#4 新たなる覚悟
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「明日はどこ行こっかなー。大阪でオクタヤキならぬ本場のたこやき食いに行くのもいいし、奈良の大仏見に行くのも良いねー!考えただけでワクワクが止まらねぇーってはしゃぐ小学生かよ、俺。で、ベア子はどこ行きたい?」
「ほんとーに騒がしいぱーとなーなのよ。スバルが寝る直前にべちゃくちゃ喋るのにはもう慣れたかしら。どこって言われても…、姉妹の妹の希望に従えばいいんじゃないかしら?今日のスバルはあの娘を見る目が…そう、いびつだったのよ」
「ーーぁあ、そりゃー、ねぇ」
言葉を選ぶベアトリスに答えづらいところを突かれる。スバル一行がいるのは町外れの宿ーーエミリア、レム、ラムで一室、スバルとベアトリスで一室という形だ。ベアトリスは契約直後は躊躇いがあったものの、今では毎日同じベッドで寝ている。毎日のようにスバルはベアトリスが眠るまで会話するのが日課なのだが…
「そうだ、それでベア子ーー、ベアトリス?」
「ーーーー」
「なんだベア子ー、もう寝たのかよ。まぁ今日のベアトリスは初めて遊園地に来てはしゃぎまわる幼子そのものだったもんなー」
話しかけながら小さな寝息を立てるベアトリスの小さな手を優しく握りスバルは今日一日を振り返る。
「本当に今日は奇跡に近い一日だったなぁ。なんせ、起きて喋るレムを見るのは約1年ぶりって話だ」
言いながら今日一日のレムを思い出す。どうやら自分が眠り姫だったという自覚もないらしい。それどころかスバル以外のメンツもレムが眠り姫だったということを覚えていないらしい。まるでレムと毎日一緒に過ごしたかのように…
「それにしてもベア子に負けず劣らず俺もはしゃぎまくったからな、俺も疲れちまったぜ。京都をはしゃいで歩き回っただけで疲れるとなるとお師匠様になんて言われることやら…で、こっちの世界にいつまでいることになるんだ?こっちにはマナがないって話だから早く屋敷に戻る手段を探さねえと姉様が死んじまうー」
見慣れたベアトリスの横顔を眺めながらスバルは考える。確かにスバルは異世界にいた。異世界から日本にどうやって来たのか、その記憶も曖昧で帰る方法も分からない。考えても分からない。埒が明かない。
「眠れねぇ。本来ならレムに今日の出来事を語る時間なんだが…今日は姉様もいるし、寝込みを襲う狼だと思われたら最悪だしな…」
レムが眠り姫となって以来スバルは眠るレムに一日の出来事を語るのが日課だった。それはレムが起きた時に眠っていた間の出来事で遅れを取らない為であり、レムを迎えに行くと誓ったスバルの何もできないながらも自分が出来ることを考えた結果の自己満足に過ぎない行いである。などと考えるうちに…
「痛えーー」
スバルを襲ったのはまたしても頭痛だ。日本に来てから何回かあった頭痛の正体も分からない。
「考えるだけ無駄だ。とりあえず今後の方針はみんなで話し合いするとしよう。明日体調が万全じゃないとお話にもならねぇしもう何も考えず眠るか」
それが最後の言葉だった。
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「スバル!スバル起きたのね」
「ーーぇ、エミリア、たん?」
「そうよスバル、ずっと起きないかと思って心配したんだから」
「ずっと?」
スバルは起き上がり周囲見渡す。そしてエミリアの言葉の意味に遅れて気がつく。
「…知ってる天井だ」
ここはロズワール本邸のスバルの自室。
「戻って…来たのか。京都は?」
「ーー?キョートっていうのは何だか分からないけどスバルったら赤ん坊のように幸せそうな寝顔してたもん。無理に起こせなかったわ」
エミリアが微笑ましく答える。
「ーーレムは?レムはどうした?」
「ーー?スバルそんなに慌てないで。レムなら変わらずよ」
「かわ…らず?」
途端スバルはドアを蹴り開け走り出す。そして無我夢中で走り目的の部屋の扉を開ける。
「レム…れむぅ」
そこには変わらず眠ったままの青髪の少女の姿が。当たり前のように歩き喋りかけてくれるレム。全ては偽りだったと悟り膝から崩れ落ちるスバル。慌てて駆けつけ状況を飲み込めないエミリア。そこに
「な、ナツキさん?何事ですか?い、いつものおふざけではなさそうですね」
「スバル様?」
一仕事を終えたオットーと廊下を掃除していたペトラも合流する。
スバルは三人の助力もあったが夢と現実とを理解するのに小一時間はかかった。日本に再召喚されたのではなく、それはただの謎のミーティアが見せるまやかしーースバルが自分の理想を具現化した夢に過ぎなかったのだ。
