賢愚経巻十三 梵志施仏納衣得受記品第五十五

 このように聞いた。
 仏が舎衛国の祇樹給孤独園にいたときのこと。世尊は侍者の阿難とともに、都市に入った。その時、世尊の衣に少しやぶれがあった。衆生を済度するために乞食に周り、帰ろうとした時、一人のバラモンが来て礼をした。仏の顔が光り輝いていたからだ。仏の衣に破れがあるのを見て、心から布施をしようと思い、家から少し白い毛氈を裂いてきて仏に施そうとした。
バラモン「願わくば如来よ、この毛氈で衣をつくろいたまえ」
 仏はこれを受けとった。するとバラモンの心は喜びが倍加し、踊りだしたくなった。
 仏はこの人に慈悲をもって未来の定めを与えた。「来たる世の二阿僧祇百劫で仏となるであろう。神通力あってみめうるわしく、仏の十号が満たされるであろう」
 バラモンは、仏の授記を受けて歓喜して去った。
 国中の富豪、賢者、長者、居士がみな思った。〈世尊は少しの布施で大きな果報を与えてくれる〉
 そこで如来のために良い毛氈を裂いて種々の衣を作り仏に奉った。

 阿難は仏にたずねた。「世尊、かつてどんな善行をして皆が衣服を奉施するようになったのですか。どうか教えたまえ」
世尊「よく聴き心にとどめるのです。過去の因縁を説こう」

 はるかはるか昔、毘鉢尸(Vipassī/びばし)という仏が世に出た。その徒衆は九万人いた。 槃頭(ばんず)という王がいて、一人の大臣が仏と僧侶たちを招き三ヶ月の供養を願った。仏は許可し、大臣は家に還り必要な物の準備をはじめた。
 槃頭王もまた、仏と衆僧を供養しようと思い、仏の所に行き、如来と比丘たちへの三ヶ月の供養を申し出た。
 仏は槃頭に告げた。「私は先に大臣の要請を受けている。立派な人は約束を変えないものだ」
 王は宮殿に還り大臣に言った。「仏が我が国に住まい、私は供養をしたい。聞けば卿がすでに供養したいと言ったそうではないか。私に供養を先にさせ、卿はその後に供養をするように請うのだ」
大臣「もし大王が私の身命を保証して下さるのなら、如来もまたこれまで通りこの国に住み、国土を常に安全で災害なくなさるでしょう。これらの事が保たれるなら、私も安心できます」
 そして王の要請をことわった。
 王は思った。〈これはうまく行かんぞ〉
 翌朝、王は言った。「卿が一日。私が一日。交互に会を設けるというのはどうだ」
 大臣はこれを受け入れ、交互に会をもうけた。
 大臣は如来のために三衣を調え、みなが満足した。また、九万人の比丘のための七条衣(今の七条袈裟に相当する)を各人に一領ずつ与えた。

仏「阿難よ、まさに知るべし。この時、大臣がよい衣服を仏と僧に供養したが、それが他ならぬこの私である。私は世々福をふやして厭くことなく、今ことごとく果となり、無駄についやした物はない」
 阿難たちはこの話を聞いて、喜んで福となる業をすることにつとめ、心は踊りたくなるほど嬉しくなった。 そしてありがたくうけたまわったのだった。

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