逆行可能のエイプリルアクト


 嗄井戸の部屋からスナッフフィルムを見つけてしまった俺は、色々な捜査をした末に、過去に戻ることにした。誘拐事件さえ起こる前に解決してしまえば、全ては始まる前に終わったも同然、無病息災の色即是空だ。
 過去に戻る方法については心配要らない。
 なんと【任意の人間】が引き起こした【任意の理由】で、映画研究会? 部? のデロリアンが本物になったのである! 俺は文系だからわからないが、そういうこともあるらしい。このタイミングで【任意の法則】が発見されたことも効いたようだ。ホバーボードも出来たことだし、金さえあれば意外と何でも出来るんだな。資本主義ってすげえわ。
 俺は早速根古谷に掛け合ってそのデロリアンに乗せてもらうことにした。根古谷はかなり嫌がっていたが仕方がない。こっちだって必死なのだ。根古谷は最後まで粘ったものの、【任意の方法】を用いたらあっさりとデロリアンのある部屋に俺を通した。ここまできたら勝利は目前である。
「何でお前にデロリアン貸さなくちゃいけないんだよ! ふざけんな!」
「大体デロリアンってタイムマシンだろ? ってことは、根古谷先輩が俺にデロリアンを貸す前の時間軸に過去の俺が戻ってきたら、それは実質貸していないってことになるんじゃないか?」
「奈緒崎の分際でちょっと高度なタイムパラドックスの話をするんじゃねえよ!」
「絶対返すから! ちょっと過去の事件に手を出すだけだから!」
「思いっきり過去に介入すんのやめろよ! お前『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ちゃんと観たのかよ!? ちょっとの行動が未来に凄い影響を及ぼすんだよ! せめて『バタフライ・エフェクト』観てから行けや!」
「うるさいな。俺にはこれしかないんだよ。これ以上【任意の方法】を使うわけにもいかないだろ」
 俺は無理矢理デロリアンに乗り込むと、エンジンを掛けた。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を見ていたから操作方法は大体分かっているし、俺は運転免許も持っている。何も問題は無い!
「過去改変は本当に色々ヤバいんだって!」
 この期に及んで往生際の悪い根古谷がデロリアンにしがみつきながら叫ぶ。ここまで必死に止めてくるということは、意外と本当にまずい方法なのかもしれない。
「実際、何がいけないんだ? 別にちょっと行ってくるだけだって」
「過去を改変した場合どうなるのか、未だにわかってないんだよ! ほら、色々パターンがあるだろ? 過去を改変したって、それはパラレルワールドを生み出すだけだとか、そもそも改変しようとしたって上手くいかなかったりするとか、そもそも改変前の記憶が上手いこと消えて、自分が何をしたのかぜーんぶ忘れちゃったりとかな! 歴史の修正力だ」
「よくわかんないけど、のび太がしずかちゃんと結婚してもセワシが生まれてたろ。平気じゃん」
「あの世界はその改変まで織り込み済みなんだよ! そういう設定の下に成り立ってんの! お前は時間モノSFの何たるかすら分かってない!」
「大丈夫だって、どうにかなる」
「俺お前のことストレートに嫌い!」
 まあ、根古谷は根古谷なりに俺のこととデロリアンの行方を心配してくれているのだろう。その点は確かにありがたい。俺はその気持ちを真摯に受け止めながら、扉を閉めた。上下に開く扉は、こうして実際見てみるとやっぱり格好いい。
「お前、どうなっても後悔しないのかよ? 今とか全部無くなるかもしれないんだぞ」
 根古谷は最後にそれだけ言った。
「それで助かるなら別にいい」
 そして、俺の運転するデロリアンは宙に浮かび上がる。目指すは事件の起きる三日前だ。

