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week3.働くときは労働契約の内容だけ確認すればいいわけじゃない?把握していなくても適用される会社と労働者のルール、【就業規則の法規範説】について。

※テイストは試行錯誤なので変わる可能性があります。
勉強をした中で気になったワードをピックアップして深掘りしていこうと思います。

今週は先週の続き、就業規則の法規範説について。
"部分無効自動引上げ"というのは、労働契約に労働基準法に満たない違法部分がある場合、労働契約全てが無効になるのではなく、部分的に無効となり、無効部分は労働基準法に置き換わる(引き上げられる)というものでした。これは就業規則でも同様です。
そして、労働基準法・労働協約・就業規則・労働契約には置き換わる強さがあります。

優先順位についての解説は良さげな解説を見つけたので引用します。

就業規則の定めが、法令や労働契約などの定めとの間で食い違いがある場合には、どちらが優先して適用されるかについて、その優先順位を定めておかないと混乱してしまいます。そこで、労働基準法第92条、労働契約法第12条においてその順位を定めています。
その順位とは「法令>労働契約>就業規則>労働契約」ということになります。使用者が一方的に定めることができる就業規則よりも、労使の合意がなければ成立しない労働協約の効力をより強いものとしています。また、個別労働契約の下では従業員が弱い立場に置かれやすいため、使用者が一方的に定める就業規則であっても、これにさまざまな法規制を加えたうえで、個別の労働契約より、その効力を強いものにしようというのが労働基準法の基本的な考えです。

原・白川法律事務所「就業規則の法的効力」

労働契約の内容よりも就業規則のほうが優先して適用される?

労働条件の「絶対的明示事項」と就業規則の「絶対的必要記載事項」というように絶対に明示・記載しなければいけない項目もありますが、労働条件の書面上で「就業規則に定める」という風に表現されている事項もあると思います。
これは労働契約法第7条にも記載があるもので、就業規則の内容が個別の労働条件として適用されるという法律が関わっているんですね。

第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

e-Gov法令検索「労働契約法」

ここで重要なのは、労働契約よりも就業規則のほうが優先して適用されるということ。
つまり、個別の労働条件でとある正社員との労働契約では賞与を不支給とする。としたが、正社員全員に適用する就業規則で賞与の支給を記載している場合(他の正社員には賞与が支給されている場合)、賞与を不支給とする項目は無効となり、就業規則の内容が部分無効自動引上げされるということです。

こうやって見ると、とても当たり前のことだな~と思うわけですが、今回考えるのは、「入社時の就業規則の内容には無かったルールが就業規則の変更で適用された結果、解雇(定年制の適用)された。就業規則の変更に同意していないので無効ではないか?と主張した」ケースです。
個別の労働契約は契約を更新(締結)するときに双方の同意が必要ですが、就業規則は更新するときに労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見書を添付するだけで(強引に言えば労働者の同意なく)更新することができます。もちろん不利益な変更は法律で制限されているはずで、なぜこういったことが起きたのか。
結果最高裁はどのように結論付けたのか。を判例とともに見てみます。

秋北バス事件の内容と最高裁判決を見る。

秋北バス事件 事件の概要
問題が起きたのは昭和30年代の話です。当時、この会社では、主任以上の従業員には定年制が適用されていませんでした。
この取扱いを改めるために、会社は就業規則を変更して、主任以上の従業員にも定年制を適用することにして、主任以上の従業員の定年年齢を55歳と定めました。
この就業規則の変更に伴って、55歳以上の従業員が定年制の対象となったため、会社は対象となった従業員に解雇を通知しました。
これに対して、解雇された従業員が、本人が同意していない就業規則の変更には拘束されないと主張して、解雇の無効を訴えて提訴しました。

キノシタ社会保険労務士事務所「秋北バス事件(就業規則の法的性質)」

秋北バス事件 判決の概要(最高裁 昭和43年12月25日判決)
労働条件は本来、従業員と会社が、お互いに対等の立場で決定するべきものである。
しかし、多数の従業員がいる会社においては、労働条件は会社が統一的かつ画一的に決定して、従業員はこれに従わざるを得ないのが実情である。
この労働条件を定めた就業規則は、社会的規範としての性質だけではなく、その内容が合理的なものである場合は、事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質が認められる
つまり、従業員は就業規則の存在や内容を知っているかどうかは関係なく、また、これに対して個別に同意を与えたかどうかも関係なく、その適用を受けるものである。
そして、就業規則の作成又は変更によって、会社が従業員の既得の権利を奪ったり、一方的に従業員に不利益な労働条件を課したりすることは、原則として許されない
しかし、労働条件の集合的処理、特に、その統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質から言って、その就業規則の内容が合理的なものである場合は、個々の従業員が同意していないとしても、その適用を拒否することはできない
そして、定年制は、人事の刷新、経営の改善、組織運営の適正化のために行われるものであって、一般的に不合理な制度と言うことはできない
本件就業規則についても、新たに設けられた55歳という定年年齢は、産業界の実情に照らして、また、一般職の従業員の定年年齢が50歳と定められていることから言っても、低過ぎるとは言えない。
しかも、本件就業規則の内容は、定年に達したことによって自動的に退職する「定年退職」制を定めたものではなく、定年に達したことを理由として解雇する「定年解雇」制を定めたものであって、労働基準法第20条の解雇制限の適用を受けるものである。
さらに、本件就業規則には、十分とは言えないとしても、再雇用の規定が設けられていて、不利益を緩和する措置が取られている。
しかも、会社からこの従業員に対して、解雇した後に引き続き嘱託として再雇用をする意思表示がされていた。また、この従業員を含めた中堅幹部で組織する輪心会の会員の多くは、後進に道を譲るためにやむを得ないものとして、本件就業規則の内容を認めている。
以上の事実を総合すると、本件就業規則の内容は不合理なものと言うことはできない。また、会社がこのような規定を設けたことについて、信義則違反や権利濫用と認めることもできない。
したがって、従業員は、本件就業規則の適用を拒否することはできない。