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スバルは目的の部屋の扉をノックする。今回の出来事の真相と目論みを問いただすために。
「どーぉぞ」
入室を許可され部屋に入る。
「やっぱりお前か、ロズワール!何が目的だ?答えによってはお前は誓約に反することになるぞ?」
「スバル」
スバルより先に執務室にいた相棒、ベアトリスが名を呼ぶ。ベアトリスも今回の一件がロズワールの企みだと目星をつけ思惑を問いただしていたところだろうか。
「なーぁにも、そんなに怒りの形相で見つめないでくれたまーぁえ。悪巧みの類ではないよ、現に身が焦がされていない時点で制約に背いてはいない。その様子だと信じてもらえないだろうけーぇどね」
「で、何が目的だ?」
「わーぁたしはただ君の覚悟を問いたかったのだよ。ここ半年、君は次の有事の際に備え自分を高める努力をしているのも知ってる。だけど君は頑張る自分とやらに満足しちゃってるんじゃないかと思ってねーぇえ」
相変わらずの道化ぶりな喋り方で続ける。確かにスバルはいずれ相対す暴食をはじめとした魔女教との戦いに向けてこの半年でクリンドに鞭術やパルクールを習い身体能力向上を目的に鍛錬に励んできた。ただ平和な日々を過ごしてきたわけじゃない。だから言い切れる。
「別に現状に満足なんてしちゃいねえ!魔女教ーー中でも暴食の野郎をぶっ潰しレムをこの輪の中に迎え入れる。そしてエミリアを次の王様にする。その目標は見失ったりしねぇ!」
怒りに任せて言葉を並べるスバルに黙ってベアトリスが手を繋いで落ち着かせてくれる。
「それならどうしてそんな怒りの目をむけるんだーぁい?別に君も悪い夢を見たって訳じゃあないんだろーう?エミリア様からは幸せそうな顔をしていると伺ったものでねーぇえ」
「それは…」
レムが起きた。王都でのループが思い出される。何をやっても上手くいかない。どん底で全てを諦め逃げようとした。そのスバルを立ち上がらせてくれたのが彼女だ。その彼女を必ず救うと誓い、それが果たされる日をどれほど夢見てきただろうか。それが実現したのも束の間、偽りだと知り怒らない方がおかしい。
「そもそもだよ、あのミーティアは当人の目標を再認識させる効果がある。君がどんな夢を見たのかは知りかねるが、目標を自覚できたなら万々歳じゃーぁないの」
「ーーーー」
少しの沈黙が続く。そしてロズワールの目的を断片的に知るスバルは考えをまとめて発言する。
「確かにお前の考えも一理ある。平和ボケはしていないつもりだったがお前にはそう見えなかったらしい。でもどうしていつも行程をふっ飛ばしてはやとちりして行動に移すんだ?話し合いをして相手の考えを理解しようとする努力をしろよ!いきなり仕掛けて来てんじゃねえ!」
「相手を理解する、ねーぇえ」
ロズワールは一瞬驚いた表情を見せ小声で呟く。スバルの発言に「その通りかしら」と言わんとするベアトリスの双眸がロズワールを捉えている。ベアトリスとしても同意見だ。なんせロズワールとベアトリスは会話不足だった。魂の転写でアルタイルの記憶を当代まで引き継ぐロズワールは会話不足が原因でベアトリスを孤独に追いやった。
「お前のやり方は気に食わねぇ。回復しつつあったお前への信頼はまたゼロだ。もう少しやり方を考えろ。かといってお前はエミリアを王にするのに必要な後ろ盾だ。今回の件は他のメンツには口外しないでやる。話し合いは終わりだ。行くぞベア子」
そう言い残して部屋を後にする。
確かにロズワールのやり方は気にくわない。だがスバルにとっても目標は再認識できた。レムをいつまでも眠り姫にしておく訳にはいかない。その為にも暴食をやつける手立てを見つけなくては。そうして新たな決意を胸に抱き再び歩き出す。
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「私は、僕はまた間違えたのだろうか?」
誰もいなくなった執務室で呟く声が一つ。
「どうするのが正しい。叡智の書なしではどう行動すれば良いのか分からない。どうすれば目標に近づける。どの選択が最良なのだ。私には…」
分からない。解らない。判らない。わからない。
だが一つだけわかったことがあった。
「君はやはり私の最後の希望だ。君が私を導いてくれる筈だ。君を信じようーー」
そう言ってこちらも決意を新たに再び歩き出すのだった。
〜Fin〜
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ご覧下さりありがとうございます。
今回は少し長くなりましたがこれで完結です。また機会があれば短編中心に書いていこうかなと思ってます。
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