 そして過去に戻った俺は【任意の方法】で、事件を防いだ。
 まさかこんなに冴えた方法があるとは思わなかった。詳細は割愛するが、その方法のお陰で、意外と簡単に事件のあった日を乗り越えることが出来た。【任意の方法】はあまりに凄かったので、恐らくもう似たような事件は起こらないだろう。全て綺麗に解決したことに対して、俺は密かな感動を覚えた。ここに嗄井戸がいないのが惜しいくらいだ。
 ともあれ、問題はまだ残っている。ここまで綺麗に過去が改変出来たのなら、ついでに俺の留年もどうにかしよう。俺はデロリアンに乗り込み時間を少しだけ移動する。そして、戸田にある懐かしのアパートに向かうと、窓をかち割って中に侵入した。そういえばここに住み続けてたらあのまま殺されてたんじゃないか? ということに気づいたので、過去の俺が引越しをするよう部屋の中を荒らす。過去の俺は死ぬほどびっくりするだろうが、死ぬほどびっくりするのと、実際に死ぬのとじゃ雲泥の差があるだろう。
 部屋に投げられている教科書を開き、これから先試験に出てくる箇所に全てマーカーを引いておく。俺のことだから、きっと自分でヤマを張ったのだと思って気にもしないはずだ。そして、この部分だけを一夜漬けで勉強する。喜べよ奈緒崎。これは徹頭徹尾全問試験範囲だ。今回のお前は冴えている。
 マーカーを引いたフューチャーカンニングテキストを冷蔵庫にしまうと、駄目押しで適当に火を点けた。まあ、どうせ火事で焼けるところだし保険が効くことは知っているから安心だ。こうして見ると、全ては暴力で解決出来るんだな、とも思う。
 あとは異分子である俺が元の時間に戻れば全てが解決するはずなのだが、俺は一つ悪戯心を起こした。どうせならここで事件前の嗄井戸に会っておくのも悪くないんじゃないかと思ったのだ。

