賢愚経巻第二 慈力王血施品第十三

賢愚経巻第二 慈力王血施品第十三
(慈力王が血を施した話)

 このように聞いた。仏が舎衛国の祇洹(祇園)にいたとき、尊者阿難が昼食の後、林間で坐禅をしていて思った。
〈如来が世に出たことはまことにありがたく衆生はおかげで皆安楽を得ている〉
 また思った。
〈コンダンニャらの五尊比丘はどういう善本をつんでどういう因縁でまず最初の法門を開き入ったのか。法鼓の初めてふるえるのを聞き得たのか。甘露のごとき法が降るのをこうむり潤えたのか〉
 そう思うと座からたち、仏の所に行ってこれらのことをたずねた。
 仏は言った。「コンダンニャたちは過去世で我が身血をもってその飢渇を満たした者達なのだ」
 阿難はどういうことか詳しく教えてほしい、そして衆生にも教えてほしいと言った。
 仏は言った。

 はるかな昔のこと、この大地に彌佉羅拔羅(ミガーラバラ?/漢語では慈力)という大国王がいた。八万四千の小王国を領し、二万の夫人と一万の大臣がいた。王は慈悲があり、四等心があり、つねに一切衆生をあわれんで怠けず、十善を民に教え諭していた。

※四等心とは、四無量心のことで、慈悲喜捨の事です。十善とは十善戒を守ることです。

 四方の国々は王の治世を喜びしたっていて、国土は安楽であった。疫鬼は人の血気を吸うのが生きるすべだが、民が身口意をつつしみ十善を守っていたので手が出せず、飢えて困乏し憔悴して無力だった。
 そこで五匹の夜叉が慈力王の所に行き、かくかくしかじかで我らは身命が保てません、慈悲をもって対処してたまえ、とうったえた。
 王は哀れんで、自らの脈より血を出すため五ヶ所を刺した。五夜叉は持参の器で血を受けて飲み干し、王の恩に感謝し大喜びした。
王「もし汝らが満ち足りたのなら、十善を修せよ。私は今、血をもって汝らの飢渇をすくい安穏ならしめた。成仏の後には、法身の戒定慧という血で汝らの三毒、諸欲、飢渇を除こう」

仏「阿難よ、この時の慈力王が私で、五夜叉はコンダンニャら五比丘である。世々誓願をたて、先に悟ることを許したのだ。そこで我が最初の説法が聞き解脱できたのだ」
 尊者阿難と会衆は、仏の所く説を聞いてますます敬仰し、喜んでうけたまわったのだった。

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