キノシタ社会保険労務士事務所「秋北バス事件(就業規則の法的性質)」

大事そうなところを太字にしました。ここで「就業規則には法的規範の性質が認められる」とありますね。
あとで引用した記事の解説も載せますが、法的規範とは、法律と同じ位置づけだということで、「従業員は就業規則の存在や内容を知っているかどうかは関係なく、また、これに対して個別に同意を与えたかどうかも関係なく、その適用を受けるものである。」と結論付けているわけです。道路交通法を完全に知らない人でも、道路交通法違反になれば警察官につかまります。これは道路交通法(法律)の存在や内容を知らなくとも、本人が適用を拒否しても強制的に適用されるわけです。これを法的規範と言い、就業規則にも法的規範の性質が認められる。とする説を"就業規則の法規範説"と言います。
就業規則の不利益な変更は原則として許されないと明言しつつも、今回の変更は合理的な変更と言えるし、従業員に対しても措置を講じているので不合理でもないし、権利濫用でもない。とするのが秋北バス事件の最高裁判決です。
内容重複ありますが、記事の解説も載せておきます。

秋北バス事件 解説
就業規則の内容が合理的と認められる場合は、民法第92条による事実たる慣習が成立しているものとして、就業規則に法的規範としての性質を認めています。
法的規範というのは、法律と同じように位置付けられるということです。つまり、法律は、本人がその存在や内容を知らなくても適用されますし、本人が適用を拒否しても強制的に適用されます
そして、就業規則を作成したり、変更したりして、従業員に一方的に不利益を課すことは原則としてできないけれども、就業規則の内容が合理的と認められる場合は、個々の従業員が同意しなかったとしても、その適用を拒否することはできないとしました。
この裁判では、定年制を定めた就業規則の内容は合理的なものとして、会社が定めた就業規則の有効性を認めました。
なお、就業規則の内容が合理的かどうかが重要な問題になりますが、この裁判では具体的にどのような内容を考慮するのかということまでは明らかにされませんでした。

キノシタ社会保険労務士事務所「秋北バス事件(就業規則の法的性質)」

会社にとっても従業員にとっても労働契約の締結のみでなく、就業規則の更新はその更新が合理的な意味を持つのか。を考える必要があり、また個々の従業員の理解と措置を考える必要がある。ということが分かります。
最高裁判決を読むと、その過程や会社・労働者がどのような行動をしたのか。をちゃんと判決の中で明記しています。
大雑把に見ると労働者に不利益な変更なのでは?というような内容でも中身を精査するとこういった結論になるわけですね。。。

まとめると「就業規則は単なる会社のルールとして無関心になるのではなく、自分と会社の間に成立する法律として関心を持とう。」

今回の話は"就業規則の法規範説"をとりあげたわけですが、社労士の勉強をしていく中で、労働基準法含む様々な法律に関わる判決があり、判例を根拠とするいくつもの説がそのまま社労士の問題として出てくるんですよね。とても大変ですが、頑張ってそれぞれを理解していこうと思います。
話がそれましたが、今回の話をまとめると就業規則は単なる会社のルールとして無関心になるのではなく、自分と会社の間に成立する法律として関心を持とう。ということになるのかなと思います。

今週の勉強報告

※教材はこちらの記事に記載

スタディングを通勤時間等スキマ時間に充てることで最低限の勉強はできていますが何せ勉強時間が足りていない、、今月中にとりあえず労働基準法を終わらせます。そして、来週は20時間を目標にとりあえず頑張ります。

勉強内容

  1. テキスト→今週はなし

  2. スタディング→労働基準法(総則、労働契約、休憩・休日)

  3. その他→月間社労士受験10月号(判例解説、労働基準法)

勉強時間

  1. テキスト→なし

  2. スタディング→6h

  3. その他→1h

サポートしていただいたお金は旅の資金にさせていただければと思います。新しい刺激をもらいにいろんなところを旅したいです。