どこにもない家に帰りたいこと
ああ、家に帰りたい。そう口に出してみて、ここは自宅のデスクであることに気づいた。そういうことはときどきあって、じゃあ帰りたい家とはどこなのだろうとよく考える。実家は論外として、十代を過ごした破滅シェアハウスだろうか? それは多分ちがう。あの暮らしはなつかしいけれど、帰りたいかと言われたら「絶対に嫌だ」としか言いようがない。大学時代を過ごしたアパート、これも違う。かつて勤めていた銀行の寮は実家と同じくらい論外だ。こうして考えると、僕は今人生で一番幸福な家に住んで幸福な暮らしをしている。今月の家賃の払いも心配ないし、炊飯器には米も炊けている。なのに、僕の口からは「家に帰りたい」という言葉がついて出る。
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