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法華三部経を読んで 『法華経』その7

14.長者窮子の譬えに寄せて

譬喩品第三における「舎利弗尊者の授記」に感銘を受けた須菩提、摩訶迦旃延、摩訶迦葉、摩訶目犍連の尊者方は、信解品第四において譬喩を説いてその喜びをあらわにする。この譬喩が「長者窮子」の譬えだ。(『法華経』を読むまで、この譬えは釈尊が説かれたものと思っていたが、実は仏弟子方が説かれたものだった。そのことも嬉しい発見の一つ)
そして譬喩を説き終わった後、摩訶迦葉尊者が重ねて偈を説かれる。今回はその偈文の中から味わってみようと思う。

……
仏もまたかくの如し、我が小を楽ふを知ろしめして
未だかつて説きて、汝等作仏すべしと言はず
しかも我等をば、諸の無漏を得て
小乗を成就する、声聞の弟子なりと説きたまふ
……
かの窮子の、その父に近づくことを得て
諸物を知るといへども、心に悕取せざるが如く
我等、仏法の宝蔵を説くといへども
自ら志願なきこと、またまたかくの如し
我等内の滅を、自ら足ることをえたりとおもうて
ただこの事をさとりて、さらに余事なし
我等もし、仏の国土を浄め
衆生を教化するを聞きては、すべて欣楽なかりき
ゆえんはいかん、一切の諸法は
みな悉く空寂にして、無生無滅
無大無小、無漏無為なり
かくの如く思惟して、喜楽を生ぜず
我等長夜に、仏の智慧において
貪なく著なく、また志願なし
しかも自ら法において、これ究竟なりとおもひき
……
我等、諸の仏子等の為に
菩薩の法を説きて、もって仏道を求めしむといへども
しかもこの法において、永く願楽なかりき
導師捨てられたることは、我が心を観じたまふがゆえに
初め勧進して、実の利ありと説きたまはず
富める長者の、子の志の劣なるを知りて
方便力をもって、その心を柔伏して
しかる後すなはち、一切の財宝を付するが如く
仏もまたかくの如く、希有の事を現じたまふ
小を楽ふ者なりと知ろしめして、方便力をもって
その心を調伏して、すなはち大智を教へたまふ
我等今日、未曽有なることを得たり
先の所望にあらざるを、しかも今自から得ること
かの窮子の、無量の宝を得るが如し
……
(國譯経一113~116頁)

ここでは「舎利弗尊者の授記」のところでもあったように、これは声聞のさとりで満足して、志願なく歩みがとどまっていた摩訶迦葉尊者たち(小を楽ふ者)に、方便力をもってその心を調伏して大智を教えられた偈文。それは大乗菩薩道の広大な歩みを得られたことに、心の底から感動しておられるのであろう。

ここのところ、龍樹菩薩の『十住毘婆沙論』「易行品」の説示が思い出された。

阿惟越致地に至るには、もろもろの難行を行じ、久しくしてすなはち得べし。あるいは声聞・辟支仏地に堕す。もししからばこれ大衰患なり。『助道法』のなかに説くがごとし。「もし声聞地、および辟支仏地に堕するは、これを菩薩の死と名づく。すなはち一切の利を失す。もし地獄に堕するも、かくのごとき畏れを生ぜず。もし二乗地に堕すれば、すなはち大怖畏となす。地獄のなかに堕するも、畢竟じて仏に至ることを得。もし二乗地に堕すれば、畢竟じて仏道を遮す。仏みづから『経』(清浄毘尼方広経)のなかにおいて、かくのごとき事を解説したまふ。人の寿を貪るもの、首を斬らんとすればすなはち大きに畏るるがごとく、菩薩もまたかくのごとし。もし声聞地、および辟支仏地においては、大怖畏を生ずべし」と。
(七祖篇3-4頁)

「もし声聞地、および辟支仏地に堕するは、これを菩薩の死と名づく」。龍樹菩薩の苛烈な説きぶりが私の中に刻まれていたのだが、ここ『法華経』を拝読する中にはじめてそれがリンクしてきた。

(また、最近読み終えた『維摩経』の現代語訳。その中の不思議品や仏道品には、この偈文に通じる摩訶迦葉尊者の感動と悲しみが説き述べてあった。法華三部経の後は、『維摩経』や『勝鬘経』の現代語訳に触れてみるかなぁ…?)

仏さまは様々な御方便を駆使して、一切衆生を無窮の仏道へと誘おうとされている。そう思うと、私は『無量寿経』の第三十五願「女人往生」や第十八願および成就文に「唯除の文」が付されている御心が浮かんできた。それは、女人を振り向かせよう、五逆謗法の者を振り向かせようという、如来さまのやるせない御方便。一切衆生と十把一絡げでは見向きもしないへそ曲がりをも、逃しはしないとあの手この手で御催促くださっているのだ。そこに最高の宝物を用意して…
最後、甚だ荒っぽい味わいで恐縮だが、今は出てきたままの言葉を残しておこうと思います。

……
よく下劣の為に、この事を忍び
取相の凡夫に、宜しきに随ひて為に説きたまふ
諸仏は法において、最も自在を得たまへり
諸の衆生の、種種の欲楽
およびその志力を知ろしめして、堪任する所に随ひて
無量の喩をもって、しかも為に法を説きたまふ
……
(國譯経一118頁)

南無阿弥陀仏

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