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家康公のスマートシティ江戸/東京(でもこれからどうするか)

1.改めて証明された東京都の脅威の治水能力

前回の投稿では、首都東京の治水能力の高さとその限界について記してみた。箱根の降水量1000mmは山地の降水量で平地の東京の想定降水量との単純比較はできないのではという指摘や、海水温上昇によるスーパー台風化は風速に影響するのであって雨量の単純増とは言えないのではというもっともな指摘もあった。気象の専門家の考察を待ちたい。
いずれにしても、環境省が2100年の天気予報として動画公開している想定は、870ヘクトパスカル、最大風速90mのスーパー台風が何個も上陸する日本だ。
https://www.youtube.com/watch?v=Q0imhxZ51Ak

それが2100年を待たずして来る可能性が高い。
既に東京都は(土地の路線価格に影響することを避けるため?)1000年に一度と表現を和らげつつ、910ヘクトパスカルの台風想定の浸水区域を示している。(これは、東電の社長副社長が裁判にかけられた今、不作為の罪による強制起訴を避けるためリスク指摘だけはしておくという役人的発想もあるかもしれないが)これによると墨田区、江東区の相当なエリアの戸建て住民は5m浸水で2階への垂直避難でも助からず相当な犠牲者が出る可能性がある。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28798530Q8A330C1000000/

一方で被害状況が徐々に明らかになるに連れ、東京都の突出した治水能力とその限界がやはり報告されている。
「台風19号、外郭放水路は能力一杯、荒川調節池は史上2度目の稼働」
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/101500772/       (上記写真ロイター/アフロ)

今回は全国で74人が亡くなったほか、12人が行方不明
死亡者は(10/15 21:00現時点)
▽福島県 27人
▽神奈川県 14人
▽宮城県 14人
▽栃木県、群馬県 4人
▽長野県、3人
▽埼玉県、岩手県、、茨城県 2人
▽千葉県、静岡県 1人

1400万人近く居住する東京都に1人の死亡者もでていない。

これはすごいことだ。国が管理する7つの河川の合わせて12か所、7つの県が管理する合わせて43河川54か所でも、
堤防の決壊が確認されているが、東京都管轄では1箇所もない。
何故、東京はこれほど水害に強いのか。
その前に、大都市と河川の歴史的関係について少し振り返りたい。

2. そもそもの世界の大都市と河川について


世界の首都は、歴史的にも大きな河川沿いの集落であったところが多い。
生物が生きる上で必要な水があり、飲料水の確保と農業や漁労が可能だからだ。それらの大都市を流れる川の語源は、まさに「the river」とくにゆったり流れる川である場合が多い。

古代文明を生んだ場所に流れる川の語源は
・ナイル川が、イル(川)に定冠詞「ナ」がついたナ・イル
・ガンジス川も、ガンガ(川)という意味、インダス川も、ヒンドゥ(川)のサンスクリット語
・黄河、長江は、まさに漢字で読んで字の如く
・メソポタミアも、メソ「間」、ポタム「川の」でチグリス・ユーフラテス川の間の土地という意味

また世界の首都も
ロンドンを流れるテムズ川のテムズは「黒い川」(ケルト語)
パリのセーヌ川のセーヌは「ゆったり流れる川」(ケルト語)
バンコクのメコン川のメナム(川)コング(大きな)で「大きな川」(タイ語)

日本語翻訳あるあるだが、大抵の世界の川の地名は日本語で「川川」と言っているに等しい。

参照:「地名の世界地図」文藝春秋社 P199-201

3. スマートシティ江戸/東京の誕生の特殊性

それらの数千年に渡って、人々が住んできた世界の大都市と比べると江戸の歴史は浅く比較的最近、人工的に開発されてきたと言っても良い。

子供の頃、家康の伝記を読んで印象に残っている人もいるかと思うが
小田原城攻めの最中に、秀吉の高台で連れションに誘い「そこから見渡す関東八州全てを家康公に」という巧みな秀吉のセリフ。治水の困難な未開の関東平野をこれまでの東海の徳川の所領と国替えを迫る話。

これを400年前に徳川幕府が、荒川(まさに荒れる川)経由して江戸に流れていた利根川の流れを銚子から太平洋に流れるように付け替えるという大事業をやって生まれたのが関東平野の農地と利水・治水に成功した世界の大都市江戸、現在の東京。

利根川東遷事業
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%A9%E6%A0%B9%E5%B7%9D%E6%9D%B1%E9%81%B7%E4%BA%8B%E6%A5%AD
・流域の沼や湿地帯からの新田打ち出し
・水上交通網の確立
・利根川を北関東の外堀とし東北諸藩に対する備えとする
・流域や江戸を水害から守る治水

1石4鳥と超賢い利水と治水の大事業を成し遂げている。

また玉川上水を整備して当時としては世界のどの都市も持っていなかった上水供給網を確保していたりもする
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%89%E5%B7%9D%E4%B8%8A%E6%B0%B4

江戸/東京は利水、治水、開拓によって計画的に開発された史上初のスマートシティ。世界の他の大都市が自然発生的に人々が住み始めた集落から始まっいるのに対して、江戸/東京は秀吉が家康に託してなければ、託された相手が家康でなければ誕生しなかった可能性が高い。

4.一極集中? vs 地方分散?

400年間利根川東遷以来、営々と膨大な治水投資がなされていた江戸/東京。今回、地方との災害対応力の格差が如実に出た。でもそれは、経済が東京に一極集中し都の財政を支えているからでもある。

意外と知られていないが、東京都の予算は13兆円、スウェーデンやインドネシアの国家予算に匹敵する


東京都の河川海岸予算の河川の部分を抜粋合計すると約420億円

国の治水関係予算が8040億円 47都道府県で単純に平均すると170億円/県

やはり東京は治水予算に地方の2-3倍はかける事ができている。

ただ、これ以上治水のための建設用地買収は不可能であり、ハード面での東京の治水機能の拡張も限界だ。これまでの、国土の均衡的な発展とか、満員電車解消とかの、「ぬるい」道州制の議論ではなく、災害対応の観点から首都機能の地方分散化を日本という国の機能の事業継続性BCP(Business Continuity Plan)の観点からも検討しないと行けない時期に来ていると真剣に今回改めて思う。
スーパー台風が毎年ロシアンルーレットの様に日本の各地を襲ってくるのだから。


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