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『ルックバック』

絵を描くことが好きだった父は、芸大に進んだ。当時あった飛び級、それからの現役合格なので、学業はそつなくこなす人だったのだろう。

一方、コミュニケーション能力は著しく低く、大学を出てすぐ勤めた会社には、ほんの僅しか通わなかったそうだ。僕の記憶でも、何かちょっと働き、すぐに辞めて家に閉じ籠っていた。歳を経る毎にそれは酷くなり、人生の終盤は、ほぼ引きこもりだった。

家計は苦しく、大変だったが、貧しくても明るく楽しい家だった。これには母の存在が大きい。働きに出る母、家で籠る父。思春期以降、僕には父が全く理解できなかったが、今になってわかる気がする。

みんなが、和気あいあいとコミュニケーションを取るのは理想にも聞こえるが、不自然でもある。それぞれ世界観があるし、自分が執着するもの以外は興味が全くない人はよくいる。そういう人こそ何かに秀でていたりするものだ。

幼い頃、父に絵をせがむと、白い紙に躍動感溢れる虹鱒やブラックバス、馬など、すらすらと描いてくれた。魔法使いのようだった。
父の絵は、彼が好きだった釣り道具入れに描かれたものが数点残っているだけだ。残念ながら。

「ルックバック」絵を描くことが好きな二人のストーリー。ちょっと主人公の一人と、父がかぶる。

暖かくなったら、この箱を持って子供たちと釣りに出掛けよう。

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