賢愚経巻七 梨耆弥七子品第三十二

※この話には後半が残酷な内容となっています。心を落ち着けて読んでください。

 このように聞いた。
 仏が舎衛国の祇樹給孤独園にいた時、波斯匿(ハシノク)王に梨耆弥(リギミ)という大臣がいた。家は大いに富み、七人の男子がいてそれぞれに妻をめとることになった。六人はうまく行き、第七子が残った。結婚させるにあたって思うには〈私はもう年を取った。残る一人を結婚させるにしても特に慎重であらねばなるまい〉と。
 長者には親交のあるバラモンがいて、そこに行って相談した。「あなたは昔から諸国を旅している。煩わせてすまないが、端正にして賢く知恵のある、我が子にふさわしい娘をみつけ出してくれないか」
 バラモンはこれを承知した。旅をして見て回り、特叉尸利(タキシラ/西パキスタンにある)国に至った時、五百人の童女が群れをなして遊び、花を摘んで飾りにしているのを見つけた。バラモンが観察していると、どんどん前に行く。少しの水がある場所で、女の子たちはみな革靴をぬいだ。ただ一人だけ靴を脱がない子がいた。並んで水に入り、さらに前に行く。その先に河があり、女の子達はみな袋に服をしまって水に入った。ただ一人だけ服のまま入った。先には林があり、女の子達はみな樹にのぼって花をつんだ。ただ一人だけは樹にのぼらず、地面の花をたくさん集めた。
 バラモンはその少女にたずねた。「向こうの女の子達は水に入るとき革靴をぬいだが、君だけは脱がなかった。どうしてだね」
「あんた、何あほなこときくん※。靴は足を守るための物やん。陸地は荊、棘、瓦、石ばかり。見えてたら避けられるけど、水底では隠れてて見られへん。トゲに刺さったり毒虫に刺されたりするやん」
 バラモンはさらにたずねた。「どうして着衣のまま水に入ったのだね」
「女の体はええとか悪いとか言われるやん。服をしまったら見られてまうやん。ええ体ならええけど、不格好なら笑われてまうで」
バラモン「どうして樹に登らなかったのだね」
「樹に登ったら枝が刺さって怪我するやん」
※子供の発言なので関西弁でくだけて訳してみました。しかし、バラモンの老人に「汝癡何甚」とはまた、生意気な子供ですね。

 この子は実はハシノク王の弟の曇摩訶羨(ドンマカセン)の娘であった。羨は昔、罪を逃れてこの国に逃げ、そこで家を構え妻をめとりこの子、毘舎利(ビシャリ)が生れたのだ。 バラモンはこの子の言うことを聞き、必ずや賢い娘だと知り、たずねた。「そなたの父母はおられるかな」
娘「いるよ」
 そこで門までついていき面会を求めた。娘は家に入り父親に外にバラモンが来て会いたがっている、と伝えた。ドンマカセンは外に出て挨拶し、用件に入った。
「その子は君の娘さんですか」
「はい」
「結婚は決まってますか」
「いいえ」
「舎衛国の大臣のリギミをご存知ですか」
「古い知り合いです」
「そのリギミの一番下の子が端正にして聰明、君の娘と婚姻を結びたいと言っています。どうでしょう」
「あの方は大富豪で貴人、とてもつり合いません。それでもいいとおっしゃるのなら、情があってのことでしょう。許可します」
 そこで日を選んで舎衛国にともなっていくことになった。
 バラモンは書状をリギミに送り、事情を説明した。長者はこれを聞いて贈り物を用意し、車馬に乗ってタキシラ国へと向かった。近づくと先に使者を送った。 ドンマカセンは念には念を入れて歓待をしようと、宴席をもうけた。このようにして娘の結婚は万事つつがなくおわった。