 俺は早速英知大学に向かった。デロリアンを停める場所に困ったので、近くの公園に無理矢理停めておく。どうせあの公園には昼から酒を飲む英知大生しかいないから別に構わないだろう。
 高畑教授に奴の取っている講義を聞いて、嗄井戸を待つ。集団の中にあっても、嗄井戸の姿はよく目立った。場違いに優雅な佇まいが、構内で良く目立つ。見慣れたあの黒い服じゃない。ラフな白いシャツに、仕立ての良い赤いコートを羽織っている。それがよく似合っていた。
 折角外に出られたのに、嗄井戸はつまらなそうな顔をしていた。この世の全てに耐えられなさそうな顔をして、てくてくと歩いている。映画の話をしている時に見せるような柔らかい表情は欠片も見られなかった。それでも、あいつが外にいるのが嬉しくて、俺は勢いよく駆け寄る。
「嗄井戸!」
 そう言いながら肩を叩くと、よっぽどびっくりしたのか、嗄井戸が小さく飛び上がる。そして、ゆっくりとこっちを振り向いた。顔色が悪そうなのと、髪が黒いこと以外は俺のよく知っている嗄井戸だった。
「うわー、マジで髪が黒い! あーこれはこれでアリだな……」
「ちょ、ちょっと、いきなり何なんだよ……だ、誰だよお前……!」
「カルバン・クラインだよ」
「何で、BTTF……」
 何がそんなに嫌なのか、嗄井戸はまるで捕食される前の鮭のような顔をして、訝し気に俺のことを見ていた。その反応に、出会ったばかりのことを思い出す。出会い頭に『好きな映画は?』と聞いてこないところが、今との違いだろうか。なんだかそれも無性に面白くて、隙あらば逃げ出そうとする嗄井戸を無理矢理引き留めた。
「ほ……本当に何……」
「まあまあ、時間あるだろ?」
「……俺はこれから講義があって……」
「講義は三回までサボって平気だから。大学生の有給みたいなもんだよ。うわあ、お前やっぱり嗄井戸なんだなあ……」
「助けて…………」
 何言ってるんだよ、助けに来たのは俺だよ! と思いながらも、あんまりでしゃばるのもアレなので黙っておく。これで嗄井戸はあんな酷いことに巻き込まれることもなくなるわけだ。根古屋含む映画研究会と【任意の理由】を引き起こしてくれた【任意の人物】にも感謝するべきだろう。
「……それで、誰、お前」
「うん? 俺は英知大学の学生だって」
「さっきも意味わからない偽名使って……もしかして映画好き?」
「まだまだ最近観始めたんだけどな。『ニュー・シネマ・パラダイス』とか『アーティスト』とか、結構好きなんだ」
「へえ……」
 それを聞いた嗄井戸が、少しだけ表情を和らげる。警戒心のレベルが一段階下がったのが目に見えて分かった。そして、おずおずと口を開く。
「……俺も結構映画好きだよ。あんまりこういう話、誰かとしたことないんだけど……」
 まるでとっておきの秘密を話すかのように、嗄井戸がそう呟く。俺にとってはとっくに知っている情報だった。一番最初に知った情報でもある。だからこそ、それを聞いた時うっかり笑ってしまった。
「誰かとっていうか、お前って誰かと話すことあるのか?」
「何でいきなり喧嘩売ってくるんだよ!」
「いや、流石に今回は俺が悪かった」
「……分かった。読めたぞ。どうせ高畑教授辺りが変な気を回してきたんだろ。余計なことを……」
 苦々しく嗄井戸が呟く。その様子を見る限り、この時点での嗄井戸はよっぽど人間関係に一物抱えているらしい。この頃の俺が何をやっていたかは正直殆ど覚えていないのだが、これならもっと早く嗄井戸と仲良くなっていたら良かったな、とも思う。その時の俺がこの嗄井戸とまともに会話出来るかは怪しいが、思うのだけは自由だ。
「んなことないって。俺はお前に会いに来たんだよ」
「……一から百から訳わからないんだけど、一応ありがとう……」
 ともあれ、ここに俺は存在していい人間ってわけでもない。この嗄井戸と友人になるべきなのは俺じゃないのだ。
「それじゃあ、俺行くから」
「えっ」
「実はここにはちょっとした用事を片付けにきただけなんだわ。……何だよ、その顔」
「別に。ただ、会いに来たって言うくらいなら、……そこまで早く帰らなくてもいいだろ」
 その時、目の前のこいつに『俺は未来から来ました』と言ってみたらどうなるだろうだろうな、とふと思った。からかわれた思うかもしれないが、意外とその与太話を楽しんでくれる気もした。数秒だけ迷ってから、結局やめて、嗄井戸と距離を取る。
「あ、そうだ。今のお前の好きな映画何? 『ストーカー』?」
「何でいきなりアンドレイ・タルコフスキーなんだよ……。確かに良い映画だとは思うけど、特別思い入れがあるわけじゃないかな」
「マジか……マジで?」
「そういう君は何の映画が好きなんだよ。それに名前もまだ聞いてないし」
「また会った時にでも教えてやるよ。好きな映画も。だから、また後でな!」
「……ああそう。待ってる」
 少しだけつまらなそうに口を尖らせながら、それでも笑顔で嗄井戸が手を振ってくれる。
 俺はこうして無事に世界を改変して嗄井戸を救うことに成功したのだった。やっぱり細かいことよりも、人間を救ってくれるのはデロリアンだし、タイムリープなのだ。

 デロリアンに乗り込みながら、俺は根古屋の話を少しだけ思い出す。
 タイムパラドックスにパラレルワールド。戻る先の世界がどう改変されるのか、俺にもまだわからない。この俺がそのままハッピーエンドを迎えられるのか、はたまた世界の修正力やらで上手い事処理されてしまうのか、結局何も起こらないのか。どの結末を迎えるにせよ、俺は満足だった。
 少なくともこれで嗄井戸があんな事件に巻き込まれることはないわけだ。それだけで十分だった。


