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角の家

 職場に向かう途中にお気に入りの家があった。木造二階建ての家だ。木造と言っても太い柱の重厚なものではなく、外壁が木の板の瓦屋根の日本家屋だ。何となく昭和を感じさせる雰囲気だった。中はどんな造りになっているのだろうといつも見ていた。

 坂を上りきった十字路の角にあり、私はその坂を通っていく。玄関は別の道に面したところにあり、全貌は坂の側からはちょっと見えにくくなっていた。庭もなかなか広そうであったが見えない。柵からはみ出して咲いていた紫陽花が見えるくらいだった。一回その庭を歩いている高齢の女性をチラリと見たことがある。多分、この家に住んでいた方だろう。

 年末のことだったか、そのお宅に造園業者のトラックが何台か停まっていた。庭の手入れかと思っていたら、大きな石をいくつも運び出していた。庭を作り替えるのだろうかと思っていた。しかし、造園業者が石を運び出した後は、何も動きがなかった。

 しばらくして、職場でこの家の持ち主が買い手を探しているという話をきいた。高齢のため、引っ越すのだったか理由は忘れてしまったが。持ち主は家をそのまま使ってくれる買い手を探しているがなかなか難航しているということだった。あの家はどうなるのだろう。カフェやパン屋、飲食店などいいのではないだろうかと勝手に期待していた。

 結局、思うように買い手が見つからなかったようで、家の前に解体業者の車が何台も停まるようになり、濃茶色の板壁をバリバリと壊していった。もうあの懐かしさを感じる家は見ることは出来ない。人様の家なので写真も撮ってはいない。

 家が無くなったその場所は近くの病院の駐車場となった。空き家となって、荒れていくのを見るよりはよかったとは思う。でも、私の中に少しの寂しさが残った。

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