 出立の時、ビシリの母がみなの前で娘に言った。「今から後はいつもよい衣装を着て、いつも美食を食べ、毎日鏡を見るのです。絶やしてはいけませんよ」
 娘はひれ伏し、教えを受けた。リギミは陰でこっそりそれを聞き、心に恨みを抱いた。〈人生は一度きり、苦楽は定められていない。よい衣装に美食、鏡を見る生活がいつも続けられるとは限らない。これは理にかなわぬ言葉だ〉
 この思いを抱きつつ、問いただすこともできず挨拶してそこを去った。
 主従ともに帰国する時、途中に休憩所があった。四方に軒があり、きわめて清涼である。先についた者達がその下で休息して、幼妻が遅れてついた。
 舅に言うには「ここは入るんは無理や。外に出よ」
 舅はこれに従って外に出たが、左右の何人かは出たがらなかった。
 その時、象が体がかゆくて柱にこすりつけ、休憩所が崩壊し下人たちが亡くなった。
 リギミは思った。〈今、死を免れたのはこの幼妻のおかげだ。敬って接しよう〉
 そこで扱いはさらに丁重になり、かごに乗せた。こうして帰ってくると、大きな谷に行き当たった。草が茂り水は美しい。皆が谷のそばで休憩した。
 幼妻が後から来て言うには「ここはいやや。岸の上に上がろ」
 その言葉をきいて谷を離れて休息した。すぐに雲が起き雷が鳴り、滝のような雨が降り出した。谷には激流が来た。
 リギミは重ねて思った。〈我らは今日、再び死を免れた、この幼妻のおかげで身命が保たれたのだ〉
 そこでいよいよ丁寧に駕籠で道を進み、本国についた。
 途中にある実家の里に来ると、みながお祝いにおとずれた。長者は喜び饗応してともに楽しんだ。一日がおわり、賓客は去った。長者は幼妻を呼び告げた。「私は今や高齢、たくさんの事務がいやになった。家の器物で欲しいものはみなやろう。君ら庶民にはわかるまい。六人の子の妻が、みな任に堪えないと辞退したなどとは。第七人目の妻ができると言うのなら、蔵々の鍵をみなあずけようではないか」
 そこで蔵の鍵をすべて渡した。
 命を受けたからには勤勉にして怠けてはいられない。朝は日々早起きして堂舎を掃除し、炊事がおわったらまず舅と姑に食事を、続いて一家の男女に、その後は奴婢僮僕に飯を出す。各々を職場に行かせ、作業させる。その後に自らが食べる、というのが常になった。
 舅はこれを見て他の者とは違うと気づき、前に母親が言った言葉に従っていないのを怪しんだ。
 長者はたずねた。「お前さんが来る時、お母さんが言っていたな。いい衣に美食、日々鏡を見よ、と。それはどうしたんだね。説明してみなさい」
 幼妻はひれ伏して事情を答えた。
「お母ちゃんが言うたのはこういうことなんです。いい着物を着ろというのは、大きな衣をまとって護られなさい、いつも清潔にしなさい、お客さんか来たら鮮やかできれいな服を着ていなさいということなんです。おいしいものを食べろ言うんは、甘いもの食べて肥えろというんやなくて、晩飯を少なくして飢えてたら、粗末な食事でもおいしいということなんです。鏡を見ろ言うんは、銅や鉄の鏡のことやなくて、早起きして内外を掃除して、席を整えて清潔にしろいうことなんです。お母ちゃんが言うてたのはこういうことなんです」
 それを聞いた舅は、賢く妙才あることをいとおしみ、前よりさらに手厚く遇した。家中の物はみなゆだね、喜びのまま泰然として憂いはなかった。

 その頃、鴈の群れが海の渚に行っては飽くほど粳米を食べていた。実った穂をくわえて王宮の上に来たとき殿前に落とした。人々はこれを見て、王に奉ろうと持っていき、王も奇好の目で見た。必ずや薬になるだろうということで、種を取って諸臣に与えて植えさせた。リギミもまた少しもらい家で種とした。幼妻が受け取り、奴僕のもとに駆けつけ、畦田を作らせた。種をまくと生長して茂り、大いに増えた。他の皆が植えた種はうまく育たず、みな生えなかった。