 気が付くと俺は、青いファイルを持ちながら書類の山の中に立っていた。似たようなファイルが部屋に溢れている所為で、どのファイルが何なのかてんで見分けがつかない。中を開けたら、殆ど読めないドイツ語に迎えられた。何だこのファイル?
「どうしました? 奈緒崎くん」
 振り返ると、そこには高畑教授が立っていた。穏やかな物腰でありながら、相変わらず何を考えているか読めない表情だった。
「私の手伝いを申し出たのは君の方だったはずですが」
「あ、はい、そうでした……」
 確かに、時給千八百円につられて、研究室の片付けのバイトを引き受けたのは俺だった。目の前に無数に広がる青いファイルを見ながら、少しばかりぼーっとしてしまったらしい。だって、普通に考えてこれは『片付け』のレベルを超えている。現実逃避をしたくもなる量だ。
「私は予め『これは時給千八百円に値する労働ですよ。それでもいいですか?』と断っておきましたから。選んだのは君ですよ」
 ……高畑教授の言う通りだ。あの教授が言うくらいだから相当のものだろうと思いながらも、選んだのは俺の方だ。溜息を吐きながら、ファイルの整理に励む。これを分類して段ボールに詰めて倉庫に運ぶ……というこれからの工程を思うと気が遠くなりそうになった。
「それにしても、君があんなに食い気味で応募してくるのは意外でした。私の授業には熱が入らない様子だというのに」
「だって俺は学費一年分余計にかかるじゃないですか。だから、少しでも足しにしないとなって……」
 ぽつりと漏れた言葉に、高畑教授が眉を顰める。
「まさか、何か必修単位を落としたんですか?」
「え、だって、必修ドイツ語……」
「必修ドイツ語? 私のですか? お世辞にも良い成績とは言えませんでしたが、一応君はパスしていますよ。私としてはもう少し勉強して欲しいと言わざるを得ませんが……」
 そう言いながら高畑教授が笑う。目が笑っていない。……そういえばそうだった。確かに何処に出しても恥ずかしくないってわけじゃないだろうが、一応留年は免れたんだった。張っていたヤマが完璧に合っていた時の感動は言い表せない。ああいうのがあるから一夜漬けはやめられないんだよな。
 だとしたらこんなバイトしなくても良かったかもしれない。まあ、別にやることもないし、いいんだけど。臨時収入でパーッとどっかに行くとしよう。

