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どこへ行くあてなく流れては枯れて、水仙の咲く足許を見る

 花を活けられなくなった。

 人間は精神や肉体が壊れると、どんどん感受性が乏しくなっていくものらしい。何も食べても美味くない(だから料理コラムを書きようがない)し、何を聴いても騒音になる。嗅覚もだめだ、長年気に入っていたお香(とても安くていい香りなので金沢から取り寄せていた)から、寿司屋のカウンターに香水をたっぷり振りかけて座るあのクソみたいな匂いがする。

 理屈はわからない、ふつうに考えれば体調の悪化とともに知覚は鈍麻するはずで、味覚に関してはその通りの結果になっているんだけれど、嗅覚に関してはむしろ過敏が前に出ているような気がする。まぁ、しょうがない。いつ嗅いでも不快ではない魔法の香りがある、これに頼ろう。煙草にガンガン火をつけていく、これを依存症というのだけれど。身体が壊れれば壊れるほど、身体に悪いものが美味い。存在しない方が良いタイプの真理ってある。存在するのだから仕方ない。そう、仕方ない。存在するのだから仕方ないし、存在しなくなることを望むのであれば今は手を動かせ。そうやって一日一日を暮らしている。悪くない。

 体調管理なんてとっくにやめた。血圧は上がりたければ上がればいい、血管が詰まりたければ詰まればいい、顎の骨が飛び出したいなら好きなだけ出て来い。そういう気持ちになると、それはそれでわりと清々しい。ふざけたことを言っているのは自覚しているけれど、それはまぁそういう状況にあるということで。長年「流石にこれはだめ、体調がめちゃくちゃになる」と禁じていた、大好物のロングピースを思う存分吸いながらこの文章を書いている。本当はロングホープの方が好きなんだけれど、もう生産すらしていないのがとても悲しい。チェリーの復刻を賭けたオンライン投票が開催された時は期待したものだけれど、そうはならなかった。まぁ、人生そんなものかもしれない。それでも長年自分に禁じていた行為を許してやる、これより気持ちいい瞬間はそうそうないもので。確実にツケはたっぷり利息を乗せて払うことになるんだけども。いいよ、ポケットの小銭まで全部持って行ったらいい。甘くて重たい煙草は美味いし、セブンスターではもう物足りない。

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発達障害ライフハックのような実用文章ではなく、僕がライフワークとして書きたい散文、あるいは詩に寄っていくような文章を書いております。いろいろあって、「善い文章」を目指して書くようになりました。ご興味ありましたら是非。

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