 王夫人がにわかに重い病にかかり、沢山の医者に診させた。一人が言った。「海の渚の粳米を食べればよくなるでしょう」
 王は、昔、その種を殖えさせたことを思い出した。そこで臣下たちを召してたずねた。「前に命じて植えさせた稲の種は成熟したのか否か。今、治療に必要になったのだ」
 臣下たちは、植えても生えなかったとか鼠に喰われたとか、色々と経緯を申し上げた。
 リギミは家に帰って幼妻にたずねた。「前に稲の種を植えておいておくれと言っておいたが、みのりは得られたかい。王が夫人の病を治すのに必要だというのだ」
幼妻「たくさん実っています。薬を作るのなら、一人分ならず、一国に足りる分があります」
 そこでリギミは王に粳米を送った。
 夫人に与えると、病は徐々に癒えていった。王はとても喜び、大いに褒美を下した。 時に、タキシラと舎衛の二国は互いを嫌い、いつも不和であった。タキシラ王は舎衛に聖智の者がいるかどうかを試そうとして、馬二匹と使者を送った。この馬は母子で、形も毛色もそっくりだった。識別できる者がいるかという挑戦である。
 ハシノク王と群臣は識別できずにいた。リギミは宮殿から家に帰ると、幼妻に何か手立てはあるかとたずねた。
「たやすくわかります。悩むほどの事ではありません。馬を並べておいしい草を与えるのです。母が子に押して与えるでしょう」
 リギミは王のところに行って伝えた。王はその通りにし、母子の区別ができた。そこで使者に言うと、使者は答えた。「つまびらかなること如来の語のごとし。正解でございます」
 王はとても喜び、さらに沢山の褒美を下した。
 使者は本国に帰りその話を報告した。
 タキシラ王はまた使者と二匹の蛇を送った。見た目も長さも全く同じである。これの雌雄を見分けろという挑戦だ。ハシノク王と群臣にはわからず、リギミが帰って幼妻にたずねた。
「細かな毛氈を敷いて二匹の蛇を置くのです。雌なら静かに動かず、雄ならじたばたして動きます。どうしてかって。女は細やかで滑らかな物を愛し、生れつき柔らかくなめらかな物が好きです。男子は性が剛強なの で、転がされると不安になりじたばたするのです。おわかりいただけました?」
 長者はこれを聞いて王のところに行って伝えた。王はその通りにし、試してみると果たしてその通り、明白に識別できた。
 使者は、正解ですと言い、王ははなはだ喜び、リギミはたくさんの財宝をたまわった。
 タキシラ王は今度は長さ一丈に満たない木を送ってきた。根と梢がわからない真っ直ぐな棒で、節も刀斧の跡もなかった。この木の上下がわかるかという挑戦である。王と諸臣にはわからず、リギミはまた幼妻にたずねた。
「簡単なことです。その木を水中につければ、根の方が沈み、頭の方が上になります」
 長者はまた王に告げ、王はその通りにした。果たしてそのとおりであった。
 使いは言った。「まことにおっしゃるとおりです」
 王はますます喜び、さらに沢山の褒美を下した。
 使者は帰国し、事の次第を王に告げた。
 王はさらに使命を下した。珍しい宝を奉献せよというのである。
「大王の国には賢達がいる。これより以後、友好関係をむすびたい」
 ハシノク王はこれを聞いて躍り上がるほど喜んだ。そしてリギミを召してたずねた。「一連の件、卿はどうして解けたのだ」
リギミ「臣のなしたことではありません。嫁に来た幼妻が解決したのです」
 国王はこれを聞いてとても喜び尊敬の念を抱き、その嫁に会って王妹としたいと言った。

