるようになってきて、
そこまで来ると、私などは観ていて楽しくなりました。

中国のワイヤーアクションの骨頂である、仙術などで空を飛ぶような戦闘シーンなど、神仙術的な超越した戦術が描かれて、活劇としてすごいのですが、
その中で、主要一族の伝統の武器として、琴や笛が使われています。

琴だと、七弦琴の響きを糸状波動で飛ばして、邪霊を退けたり、相手をふっとばしたり、斬り殺したりする「弦殺術」なんてのがあったり、
亡魂を招いて、琴を通じて問答をする「問霊」とか。これは日本の琴弾き埴輪の神霊おろしの口寄せに似ているかもしれません。

演奏シーンでは、古来の聖人君子の嗜み同様、心を鎮め精神を整えるものとしても、使われるのがよかった。

主人公が使う笛子「鬼笛陳情」は、笛のねで、邪悪なものを呼び寄せたり、死人をゾンビみたいに操ったり、邪念で人を害するようなシーンで登場。
魂まで蝕まれて、幻覚を見ながら悲惨な死に方をする場面も。

もちろん、普通に奏でることもしていますが、霊力を失って鬼道を習得した主人公が、刀剣のかわりに武器として常に持っていて、
特に持ち主の憎悪や邪念が強ければそれが、逆に祓い清めの念が強ければ、それが、霊力として増幅される笛のようです。

他に、主人公のひとりの兄上が吹いている、「簫」は、尺八を細くしたような玉製の縦笛で、穏やかなお人柄に合う静謐な音色。

クライマックスで、邪霊を鎮静させるために、笛子・簫・古琴で合奏している「戦闘シーン」は、私的には、一番の見処でした。

普通に折々、ストーリー内に挿入される、中国古楽の音色が、私には心地よくて、そちらに耳を傾けたくなり、字幕を見落としてストーリーが吹っ飛んでいることも、起こりがち。

ちなみに作中の、刀剣にも楽器にも、名前がついていますが、
私も自分の愛器には、みな名前をつけています(^^)

   音は心

ちなみに私は、畏れながら、日本古来に則り、その場その時の状況や、周囲の自然界の氣配により、即興で神音を響かせることを意識をしているのですが、

それと対象的で、観念的に大陸文化らしいと感じたのは、
楽器の音や響き以上に「曲」を重視しているというところでした。

用途に合わせた楽曲を、正しく間違いなく奏でることで、効果があがり、
合奏により、さらに力が増幅される。
音を外したり間違えたりすることで、正邪が入れ替わることもあり、それが呪法として密かに行われているのが、最後の方で肝になっています。

これは、
古代日本が声や音での「言霊」の効果や、伝承文化であったのに対し、
大陸では、正確に文字で表し記録伝達する、「文字」に力があるとした文化に通じる気がします。

どんな時に、どの曲を選んで奏でるかが第一で、
それをほんの少し変えるだけで、薬が毒になる効果で人を害する。

これは、演奏する人、誰でもが、意識無意識に関わらず、やっていることだと思いますが、
ただ漫然と音を出すのではなく、場により時により、自分自身の心や魂を、息にも指にも、全身全霊にこめて、音色とします。

同じ楽器であっても、人により個性や響きが異なるのは、熟達と共に、その人本来の内在しているエネルギーが、音に集約されて発動されるからです。

練習が必要なのは、間違えたり自信がなかったりすると、集中に欠け、空虚な演奏になるばかりでなく、
それこそ邪念が自分からも他人からも湧き上がり、それが音と響きとして波及して、場と空間を乱すことになりがちだからです。

無心無我に、音のみに魂が集中できるほどに、指や体が自然に動き、曲が流れ出るくらいでなければ、つけいられやすくなる。
そのために、日々、一体となるほどに、愛器と共に過ごし、奏で、修練することが大切なわけです。

音を楽しんで奏でる心により、技術や上手下手以上に、自分も聴く人も楽しい心持ちにさせる、それが本来の楽器演奏の真髄。
誇示するのでも、他者と比べるのでもなく、自分の心を音にして、発動させ、清め祓いと、喜びの波動を、世界に響かせたい。

現在、琴は自由奏が普通にできるのですが、
笛は単音ゆえに、まだ、なかなか心を流す調べになりきれていません。
新しく入手した民族楽器の横笛に馴染む意味で、『陳情令』のテーマ曲、
「忘羨」で、練習しているところです。

それにしても、久々に夢中で集中してしまうような作品を視聴している充足があります。
ドラマもアニメも、ほとんど続けて観たことがなかったから、しばらく楽しみが続きそうです。

※ドラマ・アニメ・原作小説の感想は、また別に書きたいと思います。


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