 ふと、棚にある写真立てに目を向ける。高畑教授の部屋には、かつての教え子のものなのか、写真が沢山飾られているのだ。どうしてその中の一枚に目を留めたのかはわからない。何の変哲も無い写真だ。カメラを向けられているのに、やけに斜に構えた表情の男が映っている。
 一秒でも愛想を振りまいたら死ぬ、とでも言わんばかりの顔をしている癖に、恐ろしく顔立ちが整っているお陰で、その全てが愛嬌に昇華されている。こんなに綺麗な顔をした人間を、俺は今まで見たことが無かった。
「……教授、これ誰ですか?」
「雑談で給料を貰おうという大胆さだけは評価しましょう」
「いや、その、違いますって!」
「そこに映ってるのは嗄井戸くんですよ。君の一つ上の先輩です。……優秀な学生でね。気になりましたか?」
「いや、うーん……やっぱり美形って気になるのかもしれませんね」
「君が見習うべきは外見ではなく、彼の勉学への姿勢だと思いますよ」
 じくじくと刺してくるような高畑教授の言葉に耐えつつ、もう一度嗄井戸なる人物の写真を見る。
 顔の作りに目を惹かれたのもそうだが、なんだか何処かで見覚えがあるような気がするのだ。これだけの美形だと、一回会ったら忘れなさそうだが、名前にすら聞き覚えがない。一個上ってことは授業くらい被ってても良さそうなものなのに。
「今その嗄井戸……先輩、って何取ってるんですか? 全然講義被ってなくて」
「彼なら今、フランスに留学しているんですよ。お姉さんと一緒に。フィルム・アーキビングという言葉を知っていますか? 映画保存のことなんですが、それを学びに行ってるんです」
「はあ、兄弟揃って優秀なんですねえ……」
「そうですね。彼らがこの国の映画保存を変えていくかもしれません」
 いよいよ別世界の話だ。映画って保存するものなのか? というところまで含めて、俺とは全く違った人種だった。どうして気になったのかもわからない。
「奈緒崎くんは映画は観るんですか?」
「全然観ないですね。滅茶苦茶小さい頃にドラえもん観たっきりで。多分向いてないんすよ。ああいうの」
「観るといいですよ。君の人生に、きっと良い影響を与えます」
「まあ、機会があったら……」
「そういうことを言う人間に、機会は訪れないことが多いんですよ」
 なかなか厳しい言葉だった。俺が思っている以上に、高畑教授は意外と映画好きらしい。
 それに、教授の言葉にも思うところが無くはなかった。俺の生活はきっとこのまま変化しないだろう。俺は多分映画を観ることはないだろうし、何の関わりもなく生きていくはずだ。
「なーんか別世界の話って感じですわ、全部。いるもんですね、何でも持ってる奴」
「いいえ。そんなこともありませんよ。嗄井戸くんは少々内向きなところがありますから。そこが欠点といえば欠点かもしれません。誰かと打ち解けるどころか、会話すらまともにしているところを見ませんからね。……それが心配なところです。少し踏み出せば、きっと彼の人生も更に良いものになるでしょうが」
「見るからに気難しそうですしね」
「どうです? 君さえよければ、彼のことを紹介しますよ。案外良い友人になれるかもしれない」
「え、いいですよ。今の話聞いて仲良くなれる気しませんし、そもそもそっちの方が嫌がりそうじゃないですか」
「そうですか? 会ってみたら案外、ということもあります。いくら君だって、出会い頭に殴りつけたりはしないでしょう?」
「対人関係のハードル下げ過ぎじゃないですか? どんなサイコ野郎ですか」
 俺は何となく、嗄井戸と話している自分を想像してみる。けれど、結局上手くいかなかった。遠く離れたフランスにいるだろう嗄井戸のことを考える。その瞬間、何故か何とも言えない気持ちになった。懐かしいような、寂しいような、そんな気持ちだ。恐らくは、数日で忘れるだろう名前なのに、一体これがどういうことだろう?
「気が済みましたか? 出来れば手を動かしながら黄昏て欲しいんですが」
「あ、はい。すいません」
 俺は目の前のファイルに集中する。単純な作業に没頭している内に、俺は一体何にひっかかっていたのかすら忘れてしまった。

 結局、高畑教授の部屋を出る頃には日が暮れていた。すっかり暗くなった構内に、イルミネーションが灯っている。学費が灯ると揶揄されるそれを見る度、少しだけ鬱陶しい気持ちになった。今年ももう終わりだ。
「奈緒崎!」
 弾んだ声に振り返ると、同学科の能見が立っていた。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
「俺さあ、般教の単位が怪しくてさ。仕方なく五限取ってんのよ。お前は?」
「高畑教授のとこでバイト」
「はあー、精が出るねえ」
 肩に腕を回しながら、能見がけらけらと楽しそうに笑う。
「そーだ奈緒崎、クリスマスとかなんか予定無いの?」
「あると思うか?」
「だってほら、こずえちゃん居るじゃん。一緒に過ごしたいなーとか言われんじゃねえの」
「別に言われてないな……言われりゃそりゃそっち行くけど」
「ばっか、そういうのはお前から言われんの待ってんだよ。振られても知らねーぞー。可哀想」
「とかいって、何かお前飲みとか企画してんだろ? 呼べよ」
「わかったわかったって」
 能見に揺すられながら、ぼんやりとイルミネーションを見る。
「なんか面白いことねーかなー」
「面白いことなんて作るもんだろ?」
 そう言って、能見はイルミネーションを指さして笑った。

 (了)


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