 しばらくして嫁は懷妊し、時が満ちて三十二個の卵を生んだ。
 その卵からは一人ずつ男児が生れ、顔は端正で人より優れていた。大きくなると勇健無双、力は千人力だった。父母は彼らを愛し、国中が尊敬した。
 後に嫁をとることになり、皆、国中の豪傑・賢者の娘と結婚した。時にビシャリの家ではみなに信心が広まり、仏と僧を家に招いて供養し、家中の者が仏の説法を聞いて須陀洹(初)果を得た。ただ末の子だけはいまだ道を得られずにいた。
 白象に乗って外に遊びに出た時のこと。門の外の堀は深く広くて、その上には大木の橋があるばかり。末っ子は橋まできて大臣の子が外から車で来るのとかちあった。どちらも高名な姓なので、橋の真ん中で互いに譲らない。
 ビシャリの子は象の上で怒り、降りて怪力で大臣の子を車ごと堀に投げてしまった。大臣の子は全身が傷だらけになり、節々が痛み、うめきながら家に帰った。そして父に言った。「ビシャリの子が横暴にも侮辱して、私の体を傷つけました。痛くてたまりません」
 父はこれを聞いて悩んだ。〈我が子は哀れだが、 きゃつらは千人力の壮士。そして国王の親族と争っても勝ち目はない。密計をもって怨みを晴らしてやろう〉
 そこで七宝を合わせて馬の鞭とすること三十二本。質のよい鋼で刀を三十二振り作り、鞭の中に収めた。大臣は三十二人の子たちに各々一本ずつ与えて言った。
「諸君らはいまだ年少、馬を駆る楽しみもあろう。よってこの鞭を作り贈る。納めていただければ幸いである」
 いつも手を使って馬を操っていたので、皆は喜んで受とった。
 時に、国法では王に謁見する時は礼儀として帯刀しないとあった。そこで大臣は、三十二人がいつも鞭を持っているのを見て、国王に讒言した。
「ビシャリの三十二人の子は、年は壮年にして力強く一人で千人力です。思うに王を害せんと謀を抱いております」
 王はこれを聞いても心からは信じなかった。そこで再び王に言った。「真偽をつまびらかにして下さい。証拠があるのです。みな鋭い刀を携えていて、馬の鞭の中に隠しています」
 このように強く言うと、王も事は明白になるだろうと探索を命じた。すると大臣の言葉の通りだったので王は信じ、力ある士を選んで宮殿内にひそませて、一人一人召喚しては秘密裏に殺していった。そして三十二の頭を一箱に盛り、しっかりと封印して王妹であるビシャリに送った。
※自分なら大臣が何でそこまで知っているのかを疑うと思うのですが……

 その日、ビシャリは仏と僧にお願いして家で供養を受けてもらっていた。王が送ってきた箱を見て供養の品を送ってきたのだと思い、世尊に食事の後に開けてほしいと言った。みなが食事を終えて満腹になると、座につかせ説法が始まった。
 仏は、この身が無常・苦・空・無我にして、生れつき多くの危険にあいそう長くは生きられないと説いた。皆が煩悩に悩まされ、辛酸をなめて思い通りに行く事は難しく、恩愛ある者とは別れ、互いに悲恋を経験し、身識(身体感覚)に空しく困り、道には無益であること、そしてただ智者のみこの悪を解ける事を説いた。
 ビシャリは突然悟り、阿那含道(第三果/不還果)を得、歓喜して合掌し世尊に言った。
「哀れみもて私の四つの願いを聞き届けたまえ。第一は病気の比丘に湯薬と病に応じた飲食を与えたまえ。第二は看病する比丘にも食事を与えたまえ。第三は遠くから来た比丘にまず供養したまえ。第四は遠くに行く比丘に食料を与えたまえ。どうしてかというと、病気の比丘は湯薬とよい飲食がないがゆえに、その病がひどくなり、あるいは命を落とすからです。病の比丘を見るに、食がなく乞食もできず、早晩亡くなったり錯乱したり、病が愈えがたく怒りを抱くのです。これゆえ食を与えてほしいのです。遠方から来た比丘は異土に来て知識もなく、乞食に行っても悪者に出会ったり、行き倒れに会って瞋恚の心を抱き、喧嘩をしたり破壊をします。これゆえまず食を与えてほしいのです。そして仲間と組ませてください。食料がなかったり仲間を待たずにいると道は危険なのです。毒獣が多く一人で行動すると危難にあいます。それゆえお願いするのです」
※ビシャリ、意外にも釈迦に物申す社会派でした。

 世尊はビシャリの願いを聞き、讃えて言った。「善きかな善きかな、汝の願いは。その徳は弘大にして仏に異らぬ」
 そこで衆僧が祇園に帰り、世尊も去って、そのあとでビシャリは箱を開いて見た。そこには三十二個の頭が入っていた。愛を断っているがゆえに懊悩は生れず、ただ言うには「痛かったろうな、悲しかったろうな。人生には死があり、永遠には生きられず、五道を駆け巡るもの。三十二人の子もそうだった」
 さて、ビシャリの家の親族はこれを聞き、激しい怒りを抱いて声をそろえて言った。
「大王に道なし! 善人を殺した!」
 そして、兵馬を集めて敵討ちをしようとした
 軍は雲集し王宮を取り囲んだ。
 王は恐怖を感じ、仏の所に向かった。
 みなはこれを聞き、軍と馬を率いて祇園精舎を取り囲んだ。

 阿難は、ハシノク王がビシャリの三十二人の子を殺し、ビシャリの一門が仇を討とうとすると聞いて、ひれふし合掌して世尊に言った。 「何の因縁があって三十二人の子は王に殺されたのですか」
※阿難尊者、あいかわらずマイペースです。そこを訊くかという感じです。

世尊「ビシャリの子の三十二人は、今日、王によって殺されたのにとどまらず、三十二人が一時に死んでいる。よく聞き心にとめるのです」

 はるか昔、この三十二人は親友であった。しめしあわせて一匹の牛を盗んだ。その頃、国に一人の老母がいて子息はなく貧困のきわみにあった。泥棒たちは、その家に行き、牛を殺した。老母は喜び、薪と水を提供して牛を煮て喰う事にした。刀を振り下ろそうとしたとき、牛はひざまづいて命乞いをした。 盗人たちはやる気満々で、必ず殺す気だ。
 牛は誓った。「お前らが今、我を殺せば、将来の世で捨て置かぬぞ」
 誓いを立ててから殺された。皆は焼いたり煮たりして競うように食べた。
 老母はこれによって満腹になり、喜んで言った。 「よいお客さんだ。とってもいい日だよ」

 仏は阿難に言った。「この時の牛が今のハシノク王で、牛盗人たちが今のビシャリの三十二人の子だ。この時の老母は今のビシャリである。この報いの結果、五百世にわたっていつも殺され、今に至ったのだ。老母は助けを喜んだので、五百世にわたっていつも母となり、極めて深い懊悩を得た。今、私に会った時、はじめて道証を得たのである」
 阿難は合掌し、重ねて仏に言った。「どんな福を摘んで、豪富の家となり、子は猛健になったのです」
※焼肉をしたら祟られた感じですが、「盗む」と「殺生」という罪業の結果を説いています。

仏「はるか昔、迦葉仏の時、一人の老母がいた」

 三宝を信敬し、家は大いに富み、色んな香を集めて油で練り合わせて仏塔に塗ろうとした。その道中で三十二人に会い、塔に油を塗るのを手伝うことをすすめた。福徳が世々生れますように、端正にして多力となりますように、と願うのだ。
 塔を塗りおえると、三十二人は喜び、皆口々に言った。 「この老母に会ったから我等は福業の種を植えられ、生れかわったら尊栄富貴であるように願えた。いつも我が母とし、我らは子としてあい離れずにいよう。そして仏にあい法を聞き、すみやかに道果を得よう」老母は喜んで親子となる事を許可した。

仏「これより五百世にわたり、この老母の元、いつも尊貴に生れた。今のビシャリが母で、その時の三十二人が殺された三十二人の子なのだ」

 軍勢は仏の説いたことを聞き、怒りの心はやんだ。そして言った。「大王の刑罰は道理にそむいているが、この人は自らまいた種を今、 報いとして受けただけだなのだ。一頭の牛を殺しただけでこの有様だ。ハシノク王は我らの支配者、憎んだり危害を加えるべきではない」
 そして武器を王の前に投げ捨て、哀れみと悔過を請うた。
 王もまた事情がはっきりとして、その罪を問わなかった。
 そこで世尊は投降者を四衆(出家と在家の信者)となし、広く諸法をといた。善業は修すべきで悪行からは離れるべきことと、苦集滅道の四諦の妙法をよく理解する事である。
 会衆として聞いた者は皆、道証を得て、仏教を受持し、喜んでおおせをうけたまわった。

※卵を産んだ件は謎のままでした。そして、三十二人を殺したハシノク王の後世の末路は誰も考えないのね。

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